美しい平和の着方~ファッションは世界を変える~

@hosimizu_sitau

第1話 ジーナinナカジーマ

 朝起きると、私の中に、もう一人の記憶があった。連続的ではないけれど、沢山の写真が頭の中にあるような感覚。色々な人に呼ばれていた名前は中島駿。二ホン生まれの21歳、学生。勿論、私との面識はない。その人がどうなっているのかも当然知らない。

 私はジーナ・クラウス、ラルフ国クラウス領を治めるクラーク・クラウス侯爵の一人娘。二ホンと言う国がどこにあるのかも知らないし、そもそも私は男ではない。17歳の、ピチピチの女だ。

 ピチピチというワードセンスは、ジーナではなく、中島のものである気がするが。とかく、ジーナは美しい令嬢だった。

「ジーナ、起きてるかい?」

父が私の寝室の扉越しに尋ねてきた。寝起きではないようだ。声が出ている。

「起きています」

私の声を聞くと、するすると侍女たちが部屋に入って来た。

「お願いするわ」

いつも通りに手を広げ、ドレスに着替える。

うっ!

コルセットを閉められる。窮屈だ。なんだか今日はいつもより窮屈だ。

そうだ、あの中島という奴の記憶の中で皆が着ていた服は、ゆとりがあってとても楽そうだった。あれは、さぞ着心地が良いだろう。私もああいう服が欲しい。間違いなくストレスがいくつか減るだろうに。

 ぼんやりと窓の外を眺める。外に広がるのはクラウス家の庭園で、緑と朝日が照り輝き、美しく麗しく、贅沢を絵に書いたような一光景だった。ジーナの部屋に取り付けられた大窓の位置は、この景色を切り取るために設計されていた。このような細部にまで施された職人のこだわりを感じるのが、ジーナは好きだった。生来の凝り性だったのだ。


 着替え終わると、朝食の席に、頭を掻いた父がいた。私が席につくと、かしこまって話始めた。

「戦争が終わって、ずいぶんと平和になったもんだが、なにせ退屈だね。時間も富も余らせるだけではもったいない。これを機に、クラウス家は商売に力を入れようと思っている」

「それは随分急な話ですね。お父様」

「先日の立食会で、交流のある御家の方々も、商いを考えているらしいと聞いてね。ここから家を盛り立てるには、確かに新しい事をする必要があると思ったんだ」

どうやら都近くの貴族に吹き込まれたらしい。

「ジーナ、お前にも何か、ひとつ事業をやってほしいと思っているんだが、どうだ?」

「私が?私に何かが務まるでしょうか」

「これからの時代は女性が力を持ち始める時代だよ。戦争も終わった。奥方に助言を求めている方も多いらしい。もう女性が縛り付けられる世ではないのだ」

今現在、腰の辺りで縛られているのだが…と思いながら父の話を聞いて、ふと思った。

「それならば私は、素敵な服を作りたいですわ」

「いいじゃないか」

「でも、服飾に関する知識があまりに乏しすぎます」

「ここから勉強すればいい。なに、時間は大いにある。都の御令嬢やご子息の中にも洋服を作ろうとしている人たちがいるらしい、そのうち交流も取れるだろう」

「それではライバルが多そうですね」

「それらに打ち勝つ戦略を練り、ブランドを立ち上げれば良い」

「お父様は何か考えていらっしゃるのですか?」

父がにやにやしている。何かよからぬことを考えていそうだ。

「私は、軍隊の備品を買い叩いて、それを市場に流す卸売りをしようと考えている」

そんなもの、売れるのか。疑問は尽きないが、今は私のことだ。今求められているものは何か、戦略を練らなければ。

「うちの侍女衆にもファッションに興味がある者はいる。針子と共に戦略を練るといい」

クラウス家プロデュース、アパレルブランド、名前はまだない。まずは、情報収集だ。

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