守るべきもの――少年が背負った家族の重みと光

三上 樹

第1話

「行ってきます!」

玄関から聞こえる双子の妹たちの元気な声に、僕は台所で手を止めた。もうすぐ小学校を卒業する二人の姿を見送りながら、深く息を吐く。

「ユウ兄ちゃん、お弁当ありがとう!」

「今日も頑張ってね!」

彼女たちの笑顔が、僕の一日の始まりだ。でも最近、その笑顔の裏に何かを隠しているような気がしてならない。

あれから三年が経った。両親が突然この世を去ってから。あの日のことは今でも鮮明に覚えている。深夜、警察が来た。「事故です」と告げられたが、父の車は整備したばかりだった。ブレーキの故障?父があんなミスをするはずがない。

母の最期の言葉が、今も耳に残っている。病院で、かすれた声で。

「ユウ、お願い。妹たちを、必ず守って。誰も信じちゃだめ。家族だけ」

なぜそんなことを言ったのか。今も分からない。

十五歳だった僕に残された選択肢は、ただ一つだった。中学を卒業したばかりの僕は、高校進学を諦め、働くことを決めた。親戚の叔父が引き取ると申し出たが、その目が妙に光っていた。両親が残した保険金と家。それが目当てだと直感した。

「いいえ、僕たちは一緒に暮らします」

叔父の顔が歪んだ。「後悔するぞ」その言葉が、何か不吉なものを感じさせた。

建設現場での仕事は想像以上に厳しかった。朝は五時に起き、妹たちの弁当を作る。それから現場へ向かい、夕方まで体を酷使する。最初の頃は毎日体が悲鳴を上げた。手の皮は剥け、筋肉は悲鳴を上げた。でも、止まるわけにはいかない。

帰宅後は洗濯、掃除、夕食の準備。妹たちの宿題を見て、一緒に夕食を食べる。そして就寝前には、必ず二人の話を聞く。

「今日ね、算数のテストで百点取ったの!」

「私も!先生に褒められたよ!」

双子の美咲と優奈は、いつも明るい。でも時々、二人が何かを我慢しているような表情を見せる。友達の家に遊びに行けない。新しい服が買えない。修学旅行のお小遣いが少ない。

ある夜、僕は自分の部屋で泣いた。机の引き出しには、大学の資料が入っている。理系の研究者になりたかった。ロボット工学を学びたかった。でも今、その夢は遠い。

「僕は、正しい選択をしたのだろうか」

壁に貼られた家族写真が、答えてくれない。

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