あ〜した天気になあれ

たい焼き。

明日はきっと晴れる

 今日は、朝から雨が降っていてどことなく気が滅入る。

 ちょうど会えた冬美も朝から元気がなかった。

 私と冬美は朝の通学電車が同じになることが多いので、学校の最寄り駅でおりた時にいつもお互いがそれとなく挨拶をしてそのまま登校する。


「冬美〜、おはよっ」


 冬美の後ろ姿を見つけた私は駆け寄って、冬美の肩をぽんと叩きながら声を掛けた。


「あ……智世ともよ、おはよ〜……」


 私の声に反応する声は小さくて覇気がない。

 びっくりして冬美の顔を横から覗き込むと、目が腫れている。


「えぇ〜、ちょっと冬美、目ぇ大丈夫?」

「うぅ〜……見ないで……見ないで……」

「妖怪ミナイデがここに誕生したか……。で、どうしたの、ってかゴメン、コンビニ寄っていい?」

「人に話振っといて自由すぎ。……待って、あたしも行くー」


 私たちは学校に行く前に駅前のコンビニに寄って、学校で飲むお茶とか、休み時間に食べるお菓子とかを買った。

 駅から学校までは歩いて10分ほどの距離だけど、校門までゆるい上り坂になっている。


 私たちは学校へ向かいながらいつも他愛ない話をするんだけど、今日の話題はひとつしかない。


「さて、冬美さん。その目、どうしたのよ?」

「いや、まぁ……色々あって……」


 冬美は言いたくないのか、言葉を濁す。


「あ、そうそう。はい、コレ」


 私はさっき寄ったコンビニの袋から冷たいペットボトルを取り出すと冬美に渡す。

 冬美は受け取りつつも不思議そうな顔をして私の方を見る。


「とりあえず、目が腫れたら冷やしたら少しはマシになるっしょ」

「ありがと、智世……。デキる女は違うねぇ〜」

「ふふん、もっとあがたてまつりたまえ」


 朝、声を掛けたときよりも冬美の声が元気になった。


 学校への道は途中から表門への道と裏門への道へと分かれる。

 裏門の方へ向かえば、車は全然通らなくなるので片目ずつ冷やして歩いても大丈夫だと踏んで、私たちは裏門へ向かう。


 その間、核心には触れづらくて学校の課題とか当たり障りのない会話をしながら目の具合を確認したりした。


 教室に着く頃には冬美の目の腫れもだいぶ引いていた。



 私と冬美は由緒正しき桜咲おうさき女学院に通う高校2年生。クラスも同じだけど、席は少し離れている。

 授業中、冬美の様子を見てみるとこっそり机の下でスマホを見て泣きそうな顔をしていた。


 また……。


 休み時間は友達といるせいか、授業中に見せた泣きそうな顔は全然見せない。

 けど、やっぱり授業中にこっそりとスマホを見ては悲しげな表情を浮かべていた。


 私はどうしても気になって、帰りに冬美に声を掛けた。


「ねぇ、今日の帰り、ちょっと付き合ってくれない?」

「あ、あー……今日じゃないとダメ?」


 冬美はうつむき気味で私と目を合わそうとしない。

 多分、私の誘いに困っているんだろうな……眉毛が八の字になっている。

 それでも友達が悲しんでいたら、少しでも原因を取り除いてあげたいし私にできることをしてあげたい。


 結局、冬美を無理やり説得して学校から少し離れたファミレスで冬美の話を聞くことにした。

 ここならドリンクバーもあるし、軽食もデザートもあるから長話にはもってこいなんだよね。


 私たちは入口で受付をして、窓際の4人がけの席に座った。


「えー智世、ただファミレスに行きたかっただけ〜?」


 冬美は席について、メニュー表を広げながら軽口をたたく。

 私は座席のタブレットからドリンクバー2つと大盛りポテトフライ、一口サイズのフライドチキン盛り、ベーコンとほうれん草のソテーを頼んだ。


「とりま、これだけあればプチ女子会できるっしょ」

「……ほうれん草のソテーだけ、系統違くない?」


 冬美はケラケラ笑うけど、まだ少しぎこちなさがある。


 私たちはそれぞれドリンクバーから好きな飲み物を持ってくると、ちょうど店員さんがほうれん草のソテーを持ってきてくれた。


「お待たせいたしました、こちらベーコンとほうれん草のソテーでございます」


 店員さんはテーブルにお皿を置くと「他のご注文はもう少々お待ち下さいませ」と行って厨房の方へ戻っていった。


 私はいそいそとフォークを手にとると、冬美が「やっぱこれだけ何か違うって」と言いながらフォークを手に持つ。


「いや食べる気満々じゃん」

「まぁまぁ。いただきまーす」


 冬美が大きな口を開けてほうれん草をぱくり。

 私も「いただきます」と言ってから冬美に取られないようにほうれん草を口へ運ぶ。


