生まれ変わったらケルベロスとか聞いてないんだけど!? 〜陸上部ギャル三人、首が三つで異世界デビュー〜

@antomopapa

陸上部ギャル三人、首が三つで異世界デビュー


放課後。


 夕焼けとコンビニの看板がやたらエモい時間帯。


「今日のスタート練、マジで無理だったんだけど」

 短距離担当・リナが、紙パックのカフェオレを振り回しながら言った。


「それな。短距離って一瞬で終わるから楽とか言う人いるけど、あの一瞬に命かけてるからね?」

 長距離担当・カホは、公園の地面に大の字になっている。もう立つ気はない。


「二人ともまだ走ってるだけいいじゃん」

 高跳び担当・ユキはベンチに腰掛け、ストレッチしながら言った。

「私なんて今日、バー三回連続で落として、顧問に『集中力』って言葉百回くらい浴びせられた」


「集中力って魔法じゃないからね?」

「それな」


 三人は顔を見合わせて笑った。

 いつも通りの、どうでもいい放課後。

 ここが、人生の分岐点になるとは、誰も思っていなかった。


 ――ゴゴゴゴゴ……。


「え、なに?」

 低い音が、地面の奥から響いた。


 次の瞬間、世界が揺れた。


「ちょ、地震じゃん!」

「でかくない!?」

「え、待って待って、地面割れて――」


 公園の中央に、一直線の亀裂が走った。

 アスファルトが裂け、土が崩れ、重力が仕事を始める。


「ちょっと無理!!」

「無理無理無理!!」

「聞いてない!!」


 三人は、叫びながら暗闇へ落ちていった。



「……ねえ」


 誰かの声で、意識が戻る。


「……生きてる?」

「……たぶん」


「返事あるってことは、生存判定でいいよね?」


 薄暗い。

 湿った空気。

 岩の匂い。


「ここ、どこ……?」

 リナが体を動かそうとして、固まった。


「……体、動かなくない?」

「それな」

「ていうか、なんか距離感おかしくない?」


 三人は必死に体を動かそうとする。

 前に進もうとすると、もぞもぞと変な感触があった。


「……進んでる?」

「進んでるけど、歩いてる感ゼロ」

「ねえ、私たち今どうなってる?」


 前方に、淡く光る場所が見えた。

 地底湖だ。


「水ある!」

「助かった……」


 湖面を覗き込んだ瞬間、三人は同時に固まった。


「……え」

「……犬?」

「……しかも、首、三つない?」


 映っていたのは、黒くてデカい犬。

 しかも三つ首。


「……これ」

 カホが、震える声で言う。

「私たち……一匹じゃない?」


「一匹だね」

「完全に一匹」


 首が三つ。胴体は一つ。

 どこからどう見ても、伝説の魔獣。


「……ケルベロスじゃん」

 リナが言った。


「地獄の番犬の?」

「門守るやつ?」

「死後の世界の?」


 三人は黙った。


「……夢でしょ?」

「こんなリアルな夢ある?」

「水冷たいんだけど」


 話し合いの結果、結論は一つだった。


「ここが地球か異世界かは、外出ないと分からなくない?」

「それな」

「じゃ、行くしかなくない?」



 洞窟を進みながら、三人は少しずつ異変に気づいた。


「ちょ、勝手に突っ込まないで!」

「してないし!」

「今のリナだよ!」


 どうやら、戦闘時はリナが前に出るらしい。

 敵っぽい影を見ると、自然と体が前に出る。


「移動は私っぽい」

 カホが言う。

「なんか、一定ペースで進むの楽」


「壁登るの私だわ」

 ユキが言い、垂直の岩壁をスイスイ登る。

「高跳び、伊達じゃないんで」


「……役割分担すれば、喧嘩減らせるくない?」

 その一言で、だいぶ楽になった。


 最初の敵はスライムだった。


「……噛む?」

「噛むしかなくない?」

「いくよ?」


 ――パク。


「……え」

「……美味しくない?」

「極旨グミなんだけど!?」


 戦闘はどんどん雑になっていった。


「噛みつき三連!」

「火魔法いくよー!」

「雷落とす!」

「氷で固める!」


「私たち、強くない?」

「ていうかケルベロス強すぎ」

「元女子高生なのに」



 洞窟の最奥。

 巨大な扉の前に、黒い竜が立っていた。


「はい来た」

「ラスボス感やば」

「絶対ダークドラゴン」


 激戦。

 一進一退。


「今だよ!」

「合わせて!」

「せーの!」


 三人の魔力が一つになる。


 ――合体魔法【光】。


 閃光の中、ダークドラゴンは崩れ落ちた。


「……ドッカンベロン……」


「なにそれ」

「死に際の言葉それでいいの?」

「意味不明すぎ」



 扉の向こうに広がっていたのは、見たことのない世界だった。

 空はやたら青くて、地平線は無駄に広い。


「……ここどこ?」

「異世界確定でしょ」

「ていうか、帰り方説明とか一切ないんだけど?」


 三つの首が同時にため息をついた、その瞬間。


 ――視界が、ぐにゃりと歪んだ。



「……あれ?」


 次に目を開けたとき、三人はコンビニ横の公園に立っていた。

 夕焼けも、人通りも、さっきまでと全く同じ。


「時間……止まってない?」

「一秒も経ってないんだけど」

「夢オチにしてはリアルすぎ」


 三人は顔を見合わせる。


「……昨日のって、何だったんだろ」

「集団幻覚説」

「それにしてはグミ美味しすぎた」


 次の日も、三人は自然と公園に集まっていた。


「なんかさ」

 ユキが言う。

「行けそうな気しない?」


「分かる」

「変な確信ある」


 リナが、ニヤッと笑って言った。


「……ドッカンベロン」


 世界が、再び歪んだ。


「ちょ、待っ――!」

「また!?」

「だから聞いてないって!!」



 気づけば三人は、ケルベロスの姿で、洞窟の出口に立っていた。


「……ほんとに合言葉じゃん」

「行き来自由とかチートでは?」

「私たち放課後何してんの?」


 三つの首が顔を見合わせる。


「とりあえずさ」

 リナが言う。


「部活終わりに異世界行くの、ルーティン化しない?」

「アリ」

「ていうか目的一つあるし」


 三人は声をそろえた。


「「「またスライムグミ食べに行こ」」」


 こうして――

 陸上部ギャル三人は、

 時々ケルベロスになって異世界でおやつを調達する生活を始めた。


 たぶん明日も。

 部活帰りに。

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