マーリンの娘、推し活が楽しすぎてアヴァロンに帰れない。
采火
マーリンの娘、推し活が楽しすぎてアヴァロンに帰れない。
駅の壁をハイジャックしているゲーム広告の巨大ポスターを見て、ニアはお腹を抱えて笑った。
「ダディ、すごいイケメーン。本物の百倍くらいイケてるんじゃない?」
《かっこよく描かれているのは嬉しいが、これはもう別物ではないかぁ! 私は金髪だ! 銀髪ではない!》
しょぼくれる声はニアの右耳にかかっているイヤホンから聞こえた。通りがかる人々はイヤホンから盛大に音漏れしている銀髪の少女に眉をひそめている。ニアは視線の意味に気がつくと唇を尖らせた。
「ダディ、声が大きい。Tone it down.」
《少しくらい良いではないか。これくらいの雑踏ならすぐまぎれるし。擬態だって完璧だ》
「まぁねー。昔と違って、こんな便利なもので誤魔化せちゃうんだから」
ニアはイヤホンを触りながらにへらと笑った。
《とはいえだなぁ……なぁ、ニア。いい加減、アヴァロンに帰らないか》
「えぇー。まだマミィがダディにかけた封印を解く方法を見つけてないじゃん。帰れないよ」
ニアが答えると、イヤホンから深々としたため息が聞こえてくる。
《私の封印はもういい。ニアが持つ
「イーヤ。マミィのことが大好きなダディのために、封印を解く方法を探してるんだよ? なのにそんなこと言うんだ?」
《アッ!? おい、ニアっ》
ニアはイヤホンを耳から外すと、イヤホンケースの中にしまった。うるさいイヤホンはケースにしまうに限る。
それからポスターをもう一度眺めると、ゲームのタイトルと描かれたキャラクターの名前を読んだ。
「〝ブリテン無双より賢者マーリン〟ねぇ。ダディってば戦えないのにアクションゲームのキャラクターにされてるの、何回見ても笑う」
ニアが〝ダディ〟と呼ぶイヤホンの正体こそ、このポスターのキャラクターのモチーフになっている人物だ。今やアヴァロンのとある石の下に封印されているせいで人間の姿形なんて遠い記憶の彼方。その上、封印された当時から千五百年も経っているのでまともな絵姿も残ってやしない。
それでも人類の想像力の逞しさは底しれず、こんなにも美男に描ききるとは。そう思うと、またニアは一人でお腹を抱えて笑い出した。
一人でお腹を抱えて震える少女を、通りすがる人々がちらちらと横見しながら通り過ぎていく。駅に集まる人たちの大半は時間に追われるように移動しているので、様子のおかしい少女が気になってもそのまま通り過ぎていく。
そんな中、お腹を抱えて肩を震わせているニアに声をかける奇特な人が現れた。
「貴女、大丈夫? お腹痛いの?」
「ふぇ?」
ニアはびっくりして顔を上げた。ニアの肩を叩いて声をかけたのは、さっぱりとしたワンレンボブがよく似合う大人の女性。黒曜石のようなつるりとした目にニアのきょとんとした顔が映る。
「貴女、海外の人? 私の言葉通じるかしら……How are you?」
「あっ、ごめんなさい。すごく元気です。日本語話せます」
「あらやだ、恥ずかしい!」
女性はちょっと頬を赤らめた。それから咳払いして、じっくりとニアのことを見つめる。
「お腹を抱えていたけど、本当に大丈夫? 気分が悪かった? 無理しなくていいのよ?」
「あっ、いいえ! 本当に違います! ちょっと思い出し笑いしてただけです!」
「そうだったの。何もないなら良かったわ」
「はぁい」
女性は朗らかに笑うと、それだけ言って立ち去ろうとした。ニアはただ見送ろうとして――その女性が肩からかけているトートバッグに目を奪われる。
「ああぁっ!」
「えっ、どうしたのっ?」
「その痛バ! 〝聖剣乱舞〟の〝干将・莫耶〟!?」
「あら。貴女も〝聖剣乱舞〟好き?」
「もちろんです〜! 夫婦剣、最推しです……っ」
この瞬間、ニアと女性は心が通じ合った。そう、推しが同じ。あまりにも強い仲間意識が芽生えてしまった。
「お姉さん、これからどこかに行かれるんですか?」
「〝聖剣乱舞〟のアニカフェ抽選に当たったから、これから行ってくるの」
「え〜! 良いですね! 私も行きたかったんですけど、抽選落ちちゃったんです〜。楽しんできてくださいね」
親切にも声をかけてくれた女性に、ニアは今日一日幸あるように祈ることくらいしかできない。そもそもニアが紛らわしいことをしてしまったのが悪いけれど。
貴重な時間を奪ってしまったと気づいたニアがいってらっしゃいと促すと、女性はちょっと考えるような仕草をして。
「……今回のアニカフェ、枠一つで二人までいけるのよね」
「そうですね。お姉さんもどなたかと待ち合わせしているのでは? 急がないと間に合わなくなりませんか?」
オタクあるあるだけれど、アニメカフェ系ではメニューを一品頼むごとに一個何かしら特典が付く。特典はランダムなことが多いので、同伴者を連れて推しを出す確率を少しでもあげるパターンが多い。
この女性もそうだろうとニアが思っていると。
「私、同伴者が来れなくなっちゃって一人なのよ。時間があるなら一緒に来る?」
これはなんて僥倖!
