夜の内緒話

離歌

一夜 せかいのはなし

──時は、5555年。

度重なる産業革命や宇宙開発により、人々の暮らしは飛躍的に向上した。

しかし、高度な文明を手に入れてなおも、人類が頭を悩ませる問題もある。

その1つが、"エネルギー問題"だ。


30年くらい前に、国際法の改訂により、すべての人々は、夜に活動してはならないと決定、翌年に施行。


人々は夜19時になるとベッドに入り、胸のスイッチを押す。すると電源が切れたように、ぐっすりと朝まで眠ると言う仕組みだ。


人がいないので、街の明かりも全て消える。

飛行機も夜は飛ばないし、人工衛星のライトだって消す。


夜の間にしなければならないことがある場合、その日にやるか、次の日に回すのが、企業・国家も含めた全人類への鉄則だ。


エネルギーを大切にすること、それは人類が長く快適に暮らすために、何より大切にしなければいけないことなのだ。


俺、朋也は、私立あけぼの高校に通う2年生だ。何の特技も個性もなければ、見た目も平凡、ちょっと黒目が小さいのを気にしているどこにでもいる学生だった。


今日、この時までは──。




おかしい……。

一向に眠れる気配がない。

そもそも、気配もなく落ちるのが普通なのだが。


時刻は20時を過ぎていた。

連打しても、長押ししても、時間をおいて試してみても、まったく眠ることはできなかった。


うーん……。

朋也は考える。

考えても、これ以上できることはない。


病院やサポートセンターは閉まっているし、親を起こしても、解決はできなさそうだ。

そもそも、起こせるのかもわからない。


悩んだ末に、とりあえず外に出てみることにした。



夜の空気は冷たく新鮮な感じがした。

一つの灯りもついていない高層ビルは、夜の闇に溶け込み、空には満面の星空が輝く。


俺は"テクノロジーの結晶"である、腕につけたデバイスの灯りを頼りに歩き出した。


公園を抜けて、河原へと辿り着く。

ここに来た理由は特にない。

なんとなく水の音を聞きたかった程度のものだったと思う。


河原に降りて、すぐに立ち止まる。

水辺に向かって置かれていた木のベンチに、人影が見えたからだ。


近付くと、人影がこちらを見上げた。

黒いキャップを深く被った頭から、銀色の長い髪を肩まで垂らし、コーラルピンクのパーカーに、薄いネイビーのパンツ、白いスニーカーを履いたその少女は、まるで物珍しいものでもみつけたかのように、まじまじと俺を見る。


黄色い大きな瞳を一通り動かした後で、彼女はにこっと微笑み、口を開いた。


「あれ?もしかしてあたしと同じ?」


俺は胸を指差して言った。

「胸のスイッチがおかしくてな。眠れないんだ。」


「やっぱりあたしと同じじゃん。」


足をパタパタと動かしながら、楽しそうに彼女は言う。


「まぁ、ここに座んな。」


彼女に勧められ、ベンチに腰掛ける。

川で魚が跳ね、小さな水音がした。


「あたしの名前は有紗!あなたは?」


「朋也だ。」


星が支配する夜空で、月が一段と輝きを増した。



この日から、

俺と有紗の"夜の内緒話"が始まる──。

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