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土口十口

402号室

 男はこれで終わりにしようと思っていた。無論それは犯罪者が使う言い訳には変わらないが、少なくとも彼の場合は本当に終わりにしようと思っていた。3人にはしっかり話し、彼らも次で最後にしようと決めた。盗みをもうやめれるのだ。


 しかしその次。最後の盗みででここを引き当ててしまった訳である。阿呆な奴らめ。


 もちろん手際は良い。鍵付きのドアなぞ、ものの数分で開けられる。いつも通りのペース。何気ないルーティーン。しかしこの部屋にはノロイがある。異変を最初に感じたのはドアを開けた男であった。この男をAとする。


 Aは思った。「臭い」と思った。普段感じ取ることのない尖のある悪臭を彼は見事感じ取った。Aが中に入っていき、それに続いて他の3人も中に入っていった。もちろんその3人も「臭い」と思う。


 リビングには死体が転がっていたのだ。ハエは飛び交い、ウジも這いつくばっている。死体である。これを目撃し、すぐさま部屋から逃げ出した男がいた。Bとしよう。彼はその後トラックに轢かれ、死んだ。


 ある男は途方もなく後悔した。これをCにする。Cがこの盗みを最後にしようと言い出したあの男である。「なぜよりによってこの部屋なんだ」「なぜ死体のある部屋なんだ」愚図め。Cはこれまでの行いを全く分かっていない。理解はしているが、全く分かっていない。この期に及んでまだ自分の罪が軽くなることを願っている。こいつは救いようがない。


 Dは分かっていた。今この部屋にいる3人の中で最も分かっていた。時が来たのだ。これまで何の苦も知らずに肉を食らいついていた罰が今来たのだ。「どうせなら大凶が良かった」


 御神籤の結果は小吉でした。小吉を引いたのは今年が初めてです。いつもは末吉です。大吉は学生の頃を最後に取ることはなくなりました。そういうもんです。大凶とか凶とかいう面白いのは見たこともありません。つまらん人生です。


 AはDを罵倒した。大凶が良かったという言葉が気に食わなかったからである。「ふざけるな」「この期に及んで」殴ろうとしたが、Cが止めに入る。「やめよう」こいつはとりあえず金目のものだけ盗み、部屋から早いところ出たかった。この部屋の異様な空気感を感じずにはいられなかった。


 A・Cは部屋を漁り始める。Dは死体の横で座り込み、窓を張っていたカタツムリを見ていた。彼はこの状況に恐れてもいたが、この部屋で死ぬということを感覚的に理解していたのだ。死ぬ前に罪を犯すのは道徳的に如何なものかと思っていた。


 しばらくすると、AとCは402号室で首を吊った。2人の死に様を見て、Dはコンビニへ向かった。半額の弁当は美味かったと聞く。

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