ニアは目を輝かせた。
「行きます!」
こんなことをしているからアヴァロンに帰れないのだ、と小言をたれるダディの念が届いた気がした。が、ニアはせっかくの推し活チャンスを逃すつもりはなかった。
「アサミさん、今日はありがとうございましたー。いやー、声かけてもらえて良かったです!」
「私も嬉しいわ。カフェ限定のブラインドグッズ、ニアちゃんのおかげで、いつもなかなか当てられない推しがすんなり集まったもの……!」
推しの話に花を咲かせながらアニメカフェを出た二人は、帰路でお互いに感謝の気持ちを伝え合った。ニアは誘ってもらえたことにすごく感謝しているし、カフェに誘ってくれた女性こと、アサミもまた推しグッズの入手率がいつもより高かったことに大満足している。
ちなみに今回の引きの良さは、ニアがほんの少しばかり父親譲りの不思議な力を使ってアサミの欲しいグッズを狙い撃ちした結果だ。かなりのズルだけれど、人のために使ったのだからきっとダディも許してくれるはず。
「アサミさんは〝干将・莫耶〟だけじゃなくて〝エクスカリバー〟も好きなんですね」
「そうなのよー。やっぱり看板キャラは顔が良いし、声も良いし、なんたって供給もあるし……!」
〝聖剣乱舞〟においてアサミの最推しは〝干将・莫耶〟だが、今回のアニメカフェではピックアップキャラクターだった〝エクスカリバー〟も狙っていたようだった。アサミの満足げな表情に、ニアもそれは良かったとしきりに頷く。
「そういうニアちゃんも〝エクスカリバー〟のグッズを買っていたじゃない」
「これはダディ……お父さん用ですね。お父さんが推しています」
「まぁ、お父様も〝聖剣乱舞〟が好きなの?」
ニアはちらりとポケットにしまってあるイヤホンへ視線を向けた。イヤホンケースにしまわれているからか、静かなものだ。とはいえこのイヤホンは地獄耳の持ち主だから、ケース越しに会話を聞いているだろうけど。
「〝聖剣乱舞〟というより、アーサー王伝説が好きなんです。私もその関係でアーサー王伝説について調べてて、日本に来たんです」
アサミは感心したように頷いた。
「アーサー王伝説はイギリスのお話でしょう? 日本で調べることなんてある?」
「いやー、イギリスを探し回ってもなかったからあちこち旅をして、日本にたどり着いたって感じですねー」
本当に長い旅だったとニアは遠い目になる。イギリスを旅立って約千年。ニアの生まれは少々特殊なので長生きして当然だが、千年もの間に起きた目まぐるしい文明の変化はいつも付いていくのに難儀した。今はもう、だいぶ慣れたけれど。
「そうだったの。ねぇ、何を調べているのか聞いても良い? 私、そういうお話大好きなのよ」
「もちろんです」
ニアは大真面目に頷いた。人に話すことで、ニアの目的に近づけるならそれに越したことはない。
「私が調べているのはですね、〝賢者マーリンの封印の解き方〟です」
「マーリンの?」
アサミは意外そうに首をひねる。
「そういえばマーリンは石に閉じこめられたのだったかしら。〝ブリテン無双〟でそんな話があった気がするわ」
〝聖剣乱舞〟だけではなく、アサミは駅前の宣伝ポスターとして貼られていた〝ブリテン無双〟も嗜んでいるらしい。あのゲームはアーサー王伝説に基づくゲームなので、マーリンが封印されるシーンもある。それなら話しが早い。
「ちょっと家の事情で、マミィ……じゃない、湖の貴婦人によって封じられたマーリンを復活させたいんですよねー」
「それができたら貴女は魔法使いね。でも面白そうな試みだわ。まるで日本の天岩戸ね」
こういうお話が好きというのは伊達ではないのか、アサミの食いつきぶりがよい。ニアは話し甲斐があってついあれこれと話してしまう。
