『ココロ21グラムプロジェクト』

空月ユリウ

歩むその先の白/白狼

とある女旅人の日記より1

「白狼、ストップ」


主様がわたくしの前脚を叩かれ、止まるように指示されました。その通りに脚を止め、主様を見ます。

どうかなさいましたか?


「こどもだ。迷子かな」


主様の視線を辿ると、少し斜面を降った先に小さな人間の幼少体が確認できました。


生体スキャンではおよそ八歳。生物性別は男。軽装の上に上着を羽織っただけのようで、この深い森に出向くのには到底向いていない装いです。


「怪我してるね」


主様の仰られる通り、その男児は膝を擦りむいているようでした。聴覚デバイスが風に木の葉が擦れる音に混じった泣き声を拾います。


主様。保護された方が良いのではないでしょうか。この森に幼い彼だけでは心配です。


「そうだね。行ってくるから、白狼は待ってて」


畏まりました。体長が三メートルに届くわたくしは、生命体にとって危険物だと判断されやすいですから。


主様は身軽な身のこなしで斜面の下にいらっしゃる男児のもとへと辿りつかれました。


「わ、…だ、だれ、」

「わたしは旅人。あっちの白い巨狼、ええと、でっかい狼と一緒に旅をしてるの。きみは、迷子?」


主様と男児のご様子を、周囲を警戒しながら見守ります。


最初こそ驚いた様子の男児でしたが、膝をついて目線を合わせて話をされる主様に警戒が解けたのか、素直に返事をされます。


「………うん。ママとはぐれたの」

「そう。とりあえず人里に行こうか。白狼、この子背負ってあげて」


畏まりました。今そちらへ向かいます。


静かに男児の元へ降り立ち、小さなお身体でもわたくしの上に乗れるように四肢を曲げて地面に伏せました。主様がわたくしの背中に男児を乗せます。


「白狼、この辺の人里分かる?」


申し訳ございません、主様。ネットワークがこの森の中まで届いていないようです。ネットワーク遮断前に更新したマップと現在地の予測から人里のある場所の推測は可能です。


「それで構わないよ」


畏まりました。現在地より南東に一キロと百メートルほどの場所にニッディ町がございます。それ以外では幼い人の子の体でここまで移動できる範囲にございません。


「じゃあそこへ行こうか。少年、きみのいた町の名前はニッディだった?」

「う、うん、それ!ニッディ!」


男児が声をあげてわたくしの毛皮を叩きます。叩くと言っても幼子の力ですので、なんら弊害はございません。


主様が頷いてわたくしに先導するよう仰られます。仰せつかった通りに、背中にいる男児と周囲を気にしながら歩きます。


もうすぐ昼も過ぎる時間帯です。無理せずに急ぎましょう。





今は、機械やAI技術が発展し、とある事件によりそれらが否定的な意見を向けられ人々の生活から排他されるようになった時代。


人々が機械やAI技術より道具を好むようになった時代。


そんな時代を主様と渡ったわたくしの旅路、その記録をどうか、綴らせて下さいまし。

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『ココロ21グラムプロジェクト』 空月ユリウ @hujimaru

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