第4話:村の探索。変なメダルの破壊に命を懸けるのは間違っていますか?

​「……はぁ。はぁ。……よし、誰もいないな」

​ ボク、カイは、広場の喧騒が嘘のように静まり返った民家の壁に背を預け、ずるずるとその場に座り込んだ。

 つい数分前まで、チェーンソーを振り回す狂った大男に追い回され、あわや縦に真っ二つというところで「鐘」が鳴った。

 奴らはまるで定時退社するサラリーマンのように整列して去っていった。……シュールすぎる。怖すぎて笑えないけど。

​「……手が、止まんないや」

​ 膝に乗せた魔導銃を握る指先が、小刻みに震えている。

 中身はただの「ホラーゲームが死ぬほど苦手な日本人」なんだ。

 視界の端で揺れるカーテンの影にさえ「ひっ!?」と短い悲鳴を上げてしまうボクにとって、この状況は精神へのドメスティックバイオレンスでしかない。

​「あー、もう! 怖い! 暗い! 臭い! 帰りたいよぉおおおッ!!」

​ ひとしきり虚空に向かって絶叫し、ボクは震える手でポーチから予備の魔石を取り出した。

 魔銃と魔石はこの世界の傭兵には一般的なものだ。威力も貧弱で扱いやすいことだけが取り柄。

​「……リディアーヌを、助けないと」

​ 捕らわれた聖女、リディアーヌ。

 ボクがこの「狂瀾の村」に足を踏み入れた理由。

 彼女を放っておけば、この村の連中と同じように『星の種(寄生体)』を植え付けられ、自我を失うことになる。

​(……やるしかない。やるしかないんだ。ボクには原作知識がある。どこに何が配置されているか、脳内にマップは叩き込まれてる……!)

​ ボクは立ち上がり、慎重に村の探索を開始した。

 鐘が鳴ったからといって油断はできない。パトロール役の村人が残っている可能性は十分にある。

​ 民家の裏手に回った、その時だった。

​「――ん?」

​ 軒先に吊るされた古い風鈴のようなものの隣に、不自然な「青い円盤」がぶら下がっているのが目に入った。

 表面には不気味な紋章が刻まれている。

​「……出た。出ちゃったよ。『青いメダル』だ」

​ 原作知識が告げている。

 これを全部壊せば、後で「武器商人」から素敵なご褒美がもらえる。

 ゲームなら喜んでナイフを振るう場面だが、ここは現実リアルだ。

​「……これ、壊したら音するよね? 派手に『パリンッ!』とか鳴るよね? 敵が『お? 何の音だ?』って集まってくるフラグだよね!? なんでボク、こんなノルマみたいなことしなきゃいけないのぉおおおッ!?」

​ 壊さないという選択肢もある。

 でも、もしこれを無視したせいで、後々強力な武器が手に入らず、ボス戦でボクが肉塊にされる未来が確定したら?

​「うぅ……っ。結局、壊すしかないんじゃん! 運命の奴隷だよボクはぁああッ!!」

​ ボクは半泣きで、石ころを拾った。

 弾丸を節約するためだ。

 今世で培った精密投擲の技術を、こんな青い皿を割るために使う。

​「えいッ! この、ノルマ代行ぉおおッ!!」

​ ガシャンッ!!

​ 静寂の村に、陶器が割れる乾いた音が響き渡った。

 ボクはすぐさま近くの茂みにダイブする。

​「ひぃっ、ごめんなさい! 悪気はなかったんです! ただの不注意ですぅううッ!!」

​ 頭を抱えて丸まり、しばらく待つ。

 ……。

 …………。

 何も来ない。

​「……ふぅ。……よし。次、行こう」

​ それから数分。

 ボクは村中の「青いメダル」を、絶叫と謝罪を繰り返しながら破壊して回った。

 一箇所、風車の中に隠されていたメダルを割る時は、風車の羽に巻き込まれそうになって「人生の終わりが見えたぁああああッ!」と叫んだが、なんとか無事だ。

​ そうしてようやく、村の出口付近にある小さな小屋に辿り着いた。

 

「……あそこ、何かいる。あそこ、絶対なんかいるよ……」

​ 小屋の隙間から、紫色の松明の炎が漏れている。

 明らかに「ボクは教団の味方じゃありませんよ」と主張している不気味な明かり。

​ ボクは魔導銃を構え、震える足で扉を蹴破った。

​「動くなぁああああッ!! 警察だ! ……じゃなくて、怪しい奴はボクが浄化してやるぅううッ!!」

​ そこに立っていたのは、全身を黒いボロ布で覆った、異様に背の高い男だった。

 男はボクの絶叫に動じる風もなく、ゆっくりとボロ布を広げた。

 その内側には、夥しい数の銃器や魔導具が吊り下げられている。

​「……Welcome(よく来たな)……」

​ カサついた、重低音の声。

​「ひぎゃああああああああああああッ!! 出たぁああああ!! 闇サイトの管理人だぁああああああッ!!」

​「……へっへっへ。いいモノがあるぜ、若大将(Stranger)……」

​「わかだいしょう!? 今ボクのこと若大将って言った!? センスが古ぉぉおおいッ!!」

​ 男はボクの突っ込みを無視し、カウンターに古い魔導ライフルを置いた。

​「……メダルを壊した報酬だ。持って行きな……。ただし、タダじゃあねえぞ……?」

​ 男の目が、布の隙間から不気味に光る。

 ボクは本気で怖かった。

 敵か味方か知らないが、こんな霧の中にポツンと立って商売をしている奴が、まともな神経をしているはずがない。

​「わ、わかった! 払えばいいんでしょ! ほら、さっき拾ったお宝と換金アイテム! 全部あげるから、そのライフル寄こしてよぉおおッ!!」

​ 震える手で金を差し出し、ボクは新しい武器を手に入れた。

 これで、遠距離からの狙撃が可能になる。

​「……へっへっへ。ありがとよ……」

​ 男は闇の中に溶けるように、再び静かになった。

​「あー、もう……この世界、心臓がいくつあっても足りない。師匠、助けてよ……名前思い出せないけど、あの『力こそがすべてだ!』とか言ってた筋肉ダルマの師匠ぉおお……ッ!」

​ ボクは手に入れたライフルを背負い、再び深い霧の中へと足を踏み出した。

 教会の屋根が見えてくる。

 リディアーヌ、待ってて。

 ボクは……死ぬほど怖いけど、君を助けるためなら、あと百回くらいは絶叫してやるから!

​【作者より】

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2026年1月12日 18:00 毎日 18:00

絶叫しながら引き金を引け! 極度のビビりな俺、異世界で寄生体に囲まれるも、恐怖で脳汁が出すぎて銃火器無双してしまう ~聖女を抱えて翔べ~ ベジタブル @kazuyakibou

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