「そうなんです。日本の天岩戸伝説に似てるなって思って、調べに来たんです。まぁ、引きこもりが内側から開けるタイプだったんであては外れてしまったんですけど……」
アサミはニアの言い草が面白かったのか、声を上げて笑った。
「たしかに天岩戸はそうね。それなら、千引の石のほうがよっぽど参考になるかしら?」
アサミのなんてことのない一言。
それにニアは目を妖しく光らせた。
島根県松江市、黄泉平坂。
千引石は黄泉の国とこちらの世界を線引するための境界線であり、黄泉に住まうイザナミを封じるため、イザナギが置いた封じの石だ。
「千人もの大男が引いても動かせない大岩……だって聞いてたんだけどー」
《ずいぶんと小さいではないか》
「だねー」
ニアとダディはアサミから聞いた千引石について調べ、推定地へとやってきた。千引石は国道から少し外れた山の中にある。雨が降ったばかりで生乾きなのか、山道を歩くと足元がじっとりとぬかるんでいた。水気の多い場所は好きだから、ニアの気持ちが少しだけ浮き足立つ。
けれど訪れた場所にあるのは人の背丈ほどの大きさの岩が三つだけ。伝説に残るような大岩なんて見当たらない。浮足立っていたニアの気持ちは急転降下し、唇がとんがった。
「ホテルに帰ってWi-Fi繋いで聖剣乱舞の配信を見よっかな」
《昨日も一昨日も見てたではないか》
「ディレイは期間限定なんですぅー。明日で見れなくなったら、次見れるのは一年後なんだから!」
ニアが早々に見切りをつければ、イヤホンからダディの小言がこぼれた。ここまで来たんだから、役目を果たそうとした仕事ぶりを評価してほしいところなのに。
やっぱり小うるさいイヤホンはケースにしまっておくべきかなと、ニアが耳元に手を置いた時。
《む。ニア、何か下にあるな》
「下?」
ダディが何かに気づいたらしい。ニアはつられて下を向いた。靴底のぬかるんだ感触の先、もっともっと深い場所に意識を向ける。
「んー? ……あ、大岩ってこれ?」
《そのようだな》
「ほほーう」
千里眼を使って透視をすると、地中に無数の石が埋まっているのがわかる。その石たちは霊的なパスで繋がっていて、パズルのような複雑さを持っていた。その霊的パスは、地表にある三つの岩にも繋がっている。
「面白いね。しかも地中の石……石化してるけど、もとは植物の種?」
《古事記によれば、イザナギがイザナミから逃げる際に桃の実を投げつけたと言う。その時の種だろう》
「種と石か。これで結界を編んで道ごと封印しているんだ。……ダディ、当たりだといいね」
ニアはにこっと笑みを浮かべると、耳からイヤホンを外して宙へと放り投げた。イヤホンが再びニアの手に落ちてきた頃には
準備よし、とニアは頷いた。
「ダディ、ちょっと地下に行ってくるよ」
《うむ》
ニアの身体は水になり、ちゃぽんと土に染み込んだ。
ニアは湖の貴婦人二ニーヴの娘。自分の身体を水に変えて大地に染み込むくらい、お手の物。土のきめ細やかな石や砂の隙間を縫って、霊的パスの繋がっている石たちの隙間を掻い潜っていく。
(穴だらけのパスだけど、根っこのように土に絡んでる……あの地上の三つの岩を動かそうとしても、持ち上がらないだろうな)
霊的パスの隙間を縫って、この封印の先にあるものを覗きに行く。地中に這う根のような封印の網目に絡まりそうになりながら、ニアは奥へ奥へと向かって。
(これだ、封印の核)
千引石が封じる黄泉平坂の入口。
その境界線と思われる一枚の岩盤を見つけた。むしろこれこそが本物の〝千引石〟なのかも。
ずいぶん深いところにあったから、ニアは期待した。でも封印との関係性を見てすぐにがっかりした。無駄足だと実感したニアは、ダディのいる地上に湧き出て戻る。
