七夜 こいのはなし

その日も有紗は、夜、河原のベンチにいた。


「押忍っ」


「オッスッ」


短い挨拶をして、俺はベンチに座る。


「あのさ」

有紗が話し始めた。


「そこの川で、たまに魚が跳ねるじゃん?

あれ、何の魚だろうね?」


有紗の黄色く綺麗な瞳が俺を見上げた。


「あー、あれはね。

鯉だろ。」


「鯉か!」


「うん」


有紗が、遠くの空を見つめて固まる。


「なんか、フツーだね」


「まぁ、そんなもんだろう」


有紗が何の魚を期待していたのかが、少し気になったが、まぁいいだろう。

俺は聞き役に徹することにした。


「鯉って、外来種なんでしょ?」


「そうだよ。よく知ってるな」


有紗にしては、詳しいじゃないか。

それに、生態系を気にするのは、良い心掛けだ。


有紗は立ち上がり、川に向かって歩いてゆく。

そして、水の流れをじっくりと見つめながら言った。


「お前たち、帰れなくなっちゃったんだね」


後ろ姿の向こうで、有紗はどんな表情をしているのだろう。

そう考えていると、ちょうど鯉が跳ねて、ドボンと水飛沫をあげた。


「鯉と話せたー!」


有紗が振り向いて、駆けてくる。

有紗は目を細め、嬉しそうに笑っていた。



そうやって、

その日の夜は更けてゆく──。

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