 すると、先程の店員さんがポテトフライとフライドチキンを持ってきてくれた。


 冬美は「やっぱポテトは正義だよね〜」と今度はポテトフライを口いっぱい頬張る。


 この姿だけ見ていると「食いしん坊な女子高生」だけど、私から見るとかなり無理をして明るくいようとしているように見える。


「ねぇ……冬美、無理しないで大丈夫だよ……一体何があったの?」

「……っ」


 冬美はテーブルに視線を落として何かを我慢するように唇を噛んだ。

 やがてその唇が歪むと冬美は俯いて両手で顔を覆い、小さく肩を揺らしはじめた。


「うっ……うぐっ……」

「我慢しなくていいんだよ、冬美……」


 私は手を伸ばして冬美の頭を撫でると、冬美はテーブルに突っ伏してとうとう小さく泣き始めた。


「うぅ〜……理仁りひとに、昨日、別れようって……あたし、何でって……」


 冬美が声をつまらせながらぽつりぽつりと話す。

 理仁って確か冬美と同じ中学で、今は都内の共学に行ってるんじゃなかったっけ……。

 耳にタコができるくらい、冬美が彼氏自慢をしていたからイヤでも覚えたわ。


「え、冬美、何かしたの?」

「何もしてないよぉ〜……今のクラスにね、好きな人が出来たんだって……」

「は? なにそれ。許せんのだが」


 恋人のいない私には、冬美の彼氏自慢はイラッとするときがあった。

 でも……。


「冬美の良さがわからんヤツのために泣くの、もったいないからヤメなよ」

「……だってぇ……」

「確かに彼氏の話してる時の冬美は、めっちゃキラキラしててすごい可愛かったけどさ。その良さをアイツはわからなかったんでしょ。マジ無能だし」

「智世ぉ……」

「冬美の良さをちゃんとわかってくれるヤツと恋愛したほうが絶対良いから。そんなヤツ忘れて、次いこっ、次」


 私は怒りのまま一気にまくし立てると、その勢いのままポテトフライを頬張り、オレンジジュースを一気に飲み干す。

 そんな私を見て、冬美がおかしそうに笑う。


「私が振られたのに、何で智世が泣きそうな顔で怒り狂ってんのぉ……。もう……意味わかんない……」


 冬美もポテトフライを口いっぱい頬張って、烏龍茶をゴクッゴクッと飲んでいく。

 冬美が喉を鳴らすたびに目に生気が戻ってきているような気がする。


 プハーッと飲み干すと、冬美の目は怒りに燃えていた。


「そうだよね、理仁ってば、好きな人出来たから別れよってメッセのあと、あたしの事ブロックしたんだよ!? ひどくない!?」

「はぁ!? なにそれ、マジでありえないんですけど」


 冬美は悲しみを怒りに変えて、ポテトフライとフライドチキン、ドリンク片手にずっと元カレの不満を私にぶつけてきた。

 私はだんだんおもしろくなってきて「そんなヤツ願い下げだー」とか「もっといい奴が近くにいるかもよー」とか茶々を入れたりした。


 30分も話したところっで、冬美はかなりスッキリしたようで「何かスッキリした〜!」と爽やかに笑った。


「よっしゃ、良かった良かった。じゃ、次を探しつつしばらくは友情を育もう〜」


 私が冗談交じりに言うと、冬美は目を細めて小さく何か言った。私にはそれを聞き取ることができず、聞き返そうとしたら冬美が遮るように声を被せてきた。


「いやーしばらくは彼氏はいらないかも。あたしには智世がいてくれればいいや〜」

「えー何それ〜」

「ホントホント、愛してるぜ、智世ぉ〜」


 冬美が悪ふざけするように私に絡む。


「元気がでたなら何よりですわ。私たちのより良い友情にカンパーイ!」

「カンパーイ!」




 冬美の元気が出たところで、今日は解散しようとお店を出ることにした。


「本日のお会計は1800円になります」

「はーい」


 お会計も終わり、お店を出ようとしたら店員さんが何かを手に小さな声で話しかけてきた。


「ごめんなさい、ちょっと聞こえちゃいまして……。きっと次は素敵な人が現れますよ」


 そう言って、「恋守」と書かれた小袋のお菓子を私たちにくれた。


「ありがとうございますぅー」


 と、なんともない顔でお店を出た冬美がポツリと呟いた。


「ねぇ、さっきの店員さん、めっちゃ良くない!? 惚れそう〜」


 夕暮れ空にはいつの間にか綺麗な夕日が見えていた。

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あ〜した天気になあれ たい焼き。 @natsu8u

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