砂漠のスターフィッシュ

あだちのち

安代洋太① エピローグ1


夢を諦めた人。

今の安代洋太を一言で説明するならば、

周囲の人間は必ずそう言うだろう。

ため息をつきながら、25歳フリーターは今日もポテトチップスを綺麗に並べる。


店内ではOfficial 髭男 dismのUniverseが流れており、

夢をふと思い出してしまうのは、本日3回目だ。

『スーパーATAKAMAの目玉商品!特別価格は…』

店内放送に遮られ、物思いに耽る時間が終わってしまう。

こちらは本日2回目だ。


1人黙々と品出しを続けていると、背後からゴロゴロと台車を押している音がする。

そうか、今日出勤日だったのか。


「あと5時間、長いなあ」


いきなりの悪態。


「声漏れてるぞ。店長、意欲と態度には少しうるさいんだから」

「先輩は真面目ですねえ」


夕方5時、出勤してきたのはウルフカットが印象的な、桐生みなみという女性だ。

少しボーイッシュな顔立ちではあるが、小柄かつ女性らしいメイクをしており、

ATAKAMAの看板娘となっている。

全体的に意欲がないので、負のオーラが全開なのが残念ポイントだ。


「今、失礼なこと考えてましたよね。先輩の方がネガティブオーラ全開ですからね」

妙に察しのいいやつ。人の気持ちとかどうでもよさそうなのに。

「意外と私、他人のこと考えて生活してるんですよ」

「嘘つけよ。お前が明君のこと弄んでるの聞いてるぞ」

「風評被害もいいところです」


明君は桐生と同い年で、大学2年生のバンドマンのボーカルだ。

他メンバーもまだ若いが、

有名なレーベルとの契約が決まり、アニメのタイアップの曲も控えているという。

バンドシーンにおいて若者から支持を得ている、かなり勢いのあるバンドだ。

羨ましくなんてないけど、すごくカッコいいなと思う。

無言の時間が少し流れ、ため息混じりに桐生が口を開く。

「この前告白もされましたし、今彼と付き合えば幸せになれるんですけど、その幸せは高い服を着て歩いている時と同じ感覚というか、うまく言葉にはできないんですけど」

「贅沢なやつだな。顔よし、バンドマンのくせに性格よし、そして売れてきている。そんな男が死んだ目をした女のことを好きなんだぞ」

「ほんと失礼ですよね、先輩って」


不機嫌になった桐生と目を合わせないように、淡々と品出しを続けた。


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