The Lost time

泡沫夢。

The Lost time (short novel ver.)

『The Lost time 』

これは俺ととある親友、2人だけの物語だ。

今回は俺たちのある日の日常行動備忘録を作成することにした。ぜひ、読んで欲しい。

——

俺たちの朝は7:30に起床してとあるゲームをすることから始まる。

窓は外から見えないように黒く目張りをしている。だから、光をつけなければ

完全な暗闇となる。

まあそれでも多少光は漏れるようで、俺の視界は薄らとした闇に包まれる。

「K!自室に引きこもっていないで、早く出てなさい!」

母親がどうやら階下から陸上選手にも劣らないスピードと重戦車のような轟音を発しながら上がってきたようだが、俺は匠の技で一瞬で扉を閉め、鍵をかけた。

俺の部屋はざっと1000本以上の飲みかけの発酵してしまった茶色いコーラ、出前で取り寄せた容器、黄色いポテトチップスの破片に溢れた菓子袋で構成されている。それらが既に入っており、茶色の塗装が剥げがかかっている段ボール(近所のゴミ箱から、隣人に見つからないように3年前回収してきた)をピサの斜塔のごとく積み上げ、母親の侵攻を食い止めているのだ。俺の最大の任務は、この偉大な芸術作品が崩れないように、防衛することだと自覚している。

「K!そこにいるのはわかっているのよ!」

母親の「俺の部屋の扉をバットで殴りつける」という実に単調で動物のような追撃がきたが、段ボールとその他のゴミ袋で補強してある俺の扉は決して誰も通さない苛烈な門番と化しており、この部屋自体が、難攻不落の堅牢な城と化しているのだった。

「脳幹」以外全て筋肉だと思われる母親の追撃を華麗にかわし、

部屋の中で煽るという毎朝のルーティンをこなしていた俺だったが、

ここでゴミの下に埋まっている埃を被った携帯電話(ちなみにガラケーである)が

「ピピピ」と弱々しく今にも消えそうな音を発し始めたことに、約0.8秒で気づいた。

彼と俺の中ではどちらかが電話したら、2秒以内に応答することが暗黙の了解である。情に厚い俺は母(俺の心の評価では筋肉の塊にランクダウンした)を煽る事より、この偉大な盟約を守る事を優先した。

母は扉を殴りすぎて腕が痛くなったのかわからないが、諦めて出かけていったようだ

「おい!S! 元気か?」

「眠たそうだが大丈夫か!」

「大丈夫と言ってるではないか!」と、Sが答える。

俺たちはここでほぼ同時に自前のPCを起動させる。

薄らとした暗闇だった部屋は、途端に青白いブルーライトに包まれた。

このPCはおそらく10年前に発売された旧型であり、壊れかかっている灰色の目立たない物だが、ネット接続は可能である。

俺たちがこのPCを開く目的はただ一つだ。つまり、あの”ゲームをする事だ。

『The army battle of conflict』である。

このゲームは少し古く、キャラクターデザイン•戦闘描写も良く言えば古風、悪く言えば雑だ。でも俺も、Sもゲームに限らずそういう類の物が好きだった。

子供時代では新しい事を次々に吸収していく事が当たり前とされ、他にも新しい商品が発売されればそれを買い、古いものは捨てられる。俺とSはそんな事を繰り返す周りを見ていて、虚しくなったのだと思う。なら、何もかも古いままでいい。

それで周りに置いていかれたとしても、1人じゃない。当時の俺たちはそう考えた。

そして、このゲームの最大の特徴は一度自分の戦略、部隊の配置などを入力

し終えたら、あとは決着がつくまでプレイヤーはただ見守ることしかできない。

ネットの書き込みでもその点が強く批判されていた。

でも俺たちは、「二度と取り返しがつかない」所は人生に少し似ていると思った。

俺たちも「人生はやり直せる」という世間の甘言を信じていた時期があった。

でも、それは違うと気づいてしまった。

そんな事を思い出している間に、互いに戦略と部隊構成の入力が終わったようだ。

戦闘が始まった。階級関係なく似たような顔の兵士たちが、同じような武器を使って

真剣すぎる顔で戦いあう。それはとても滑稽だった。

暇なので、「今日は何か面白いことあった?」と聞いてみる。

「吾輩の家には宗教勧誘が来た。吾自作の『自宅警備の大切さ』を訴える賛美歌を政治家の街頭演説並みの音量でたった10分流してやったら、出ていってしまったのだ。」とS。

