未完成悪魔機械化事典 アスタロトと高校生
蔦葛
①アスタロトと高校生
「つまり、その男は絶対に約束を破らない。というのか。」
くるくると巻きがある赤紫の髪。赤いサファイア、ピンクの服。サクランボを食べながら、部下の報告を聞く女。
魔界における貴族。最強の悪魔の一人。アスタロト。
「はい。その通りです。今時そーいう魂は貴重です。見つけるのに苦労しましたよ。」
部下は鬼のように角があり、いかにも悪魔の部下という見た目の下級悪魔。
日頃退屈しているアスタロトの機嫌を取るため、部下の悪魔たちは日々アスタロトが気に入るような人間を探しているのだ。
アスタロトは少し考えて、その男を見に行くことにした。
安堵の一息を突く部下。アスタロトの機嫌を損ねれば、一人や二人消滅するのも日常茶飯事だからだ。
その男は学生だった。高校生。顔は四角く、四角い目に髪型も四角、四角い鞄、すべてが直線で構成されたような男だった。
「ふーん、見た感じ普通ね。」
「なんでも、絶対に遅刻しない欠席しないって約束をしてるとか」
人間界では、頭の羽を隠し、部下は角を隠し、人間の擬態をしているが、
どこかズレているのか、明らかに場違いなド派手ファッションで物陰に隠れて観察している。
男が歩いていると、いつもの通学路が、工事中で、迂回しなければならない状況だった。
別にそれだけで遅刻するというほどではないが、面倒には変わりない。
男は、何の躊躇もすることなく、飛んだ。
ジャンプして工事区間を飛び越えたのだ。
明らかに縦に3メートル、横に10メートルほど飛んだ。
「どうです!?まっすぐな男でしょう!?」
部下は自信たっぷりにアスタロトに答える。
「いや…まっすぐなのかアレは・・・」
「なんでも、昔はまともに学校に行って無かったんですが、ある時幼馴染の女と約束したそうです。もう絶対に遅刻しないって。」
「ふーん。」
アスタロトの目が赤く光る。
「あたし、そーいう人間、だーいっきらい。」
男の歩く先に、金が落ちている。
10円とか100円とかじゃない。札束で1000万ほどある。
「あの金を持って帰れば遅刻決定!さーどーする!?」
「安直だなぁ」
余計な一言で頭蓋骨が陥没するほど殴られる部下。
男は金の前に立ち止まる。
「あの男の家はビンボーだから、絶対持って帰りますよ」
部下は細かいことまで調査済みだった。こういうところがアスタロト一の部下に選ばれる理由だろう。
「あっ!蹴った!!!」
蹴った。目の前の札束の山を。蹴った。蹴り飛ばした。
「もしあれを落として困ってる人が居たらどーすんのよ!!」
自分が仕掛けた罠に意味不明な憤慨をするアスタロト。
「バカか大物かのどっちかですね。」
あきれる部下。
「しょーがないから、あんたが力づくで止めてきなさい。足の一本折れば諦めるでしょ。」
「安直だなぁ」
アスタロトのローキックで両足をへし折られる部下。
下級とは言え悪魔なのですぐに復元するが痛いモノは痛い。
「そこのお前!ケガをしたくなければ別の道を」
バキッ
蹴った。
下級悪魔は人間に化けているとはいえ、一撃で倒れた。
「負けてんじゃないわよ!!」
「すんません・・・あいつ何か異常に強くて・・・」
「こーなったら私が直接出るわ!」
「安直だなぁ」
コンクリートの壁に頭を埋められる部下。
「小林くーん」
「・・・」
「たまには寄り道して行こうよ。あそこにおいしいコロッケが・・・」
「誰だ、お前は。」
「いや私だよ。石田・・・」
「いいか、本物の石田さんは、必ず俺より先に学校についてるんだ。」
「今日はたまたま・・・」
「石田さんは、たまたまなど無い。」
「いや私も人間だしたまには・・・」
「無い。」
男が顔を近づけて、ものすごい圧で、もう一度言う。
「無いんだ。」
アスタロトは狼狽する。なんなのよコイツ。イカれてるの・・・?
「やーめた。」
変身をとき、元の悪魔の姿に戻る、頭の羽も隠していない。
「蹴る。」
明らかに非現実的な、人が変身するような異常な現象が起きたことに、一切躊躇せず、
いきなり顔面を蹴ろうとする小林。
しかし、吹っ飛んだのは小林の方だった。
空中で5回転し自分にぶち当たる。
何が起きたのかわからない。衝撃で脳震盪を起こし、平衡感覚が狂い、立つこともできない。
地面に膝をつき、見上げる事しかできない。
「あはははははは!悪魔にかなうわけないじゃな~~~い。ちょ~っと撫でただけでこれだもん。」
悪魔。悪魔の中の悪魔。アスタロトに勝てる人間など存在するわけがない。
「あんたさー。なんでそこまで約束を守ろうとするわけ?」
「・・・」
アスタロトをにらみつけるが、小林の体はまだ動けない。頭からドクドクと血が流れている。
「約束は、守って利益があるからするものなわけで、なのにあんたの場合、何の得にもならないじゃない。」
「・・・」
「なのになんでここまでして?何の得があるわけ?」
「それは・・・」
「それは~?」
嫌らしい微笑で男を見下すアスタロト。
「俺が彼女との約束を守りたいからだ。」
そんな悪魔から目をそらすことなく、まっすぐに目を見て答える小林。
「・・・はーつまりぃ、あんたはあの女のことが好きなのね?」
「・・・」
小林は悪魔の発言に、うつむき、力なく答える。
「そうだ」
悪魔の嫌な笑顔がさらに歪んでいく。とても嬉しそうな、邪悪な笑顔。
「いいこと教えてあげようか。あの女はお前じゃない男を・・・」
「知っている。」
アスタロトの言葉を遮るように答える小林。目を合わせはしない。
「・・・」
笑顔が消え、驚きの顔、目を丸くして硬直するアスタロト。
「えっ・・・?なのになんで・・・?なんで約束守ってんの・・・?なんのために・・・?」
「それが男の価値観だからだ。それが男の生き方だからだ。」
コイツは・・・何を言ってるんだ?アホなのか?
だから、約束ってのは、守ることに利益があるからやるわけで・・・
ダメだ、考えると頭が痛くなってきた。
「はーーーーーーーーーーーーーーー、やめた。アホらし。」
踵を返すアスタロト。
「帰る。」
そう言って、地面が歪み、液体になり、そこに落ちて沈んで消えるアスタロト。
「・・・」
そこには小林が一人だけ取り残されていた。
「・・・」
「・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
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