天才ドルイドの天候魔法

夏空蝉丸

第1話 聖なるドルイド

 聖なるドルイドと呼ばれたドルフェの得意魔法は天候魔法であった。祭祀ドルイドとして自然に対し様々な祈りを捧げ望んだ天気にする。非常に有用な力であったが、彼は困窮していた。


 彼は自然と一体化する存在であるドルイドとして、部族の村を天災から守り平穏に暮らしていた。瘦せた土地ではあったが、必要な時に雨が降り、必要な時に太陽が地面を照らした。大雪や寒波や嵐が無かったわけではない。だが、彼は天気を上手くコントロールし、被害を最小限に抑えていた。


 そんな彼が住んでいる土地が目を付けられるのは必然である。豊かな土地と勘違いした遊牧民たちが侵入し、彼の部族は散り散りになった。命を狙われたドルフェは唇を噛みしめながら南方に逃げ出し、命こそ助かったものの一人となり道端に倒れこんでいた。


「大丈夫かいアンタ」


 声をかけられたドルフェは老人に気づいた。田舎によくいる太陽で焼けたクシャクシャの顔をした老人にドルフェは返事をしようとしたが、声が出なかった。


「ちょっとこれでも食べてみんな」


 老人に渡された野菜をドルフェは口にした。水っぽい野菜がとても美味しく感じられた。のどを潤すのと同時に、体の中に栄養がいきわたる気がする。空っぽになっていた頭が急に回転を始め上半身を起こした。


「こっちも上手いでよ」


 ドルフェは渡されたニンジンにかぶりつく。泥がついていることも気にせず、口の中をジャリジャリさせながら馬のような勢いで食べていく。


「このニンジン甘いですね」

「そうじゃろそうじゃろ。甘いんじゃよ」

「ありがとうございました」


 ドルフェは地面に座りなおすと老人に対して頭を下げた。


「気にせんでもええ。困っているときはお互い様じゃ」

「何かお礼でも」

「アンタ、何も持っとらんじゃろ」

「確かに何もありませんが、できることはあります」

「働きたい。ということかの?」

「お願いできないでしょうか」

「儂らもそれほど余裕があるわけでもないでの。あまり食べれなくても文句を言わんなら構わんよの」


 そう言われ、ドルフェは老人と暮らすことになった。住んでみてわかったことだが、老人は妻である老婆と二人で生活をしていた。子供たちは三人いたのだが、二人は戦争で死に一人は嫁に行っていないのだという。それほど大きくない土地を耕して何とか生活しているのだった。


「すまんの」


 ドルフェは老人によく言われた。というのも、ドルフェは一緒に住んでみてわかったのだが、老人たちの生活は破綻しかかっていた。十分に水をくむこともできず、薪を集めることすらできていなかった。若い頃ならばできていた仕事が年をとりできなくなっていたのだ。


 老人がドルフェのことを受け入れたのは、そのような背景があったことにすぐに気づいた。だが、ドルフェは老人が若い頃に行っていた仕事を行うことはできなかった。


 彼はドルイドとしての仕事をしており、力仕事は得意ではなかったのだ。だから、彼は老人に気づかれないように天気を上手く制御した。夜のうちに置いておいた桶に雨を降らせ、集めていた生木を太陽の熱で乾燥させた。田畑も適度に雨を降らせ、できるだけ老人に負荷がかからないようにしたのだ。


 そんな穏やかな生活を送っていたある晩、ドルフェは眠りにつけていなかった。いつもならスヤスヤ眠れるドルフェであったが、嫌な予感がしてどうしても夢の世界に辿り着けなかった。


 その予感が当たったのか、老人が包丁を持って襲い掛かってきた。ドルフェは違和感に気づいていたからすぐに反応できた。相手は武器を持っていたが、力の差があった。年齢の差と言った方が良かったのかもしれない。力が足りないドルフェでも老人を抑え込むことができた。


「一体、どうしたことですか」

「アンタ、お尋ね者じゃねぇか」

「知らなかったのか?」

「うちの息子を殺したのもアンタだろ」

「俺じゃねぇ」

「でてけ」


 ドルフェは立ち上がる。彼は予感していた。いつかこのような日が来ることを。


「お世話になりました」

「消えろ」


 ドルフェは老人の表情を確認しようとしたが、家の隙間から漏れる月明りしかない暗闇の中では良く見えなかった。扉を開き外に出ると、少しだけ空気が冷たいような気がした。


 ドルフェは月の方向に向かって走り出した。もうすぐこの土地には大雨が降る。それまでに少しでもこの場所から離れる必要があったのだ。少しずつ湿った匂いが強くなるのをドルフェは感じた。月明かりが彼の行き先だけを照らしていた。


 

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