歪んだ息子と支配された母 境界線の向こう側

みさき

歪んだ息子と支配された母 境界線の向こう側



エイトは二十二歳、家から通える大学に通うごく普通の学生だった。家族は五十二歳の母マリ、五十五歳の父、二十五歳の兄の四人。何の変哲もない、どこにでもある家庭。少なくとも、一年前まではそうだった。


きっかけは些細な、しかし決定的な瞬間だった。入浴中の母が録画し忘れたテレビ番組をセットするため、バスタオル一枚だけの姿でリビングに現れた。リモコンを拾おうとかがんだその時、タオルの隙間から見えた柔らかな肌の曲線──半尻のほんの一瞬のぞいた光景が、エイトの内側で何かをひっくり返した。


それからは堕ちていく一方だった。最初は罪悪感を覚えながらも、母子相姦を扱う専門サイトや動画を漁る日々。交際中の彼女との会話も上の空になり、やがて別れた。彼女の顔よりも、母の笑顔が頭に焼き付くようになった。


行動はエスカレートした。洗濯かごに投げ込まれたばかりの母の下着──特に深夜の、脱ぎたてのものには独特の温もりと香りがあった。これまで面倒に感じていた母との買い物も、今では積極的に付き合う口実に変わった。「肩が凝ってるみたいだね」とマッサージと称して触れる肌の感触。母は少し困惑しているようだったが、深くは追及しなかった。


転機は、両親の影響で家族全員が好きになった、デビュー四十年を超える大御所アーティストの地方公演だった。エイトは苦労してチケットを二枚手に入れ、母と泊まりがけで行く計画を立てた。父と兄には「母さんと二人で思い出作り」と説明した。


何も告げず、わざとツインルームを一室だけ予約した。


公演は素晴らしかった。興奮で頬を染める母を見ながら、エイトは決意を固めた。今夜しかない、と。


母が入浴を終え、バスローブをまとって部屋に戻ってきた時、エイトはすべてを打ち明けた。混乱し、拒絶する母に対し、エイトは言った。


「マリさん……マリ、好きなんだ」


そして続けた。


「僕も子供じゃないから、お互いの立場はわかってる。だから……今夜限りでいい。同じベッドで、ただ時間を共有させて。それだけでいい」


長い沈黙が流れた。母マリは言葉を発さず、かすかにうなずいた。


その夜、母子という一線は越えられた。血のつながりが、不思議な親和力を生むかのように、二人の身体は朝まで重なり合った。


マリは「一夜限り」と自分に言い聞かせた。しかしエイトが迫ってくると、またしても拒めなかった。家族の目を盗み、こっそりと関係を重ねていく日々。


「これではいけない」とマリは思う。それなのに、気づけば息子の身体を求める自分がいた。麻痺したような感覚。思考が曖昧になり、抵抗する意志が溶けていく。


エイトの欲望は留まるところを知らなかった。


行動はさらに先へ進んだ。車で郊外まで出かけ、恋人同士のように手を繋ぎ、腕を組む。親子だとバレないスリルが、背徳感をさらに煽った。ラブホテルの昼間のフリータイム。漫画喫茶のペアブースで、息を殺しながらの密会。


エイトは母専用のSNSアカウントをスマホで管理し始めた。モザイクなしの写真を投稿し、母のコーディネートを中心に更新していく。五十二歳とは思えない反響の高さに、エイトは複雑な興奮を覚えた。


同年代の女性からのフォロー以上に、男性からのコメントやダイレクトメッセージが増えていく。それらを母に見せると、マリは不快そうな表情を浮かべた。しかしエイトにとって、その少しの嫉妬が快楽に変わった。母に対する承認欲求が、歪んだ形で満たされていく。


マリの心は完全に受け身になっていた。エイトに支配され、思考さえ麻痺している。


ある日、エイトは危険な着想に至った。母に言い寄ってくる男性たちへの嫉妬──その刺激を可視化したい。中でも、真面目そうで清潔感のある若者に目を留めた。彼に母を差し出すことを思いついたのだ。


エイトはマリになりすましてメッセージを交わし、会う約束を取り付けた。待ち合わせ場所から最初のカフェ、そしてホテルへと向かう母の後を、少し離れてつけた。母が他人の腕に抱かれていくのを見て、エイトは激しい興奮に震えた。


その夜、大学生と身体を重ねた母に対し、エイトは嫉妬を交えた尋問を浴びせた。母の細かな反応が、さらに彼の欲望をかき立てた。


同じような行為を何度も繰り返すうち、マリは少しずつ壊れていった。目に力がなく、受け答えもぼんやりしていることが増えた。それでもエイトは満足せず、今度は目の前で母が他人としている様子を見たくなり、ハプニングバーへ通い始めた。


転機は、母が流行性の風邪で寝込んだ時に訪れた。


熱にうなされ、弱々しくベッドに横たわるマリの姿を見て、エイトは初めて我に返った。これまで自分がしてきたこと──母を支配し、弄び、少しずつ壊してきた行為の数々が、突如として巨大な罪悪感としてのしかかってきた。


汗で濡れた母の髪を整えながら、エイトは決意した。


他人を交えず、二人だけの関係に戻ろう。これ以上母を傷つけないように。


夜が更けるにつれ、熱は少しずつ引いていった。目を覚ましたマリは、ベッドサイドに座る息子の姿に気づき、かすかに微笑んだ。


「心配かけたね」


その言葉に、エイトの目から自然と涙がこぼれた。彼は母の手を握り、小声で呟いた。


「ごめんね、マリさん。もう……大丈夫。二人だけに戻ろう」


窓の外では、夜明け前の薄明かりが東の空をほんのりと染め始めていた。長く、暗い夜がようやく終わろうとしている。


二人のこれからがどうなるかは、まだわからない。越えてしまった境界線は、もう元には戻せない。それでも、この瞬間だけは、歪んだ愛が少しだけ純粋な形に戻ったように感じられた。


エイトは母の手を握ったまま、ゆっくりと夜明けを待った。


マリも、家族をはじめ、周りには決してバレてはいけないという理性だけはあるものの、エイトなしでは成り立たない暮らしがあることが自然となり、2人の母子は、今後も周りの目を盗んで身体を重ねていくことに。

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