50代男性・記者
ああ良かった。繋がったみたいですね。お仕事お疲れ様です。
サービス開始、おめでとうございます。
いや、本当はサービス開始当日にお電話差し上げたかったんですけどね。
怪異専門機関の方へのお祝いとお話を聞かせてもらっていたら、つい遅い時間になってしまいまして。
一応ご無礼かと思いつつ深夜に電話させていただいたは良いものの、うまくつながらず、本当に残念です。
ええ、本当ですよ。なんせ怪異専門機関が開設されてから、ずっと密着取材をさせていただいておりますから。
名乗り遅れましたね。わたくし、週刊チルの記者として怪異についての記事を書いているものです。
「ロバの耳」の宣伝にも微力ながらお力添えさせていただいております。
なるほど。まず、週刊チルをご存じではない。
まあ、有名とはいえない、小さな会社の雑誌ですからね。
では、僭越ながら軽く紹介させていただきます。
週刊チルは怪異に関する記事のみを取り扱った怪異の専門誌とも言って良い雑誌です。
怪異に関する事件や物語の紹介から、実際にそういう噂がある場所へ行く企画なんかもやっています。
怪異の話が好きな方々からありがたいことに好評でして、「ロバの耳」に関してもより詳しく特集でも組めばもっと世間に認知していただけると考えています。
そういうわけで、今回は取材も兼ねてお話しいただきたいとお電話かけさせていただきました。アシさんとはこれからもぜひ仲良くさせていただきたく…。
…ああ、注意事項の話ですね。
はい、もちろん存じております。「電話で話した内容を他の人に教えてはいけない」ですよね。
他の人に話してはいけないではなく、教えてはいけないという文面からして、記事にすることも注意事項に含まれる、と。
そうですねえ。わたくしどもとしても、怪異専門機関の方々から悪い意味で目を付けられるというのは避けたいですし…。
話の内容には言及せず、感想にとどめるのが無難でしょうか。
記事にしにくいですが、仕方ありません。あとは読者の方々が実際に体験するのがよろしいでしょう。
あ、個人的にいくつか質問してもよろしいでしょうか。
ほとんど知っていることがないなんてことは承知しています。
昨日、怪異専門機関の方々にアシさんのことは聞きましたから。いえ、詳しいところまでは聞けませんでしたが。
そういうわけなので、この仕事に従事するまでのきっかけなど、お聞かせ願えたりしないでしょうか。
そうですか。残念です。
そんなにこの仕事について知らないんですか?
はあ、そちらはずいぶんと事務的なんですねえ。
でも、このサービスの目的くらいは知っているでしょう?怪異の発生を抑制する。素晴らしいですよね。
ここ最近は怪異が原因と思われる事件も爆発的に増えていますから。
週刊チルも、今では事件を報道するための新聞のようになりそうな勢いです。
そうですよ。昔から怪異が原因と考えられる妙な未解決事件はたまにありましたが、今はそれが確実に増えてきています。
たしかそのきっかけとなる原因も研究していらっしゃいましたね。ご存じない?
あなたも知っておいた方がいいですよ。研究者ではなくとも、この仕事をするなら、いつか役に立つ日も来るかもしれません。
一応言っておくと、この辺はまだ研究も進んでいませんから、考察の域は出ませんよ。
まず、怪異の発生条件から。現状で確認できているのは、1つ目に多くの人に知られていること。2つ目に、科学など人の力で説明できない現象、存在であること。この2つの条件を満たしたら怪異として成立し、猛威を振るうようになると考えられています。
この条件をふまえると、やはりSNSなどによる情報の伝達速度が向上したことは、原因の一つとして挙げられやすいですね。中でも、間違った噂や勘違いがそのまま怪異の特徴になったり、誰かが悪ふざけで広めたほら話が独り歩きしたり。
この辺は人の口には戸が立てられないと言いますから、SNSが無くてもいつかはこうなっていたんじゃないか、という意見もあります。
あとは、数年前のホラージャンルの流行ですね。結構すごかったでしょう。週刊チルの売上もそのタイミングは普段の10倍以上になったりしました。
え、まさかこれも知らない?もしかして、そういった娯楽はあまり好まれない方でしたか?
