まだ死んでないのでRPG〈クレセント・ソード〉の世界から帰還します。

藤宮ハルカ

第1話 まだ死んでないけど、異世界。

 まぶしい。すごくまぶしい。


 あちこちから日の光が差している。

 いつの間にかオレは手に剣を持っていた。

 まばらに木々が立ち、足元の草はそよ風になびいている。


「あれ、さっきまで寝てたんじゃなかったっけ……」


 腕を動かすとカシャリ、という音がする。

 鎧だ。銀色の薄い板でできた鎧を身に着けている。


「これ、剣士の装備だよな」


 そうだ、ノートPCを開いてお気に入りのRPG『クレセント・ソード』をやっていたんだ。

 二回も全クリしたけど、飽きずに三周目をしている。

 主人公はオーソドックスな剣士職にした。


「あれ、これってもしかして……」


 持っていた剣を見る。辺りを見回す。

 この装備、どことなく見覚えのあるこの風景――


「ここ『クレセント・ソード』の世界じゃん!」


 あれか。俗にいう「異世界に来ました」ってやつか。

 けどオレは誰になったんだ? 主人公か?

 そもそもここに来る前にトラックかなんかにかれたのか?


 そんなことを考えていると、遠くからバタバタと音が聞こえてきた。

 音はだんだんとこちらに近づいてくる。


「そこの人! そっちにイノシシが一匹行った!」


 声の方を見ると、自分と似たような恰好かっこうの女子が、デカいイノシシ相手に剣をブンブンとでたらめに振り回していた。


 鼻から二本の白いつのを生やした焦げ茶色のイノシシが、猛スピードでこちらに迫ってくる。


 あわてて剣をさやから抜いて構える。


 ――デカい。

 もう少しでぶつかる、というところで予想以上の迫力にオレはたじろいだ。

 ゲームできるほど見た〈ワイルド・ボア〉も、いざ目の前にするとかなりの迫力だ。


 やばい――

 角と剣がぶつかるその瞬間、頭に映像が浮かんできた。


 自室のデスクでスマホをいじる自分。

 パソコンを開いて適当にサイトをうろうろする自分。

『クレセント・ソード』を起動する自分。


 あまりにしょぼい走馬灯そうまとう愕然がくぜんとする。


 そうだ。オレは死んじゃいない。

 「別の誰か」に生まれ変わったわけじゃない。


 角と剣がぶつかりガツンと固い音がした。

 両足が地面に食い込む。


 ググッと剣を押し返してオレは吠える。


「オレはまだ死んでないっつうの!!」




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はじめまして、藤宮ハルカです。

第1話を読んでいただき、ありがとうございます。

本作品は2万文字以下の短編で、全6話で完結予定です。

投稿ペースは週に1話を目標とします。

最後までお付き合いいただければ幸いです。



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