第8話
しばらくして照れくさそうに頭の後ろに手をあてたひよりが押し入れから出てきた。
「いやあ。びっくりしたよ」
「びっくりしたのはこっちだ。なんで人の押し入れでゲーム実況なんてやってるんだよ?」
「だってしばらくできてなかったからさ。みんな心配してるみたいだったし」
みんなって視聴者か。あのコメントの量から察するにかなりの人気みたいだった。
ひよりはへらっと笑った。
「びっくりするイベントがあってさ。それで声出ちゃったよ。まさかいきなり部屋に閉じ込められて大量のヘビのモンスターが落ちてくるとは」
「……だからってあんな大声出すなよ」
「ごめんごめん。防音シートは買って来たんだけど、張るのが面倒でさ。とりあえずここでゲームできるか試してからにしようと思ってたんだ」
面白がるひよりの後ろにはホームセンターで買ったと思われるウレタンパネルが大量に入ったビニール袋が置いてあった。
「……もしかしてお前が部屋を追い出された理由って」
「うん。声がうるさかったみたい。普段はそうでもないんだけどさ。びっくりすると出ちゃうんだよね」
やっぱりか。声のでかい実況者とかいるけど、あんなのの隣人は絶対イヤだと思っていたけど、まさかそれが押し入れに住み着くなんて。
ひよりは腕を組んでう~んと悩んだ。
「いやあ、できるだけバレずにいるつもりだったんだけど、まさか一日保たないとはね」
「そんなのバレるに決まってるだろ」
「そう? お兄さんなら気になっても押し入れを開けないでいると思ったんだけど。ちょっとタイミングが悪かったね」
「そりゃああんな悲鳴あげられたらな」
「わたしのせいじゃないよ。制作者がいじわるなんだ」
「……かもな」
それはそんな風に驚いてもらうために仕組んだんだから。
僕がふっと笑うとひよりは不思議がった。
「なんだい?」
「……いや。ゲーム。楽しかったのか?」
するとひよりはへらっと笑った。
「うん。ひねくれたところがとっても」
「……そうか」
ああ。そうだ。これだ。売れてお金が欲しいとか、有名になりたいとか、みかえしてやりたいとか、そういうことじゃない。
僕はただ誰かにそう言ってもらいたかったんだ。
勝手に落ち込んで勝手に救われためでたい僕を見て、ひよりはフッと笑った。
「でもダメじゃないか。勝手に押し入れを入れたら。こんな美少女がいるんだから」
僕はやれやれと肩をすくめた。
「次からは気を付けるよ」
とは言いつつも僕は確かに感じた。
諦めたはずのそれに再び火がついたのを。
押し入れを開けないでください。美少女がいます 歌舞伎ねこ @yubiwasyokunin
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