いえ、珍しいなと思いまして。ホラーというジャンルが世間で非常に流行って、昔の作品が掘り出されることに始まり、映画、小説、ゲーム、アトラクション。ありとあらゆるホラーが生み出され、研ぎ澄まされていったと言ってもよろしいかと。
まあ、流行り廃りはあるもので、今はそこまでではないですけどね。
でも、その記憶が消えるわけではないでしょう。
例えば、トイレにまつわる怪談を聞いた夜、トイレがいつもより暗く見えたことはありませんか。
恐ろしいシーンの1つをふとした瞬間に思い出して、誰もいないはずの後ろを振り返ったことは?
あのホラーブームは、そういう、ある種の敏感さを人間に植え付けました。
そういうときこそ、人は恐ろしいものを見るものです。
それをすぐに共有できる場があったことは多くの人にとって幸運であり、不運にもなった、という話ではないかと言われています。
事件の増加により実在の怪異という存在の認知度が上がったことで、怪異に関する分野は再びたしかな盛り上がりを見せています。
ですが、ここまで事件が増えてしまっては不謹慎であるという意見が出てくるのもあって、雰囲気というか、居心地が悪くなった部分はありますよねえ。
警察も最近起きた事件に対して、情報も少ない中で事故か、事件か、怪異か、とずいぶんと悩まされています。
過去の事件でも本当は怪異の影響によるものだったんじゃないか、なんて意見が上がるものもあったりして、まさしくカオスといった状態です。
そりゃあそうですよね。どんなアリバイを崩し、証拠を集め、動機を見つけたところで、しかし、それができる怪異がいるんですよ。なんて言われたら解決する事件も解決しません。
怪異が犯人である可能性が不自然ではなくなった今でも、怪異に関する証言をそんなわけがないと突っぱねる方が多いのも、そんな現状に嫌気がさしているからなのかもしれませんね。
なので、そんな中「怪異による被害を防ぐ」という理念のもと立ち上がった怪異専門機関にはとても驚いたものです。
ですが、日々更新された怪異についての仮説や研究結果はどれも専門的で非常に興味深いものでした。もちろん、週刊チルでも紹介させていただきましたよ。
そうして民間の研究機関として日々尽力し、警察が公認したサービスを運営するまでになるとは、月日は早いものです。
まあ、現在はある程度の信用度はあるにしても、まず知名度がそこまでないというところですが。
警察からのお墨付きをもらって始まったサービスですから、今までのような怪異専門機関を支持する怪異に興味津々な方だけでなく、様々な人が注目するとわたくしは考えています。
なので、怪異専門機関のこれからは、このサービスの先行き、ひいてはそこから生まれる研究成果に大きく左右されるのではないでしょうか。
わたくしは、正直とても期待しています。ぜひ頑張っていただきたい。
ああ、怪異が発生しなくなることについては、わたくしは別に惜しいとは思いませんよ。
もちろん、怪異は好きです。だからわたくしは怪異についての記事を書けるところに就職したのですから。
ですが、こういうことではないんですよ。
たしかに、怪異が好きだからもっと増えてほしい。自分も会いたい。という声を聞くこともありますがね。
わたくしは違います。こんなにも悲惨な事件が怪異によって引き起こされている、というのはむしろ辛いことです。
これでは皆さん怪異に恐れを抱き、好きだと思ってくれる方は減ってしまう一方です。
わたくし、好きなものは共有したいタイプでして。こんな状況では、おおっぴらに好きだともいえません。
怪異の魅力を伝えるのに今の状態は適切でない、ということです。
なので、現状の打開のためにも、全力で応援したいというのがわたくしの考えです。
そういうわけなので、わたくしはこれからも「ロバの耳」の活動を追っていければと思います。
折角ですし、使用者の感想でも募ってみましょうかね。良い宣伝にもなるでしょう。
では、そろそろ失礼します。
ありがとうございました。また機会があれば、よろしくお願いいたします。
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