Last Witches 8

  ※



 土曜日の午前、それも早い時間。俺と佳蘭は地元の駅にいた。別にそう久しぶりってわけじゃなく、鉄平の葬式以来の帰省だっていうのに不思議と懐かしさを感じた。

どこか普段と空気の味が違う気がする。別に新幹線で一時間もあれば帰れる程度にしか離れちゃいないっていうのに。まあそれだけ地元ってやつは特別ってことなんだろう。

 駅を出て予約していた店でレンタカーを借りる。俺の地元は新幹線が通ってるくらいにはデカい街だが、それでも足として車が必須になってくる程度には田舎だ。本当はお袋の車を借りる方が安上がりだが、タイミングが悪く仕事だった。

 白の軽自動車で見慣れた道を走る。ちらりと助手席に座る佳蘭の顔を見ると、澄ました顔で外の景色を見ていた。思わず溜息が出る。

 新幹線からここまで佳蘭と会話はない。別にデートってわけじゃないし、佳蘭はこういうやつだ。無言だろうとそこまで気まずくはないが、それでも思うところはある。

「なあ」

「どうかした?」

「いや……。天方山行く前に軽く寄りたい所あるんだがいいか?」

「別にいいわよ」

 ったくせめて俺の方ぐらい向けよ。外に視線を向けたままの佳蘭に、心の中で文句を吐き出す。とはいえ佳蘭はこういう奴だ。ハンドルを切って大通りを左折する。

 大通りから外れ、どんどん寂れていく街並み。訝しむように俺を見る佳蘭を無視して車を走らせる。事前に決めていたことじゃなくて、それこそ新幹線の中で思いついたことだった。

 二十分ほど車を走らせ、目的地へと着いた。小さな駐車場に車を停める。俺の目的が掴めたのか佳蘭は納得したように軽く頷いた。そこは小さな墓地。地元に行くんだったらあいつが、鉄平が眠るこの場所に寄っておきたかった。

 墓地の場所までは知っていたが、墓の詳しい場所までは聞いていない。佳蘭と二人して探して、ようやく見つけることが出来た。

 おそらくあいつの家族の誰かが供えたであろう花はまだ新しくて、まだ悲しみが色濃く残っているのが伝わって来た。静かに目を瞑り手を合わせる。

 無心の鎮魂。鉄平に月光を渡した奴に報いは受けさせた。だが俺の復讐は終わっちゃいない。むしろこれからだ。俺が本当にどうにかしなければならない存在についてはまだなにも、手掛かり一つ掴めていない。こんな状況で鉄平に報告することなんて、なにもなかった。

 目を開け静かに立ち上がる。隣を見れば佳蘭が悼むように手を合わせている。正直佳蘭にしてみれば赤の他人の墓参り。それでもこうして真剣な顔で祈りを捧げてくれている。それが堪らなく嬉しかった。

「そろそろ行こうぜ」

「そうね」

 ゆっくりと鉄平の墓を後にする。最後にもう一度振り返った。また来るぜ。心の中で鉄平に語り掛ける。

墓地の小道を佳蘭と並んで歩く。次に鉄平の墓参りに来る時には何かお供え物でも持って来よう。いや、俺とあいつとの関係性考えたら物よりも土産話の方がいいかもしれない。例えばガキの頃から連載してる少年漫画の結末とか、鉄平のことだから気になって仕方ないはず。思わず拳を強く握りしめた。

 なあ鉄平。俺はさ、そんなくだらねぇ話をお前としてぇんだ。俺たちは今完全に道を失っている。もし天国ってやつから俺たちを見ているんだったら、頼むからなにか手掛かりをくれ。

 墓地の入口からこっちに向かって歩いてくる人がいる。このまま進めば俺たちとすれ違う。ふわりと穏やかな風が吹き、在りし日の匂いがして思わず俺は足を止めた。

「……もしかして、高戸くん?」

 あれから何年経っただろう。心臓がきゅっと甘く締め上げられた。あの頃と同じように艶やかな黒髪をポニーテールにして、驚いた顔をしているその女性に思わず苦笑いが出る。俺の記憶の中と全く同じ姿が嬉しくて、それが余計に苦しい。

「お久しぶりです。星野先生」

 星野飛鳥。俺の初恋の人がそこにいた。

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白滅の月 ③ソラとの再会 山﨑或乃 @arumonokaki

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