歌詠、留意、多々

葛西和希

秋の田の

 あれはたしか小学生の時。ヒュッ――ダン。腕が振りぬかれ、札を払い、畳をたたく。そんな音が会場中に響きわたる。なぜだか、僕はその光景から目を離すことができずにいた。

 2025年4月。僕は高校生となった。進学先は地元で有名な公立の進学校、そして競技かるたの伝統校としても有名な高校、陪膳浜おもののはま高校。競技かるたがメディアで取り上げられ始めたのはここ最近。陪膳浜高校も一躍話題となった。ローカル番組で何度か見かけた。黒い部Tの背中に、白い墨で墨痕鮮やかに陪膳浜と書かれており、それを着ている部員の姿は堂々としていた。まさにスポーツ選手の振る舞いであった。そのような姿に多くの人が憧れ、地元のかるた会に大勢入会したと聞いた。僕もそのうちの一人だった。そんなことを考えながら歩いていると、後ろから肩をたたかれた。振り返ると、見知った顔があった。幼馴染の陵駕りょうがだった。

「なーにボケっとしてのんさ」

「いや…ちょっと考え事してただけ」

「あぁ。やっぱり朝は白米だよな」

会話がかみ合わないがいつものことだ。幼少期からの仲だが、いまいち人柄がつかめない。会話がかみ合わない空気が読めないやつかと思えば、ものすごく相手の気持ちに深く刺さる言葉を投げかける聖人にもなる。こいつがナンパ師になったら、何人も引っかかるだろうなと失礼だとは思うが考えてしまう。それくらいこいつの話術は人を引き付ける。

「で、秋平しゅうへいは部活どうすんのさ」

「あぁ…俺はいい」

「だよな!やっぱ軽音だよな!」

「…違くて。俺は帰宅部」

「えー!もったいねえ。中学の時はあんなにかるたばっかしてたのによー」

ぎくりとした。そこはあんま触れてほしくない部分だ。

「なんか飽きちゃってさ」

「嘘だー」

そう、嘘だ。それが分かっているからこそ、自然と足は早まった。言われなくても分かっている。しかし、いざ言われてみると本当にそうだったか自信が持てなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る