フェアウェル

シオノコンブ

第0話 『プロローグ』

もう記憶にない記憶が、夢の中で反芻される。

もう何度目だろう。

数えるのをやめたのは何度目だっただろう。


今もまだ反芻される。


温かい。


冷たい。


寒い。


それの繰り返し。


そして最後に残るのは、冷たい。


そんな記憶。


でも一度思い返せば忘れる。

だから反芻する。


温かい。


冷たい。


寒い。


それの繰り返し。


そして最後に残るのは、冷たい。


ふと、そういえばと思った。


そういえば、最後に残ったの、冷たいだけではなかったような気がする。

ほんの少し、温かいもあったような。


誰かが僕を抱きかかえている。

決して離さないように、息を切らしながら。


温かい。


それが何を意味するのか、分かるはずがない。


無意識にその顔に手を伸ばす。

届くはずなんてないのに、それができないできず伸ばし続ける。

でも、不思議だ。


どうして、伸ばせば伸ばすほど、遠くなっていくのだろう。


冷たい。


寒い。


そんなことしかわからない。

赤ん坊の僕には、そんなことしか。


「かわいそうに、こんなところに置いて行かれて」


誰かの声が聞こえる。

何を言っているのかは不明だけれど、誰かは僕を大事そうに抱きかかえた。


「もう大丈夫だよ。うちに来る?」


意味なんて分からないのに、僕は無邪気に声を出す。

それの意味をくみ取ったらしい誰かは優しく微笑む。


「そう。じゃあ行こっか」


温かい。


冷たい。


寒い。


そして温かい。


たぶん、それの繰り返し。


それの繰り返し。


そして最後に残るのは、やっぱり冷たい。


でも一度思い返せば忘れる。

だから反芻する。


何度でも、何度でも、何度でも。


それの意味が、理解できるまで。

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