歌殺し、ザラ
ごとうもろい
第1話 誰何
【官給品を記載、標的の始末を確実にされたし。
火剣
中刃1短刃1
防護符1
ファミリア1
刻印石
解放1所有1肉体1落雷1
標的
書を紡ぐ者、プラウス
『標的の死体は落雷で焼くこと』】
「これでよし、だな」
ザラは足元の雪を強く踏み固めた。ブーツの底で硬さを確かめる。
「埋めるのか?唯一の武器を」
嘲笑するような雰囲気を纏って蛇が聞く。もっともこのファミリアが嘲笑を含まないことの方が少ない。
「持って入れるなら持っていくがね、さて」
腰まである長い髪にかかる粉雪を払いながらザラは高台の下に視線を移す。腰ほどの高さに密生するベラドンナの茂みの向こうにひときわ高い塔を擁する城塞都市が広がっていた。
「たった十年で見事なものだ。都市国家の面目もない」
高い声で蛇が言う。
「アレフは滅びるな。これは。あの塔に稲妻をおとせばオシマイか?」
蛇がおどけて続ける。
「そうそう狙えるものではない、知っているはずだ」
ザラは答えると懐から四つの小石を取り出し、雪の上に並べた。
「頼む」
「やれやれ、窮屈なんだがアレは」
白蛇はザラの手首からするりと雪の上に降りた。並べられたルーン石を一つ一つ飲み込んでいく。四つ全てを飲み終わると蛇の肢体は二倍ほどになっていた。
「屈め」
ザラは膝をつくと髪をかき上げた。耳の後ろを蛇に向ける。
「ヨッと」
蛇は跳ねるようにザラの首筋に張り付いた。その全身が黒く変色し、ザラの皮膚に沈み込むように溶けていく。やがて白蛇は蛇型の黒い痣に変じた。痣の腹がうごめく。蛇は4つのルーン文字を吐き出した。文字はザラの皮膚の表面を伝い、波打ちながら移動すると左の胸に固着した。女であったら乳房の下の位置だ。ザラは肌でそれを感じ、首から自身の服を覗き確かめた。
【身動きとれないで同体異心か……気が滅入る】
今度は音ではなく高い声が意識に響く。
【俺もお前みたいな小煩い奴と一緒にいるのは反吐が出るね】
【そこらに遠慮なく吐けば良い】
ザラはゆっくりと高台から学院の門に続く道を降りていく。
【あとは防護符があるだろう?】
【手のひら一枚の大きさしか守れん、しかも一度だけ、役にはたたん】
雪を踏む音が響く。
【雪というのは美しいのだな】
【都市国家アレフの大いなる慈悲深さよ……】
【抜かせ、ただの言い訳だろう】
途中、学生の男女二人連れが前から来た。浮浪者と見まがうほどに汚れたザラの旅衣装は充分に好奇の目の対象のはずだが、二人は気に留める様子もない。
【だれでも試験にさえ受かれば入れるからなここは】
蛇が言う。学院外部では奇妙な格好もここでは普通の事なのかもしれない。
二人のうち男が軽く手を握る仕草を見せ、何事か呟いた。手のひらほどの火球が二人の前に浮かぶ。女の方が両手を火球にかざしながら男に何事か笑いかけていた。暖を取っているのだろう。
【あれがスペルか……】
蛇が独りごちたように言う。
【ガキでも使えるとは……】
【新しい神を信じればな】
【それはお前次第だろう、我はどちらにしろ使えぬ】
雪が静かに降る。正午近くというのに音が吸われて非常に静かだ。雪道を踏みつける音だけが響いた。
二人とすれ違ってしばらくするとザラと蛇は学院都市の門前についた。ぐるりと城壁の周りをまわって降りてきたわけだ。跳ね橋が上がっている。
ザラは両手の小指を口に突っ込むと思いっきり指笛を吹いた。抜けるような音が天に響く。
「どなたさまでしょうかー」
大きいが若い声が門内から響いた。学院都市の運営は学生によると聞く。これも学生なのだろう。
ザラは息を大きく吸うとあらん限りの大声をあげた。
「我はザラ、学長にお会いしたい」
しばらく静かになった。門向こうで相談している気配がする。
「入学希望でしたら毎週末に~」
「違う」
ザラ自身の耳が痛むほどに反響した。
「我はザラ、都市国家アレフ宰相の命により学長プラウスを……」
ザラは大きく息を吸い込むと声に全身の力を込めた。
「殺しに来た」
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