「ダディ、はずれー。これ、種の化石で異界への道を撹乱して、上から蓋をしているだけの封印だよ。マミィがかけた〝岩の下から抜け出せなくなる〟封印とは違う。上の封印の石たちを順番にどかせばいいだけだもん」
《やっぱりか。そんな気はしていた》
「そんな気がしてたなら言ってよね! せっかく下まで見に行ってあげたのに!」
ぷくぅ、と頬を膨れさせたニアは杖をむんずと掴むと、ぶんぶんくるくるとバトンよろしく指先でまわしてやった。
《あああああ! ニア! やめぇっ、らめぇっ! 酔うっ、これは目がまわっ! うっぷす……っ》
「私の時間を無駄にした罰でーす」
本当に無駄な時間だった。満足いくまで杖を回転させたニアは、トンっと地面に先端を突く。
「はーあ、今度こそ帰って聖剣乱舞の配信をみよーっと」
《暴力娘めぇ……っ、そんな娘に育てた覚えはないぞっ!》
「石の下に埋まってたら子育てなんてできないよねー」
《ぐはぁっ!》
ダディに精神ダメージがクリティカルヒット。しばらくこれで静かになるかなとニアは思い、千引石へ背を向けた。
帰るべく足を踏み出そうとして――その足を止める。地面が揺れた。
《……ニア》
「なーに」
《まさか封印に干渉してはないだろうな?》
「Zip it.」
そんなこと言われたってしない。封印なんてもの、ろくでもないものを封じるためにしているのだから、干渉してこじ開けるなんてこと論外だ。
論外だけれど。
「この封印、もしかして網目のすり抜けも干渉になった感じ? 摩耗しちゃった?」
《何をしとるのかー!》
霊的パスの隙間をすり抜けるだけの行為。それすらも劣化の激しい封印を摩耗させることに繋がったというのなら……封印が焼ききれてもおかしくは、ない。
ゆえに今、足もとが沸々とした怒りを表すかのように、何某かの怨嗟が聞こえ始めている。
《どうするつもりだニア! 我は見てることしかできんぞ!》
「もー、分かってる。私がやるって」
面倒くさい。かなり面倒くさい。本当は早くホテルに帰って推しのディレイ配信を存分に堪能したい。
でも、自分でやらかしてしまった後始末はちゃんとしないと。愛しの推しコンテンツを生み出す日本の皆々様に迷惑がかかってしまうので。
「一回全部引き剥がすよ。それから封印し直す」
ニアは踵を三回打ち鳴らした。雨に濡れて溶けてしまったようにニアの姿が様変わりする。銀髪は慈雨となって大地をしとしとと濡らし、現代に馴染むための安物のパーカーは薄いドレスになった。歩きやすいスニーカーは雫がしたたるようなアンクレットへ。
湖の貴婦人二ニーヴが娘、湖の乙女ニア。
これがニアの本性だ。
杖のままだったダディを握りしめると、もう一度地面に突き刺す。
「せーの」
髪からしたたる雫が大地に染み込んでいくのを感じ取ったニアは、水を通じて大地の中に埋められている霊的パスに干渉して一斉に引き切った。
瞬間、大地が大きく揺れて、悍ましい何かがニアの足元深くから這い出ようとする。
――あなたが百人産むというのなら。
――わたしは千人殺しましょう。
心臓を針で引っ掻くような、痛みすら伴う不快な声。ニアは顔をしかめた。
「女神って本当にろくでもないのが多いね」
《神がそもそもろくでもないだろう》
「そうだった」
呆れた様子のダディの声に、ニアは頷きながら杖を引き抜く。
もしも、神々が真っ当であったなら。
「アーサー王は存在しなかった!」
ニアは天に杖を振りかぶると、大地に向けて思い切り振り下ろした。地中に染み込んだニアの身体の一部が、グッと黄泉の国の境に置かれた一枚岩に圧をかける。黄泉の女神が境界を越えないように抑え込みつつ、地中に埋まっていた桃の種の化石を媒介にした封印を、見様見真似で繋ぎなおした。