おそらく彼の家は様々な怪しげな新興宗教の「決して勧誘に行ってはいけない」ブラックリストに登録されている事だろう。そういった物が実在するのかは知らないが。

「次は街頭演説で、この曲を放送して無知の市民に啓蒙する事を目標にしておる。」

「いや、お前は『外出恐怖症候群』とかいう未知の病気で外出できないだろ。」

「ななな!それは盲点だったである!なら、公園のスピーカーのプログラムをハッキングして、この曲を吾輩の地区全体に流してくれようか!きっと地域の犯罪率が低下する事であろうな!」

「いやハッキングもできるのかよ。お前。」

Sとも何だかんだ長い付き合いになるが、Sが本気を出せば社会復帰も全く問題ないのではないだろうか。コイツには少し底知れない何かがあるようで…

「まず某アイドルのDilectMailにこの賛美歌を献上して、主題歌にしてしんぜよう!」

(ああ、駄目だわこいつ。後なんでDilect•Mailの発音がネイティブ並みなんだよ!)

——

なお、某アイドルの事務所からは何の返答が無かったものの、Sの自作の賛美歌

(自宅警備)が、防犯に関する広報を担当していた某市役所職員の目に留まり、市の強盗対策を訴えるCMの音楽に起用され、Sが歓喜したのはまた別の話である—-。

——

その後もバカ話を繰り返し、どんちゃん騒ぎをしていた俺たちだが、長くなるので割愛する。

「なあ、S。」

「何用であろうか?K殿?」

「俺、毎年この季節になると気づく事があるんだ。」

「何であろう?吾輩でよければ話を聞いても良いぞ。」

「いや、昔の事を思い出すんだ。」

そう、今の季節は4月。普通の人たちは次の学年に昇級したり、社会人になる時期だ。

「いや、あんな事がなかったら、俺たちのいまも変わっていたのかと思ってな。」

「そうでございますな…」

「皆が変わっていく中で、我らが変わらないのは、大多数はの人々の視点から見れば確かに遅れている、変わっている、どこかおかしい…そんな感想を抱くかもしれませぬ。」

「だが、我々は我々、彼らは彼ら。それぞれ役割があり、信じている物がある。

だから我々は我々の価値観で生きれば良い。それで良いのでは?」

「それに、あの約束は我々の中で永遠の物ですからな!」

「…」

「きっと大丈夫よ。私もKも。」

ふとそんな小さいけれども、高く綺麗な声が響いた気がした。

「なあ、S。お前ってもしかしておん…??」

俺の声は、突然響いてきた大砲を打ち鳴らすようなドラム(おそらく効果音と思われる)の音にかき消された。

「さあ、K殿。この間送ってあった新曲の評価をいただきたい!!」

どこか焦ったSの声が響く。

まあ、Sが男性でも、女性でも俺たちの海よりも深い絆には関係ない。

また機会があったときに聞けば良いだけだ。

「K!あんた、今日という今日は許さない!私の大切にしていたぬいぐるみ、私の部屋から取ったでしょう!」と、母親の金切り声が階下から響いてきた。次の瞬間、戦車のような轟音と何かを振り回す音物(おそらくこの音はフライパンである)が響いてきた。

「もう50歳に近いのに、10代が好みそうなペンギンのぬいぐるみを大事に枕元に置いてあるのはどうなのか…」という疑問や、「そのペンギンのぬいぐるみはこれまでも取ったことがあるよ」という言葉が俺の頭をもたげた。

俺は少し苦笑して一部の黒い目張りを外し、久しぶりに窓の外を見た。

もう既に時間は夕方になっており、夕焼けが綺麗だった。

散って落ちた桜の花びらが俺の頭に触れ、俺の頬を心地よい春風が撫でた。

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