ぐら、ぐら、ぐら。
三回、地面が揺れた。
それだけで、大地は再び静かになる。
《……ニア》
「……ん」
ダディに呼びかけられて、ニアは地中に集中させていた意識を引き戻した。しとしととニアの髪から慈雨がしたたり落ちていく。慈雨の振り注がれた大地は芽吹くことを忘れていた種子たちがいくつもあったようで、足元にぽんっぽんっと季節外れの花が咲き始めた。
「あっ、やばっ! あーっ!」
《さっさと擬態せんか》
油断したニアの足元に花が咲き乱れ始めると、ダディがやれやれとため息をつく。ニアは慌てて人間に擬態し直すと、杖もイヤホンに戻してしまった。
「あー……咲いちゃったお花、どうしよう」
《黄泉の女神の供え物にしておけばいい》
「ダディのわりには良いこと言うじゃん?」
湖の乙女であるニアの本性が大地に与える影響は大きい。枯れた大地に自分の身体の一部を滴らせれば、植物を芽吹かせることなんて造作もなかった。無闇矢鱈とそうならないように気をつけてはいたものの、さっきは想定以上に封印に割く力が必要だったから油断してしまっただけ。
ニアはいつものようにイヤホンを耳にさし、ぐっと伸びをする。
「あーあ、無駄足どころか、余計なものに触っちゃった。マミィに怒られるかな?」
《今回の件を叱る前に、二ニーヴはお前が役目を果たさないことを怒るのではないのか?》
ダディの指摘に、ニアは肩をすくめた。容易に想像ができて、アヴァロンに帰る気がさらに失せてしまう。
「ダディの封印を解いて、もう一度アーサー王をアヴァロンに連れ帰る。それが私の使命なのは分かってるよ」
ニアに与えられた使命は、アヴァロンから逃げ出したアーサー王の魂を見つけること。そのためには、賢者マーリンを復活させて、その居場所を突き止めさせないといけない。
「ダディの千里眼は便利だけど、マミィの封印のせいで視界共有くらいしかできないもんね。あーあ、視界共有で魂の鑑定ができたら楽だったのに」
《別に我の封印を解く必要はないと言っているだろう。根気よく探し歩けば、あのクソガキもすぐに見つかるだろうに》
「そんなこと言ってー。石の下に千年は暇でしょ」
《……別に、もう慣れた》
ささやかな声がイヤホンから聞こえてきて、ニアはにへらと笑う。千年以上も石の下にいるダディ。ニアはダディが封じられたあとに生まれたので、まだ一度も父と会ったことはない。
アーサー王捜索を名目に、父の封印を解きたいのはニアの我が儘だ。母だって反対しなかった。魔術の師だったダディのことを、尊敬しているのは間違いないのだから。自分で封じた手前、引っ込みがつかなくなってしまっただけ。
「そろそろ報告を兼ねて、マミィに会いに行ってもいいかもねぇ」
《そう言っていつもいつもいつも! アヴァロンに帰る気配がないではないか!》
「あはー! 次の〝聖剣乱舞〟の舞台に推しが出るしね! あと半年は帰らないかなー!」
そう、半年後には推しの舞台がある。それまでは日本にいるつもりなので、アヴァロンに帰るのはもう少し先になりそう。
イヤホンからダディがグチグチ小言を言うけれど、ニアはさらりと聞き流す。ニアはまだまだ推し活が楽しいので、ダディが日の目を拝むのは、もう少し待ってもらうことになりそうだ。
【マーリンの娘、推し活が楽しすぎてアヴァロンに帰れない。 完】
マーリンの娘、推し活が楽しすぎてアヴァロンに帰れない。 采火 @unebi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます