魔王城の大掃除をしたいのですが、魔王様が全然協力してくれなくて困っています。

はじめアキラ

魔王城の大掃除をしたいのですが、魔王様が全然協力してくれなくて困っています。

「ええ、皆も知っての通りだ」


 そこは、世界征服を目論む魔王軍が住む魔王城――の大会議室。

 現在ここには、参謀である僕と魔王様、多くの部下たちが集まっている。

 ある程度階級が高い者達ばかり揃っているとはいえ、それでも総勢数十人はなかなか圧巻だ。マイクを手に、僕は皆に説明を開始する。


「我々の道を阻む勇者が、もうすぐ魔王城にやってくる。既に、城下町のすぐ近くまで迫ってきていると報告が入った。よって、我々も迎撃態勢を整えねばならない」


 かつて人間達と対立し、虐げられた結果魔界という不毛の土地に追いやられた魔族。その魔族の悲願は、この世界を人間どもの手から取り戻し、地上に魔族の楽園を作ることにある。

 自分たちは倒れていった多くの魔族たちの夢と希望、未来を背負っているのだ。勇者や人間どもなんぞに負けてやるわけにはいかない。実際、もう何千年も女神が選んだ勇者と、人間の兵士たちと血で血を洗う戦いを繰り広げてきたのだ。

 だが、今回の勇者は相当手ごわいことで知られている。スネーク、ワイバーン、ドラゴン、ホーネット。数多くのモンスターと魔王軍の兵士たちを差し向けたが、全て返り討ちにされてしまっているのだ。

 彼はゆっくりとしたスピードで、しかし確実にこの魔王城を作った城下町に迫ってきている。勇者の活躍によって、人間達の士気も相当上がっているようだ。ここで確実に食い止めなければ、魔族はまた魔界へ追放されてしまうか、あるいは皆殺しの憂き目に遭うだけだろう。


「地上に作った前線基地でもあるこの魔王城は、数々のトラップを備えている。三代前の魔王様が作ってくれた、大事な遺産とも言うべきものだ。……勇者どもがどこから侵入してくるかを計算し、トラップと待ち伏せで確実に仕留めなければならない」

「い、イエス、サー」

「だがそのためには、全ての罠の点検と、罠がちゃんと規定通りに作動するように清掃・整備、人員の配備の決定などやるべきことがいくつもある。勇者がやって来るまでどう見積もっても一週間程度しかない。よって、時間の余裕はまったくないわけだが……」


 ちらり、と僕は隣を見た。

 隣で――大きな背中を丸めて、いじけながら知恵の輪をいじっている魔王様を。


「……御覧の通り」


 ああ、頭が痛い。僕はため息をついたのだった。


「魔王様がすっかりいじけてしまって、片付けを完全に拒否っておられる。……お前たち、なんか、いい案ない?」




 ***




 我らが魔王様は、立派な人物だ。

 見上げるほどの長身。まだ三千ニ十歳という若さでありながら、魔族を立派にまとめあげる手腕とカリスマ性を持っている。仲間思いで部下思い、新人の部下も自ら丁寧に指導してくれる。そして、任務に成功したら毎回ちゃんと褒めてくれるし、頑張った分だけお給料のベースアップも約束してくれる理想の上司と言える。

 そして、長い金髪に褐色の肌、美しい宝石のような赤い目という美貌。筋肉質で男らしい体と立派な二つの角。魔族なら、内面も見た目も性格も全て含めて、惚れ惚れする好漢だと言えるだろう。

 勿論戦闘能力だってもちろん高い。魔族一の怪力と魔力を合わせもつ彼に勝てる者など存在しない。勇者とのタイマン――なんて事態は参謀の僕としては避けたいが、仮にそうなったところで負けることなどありえないだろう。

 だが。

 そんな彼には一つ。たった一つだけ、致命的な欠点があったのだ。


「なんかいい案、と言われましても」


 部下の一人が困ったような顔で言う。


「そもそもなんで、魔王様はそんなしょんぼりしちゃってるんです?何があったんです?お片付けがそんなに嫌なんですか、自分のお城なのに。そりゃあ、広いから面倒だとは思いますけど……」

「おいリアン、お前マジで言ってる?」


 僕は呆れ果てて告げた。


「このお城のトラップの点検・作動をするためには、お城に今置いてある余計なものを全部片づけないといけないわけだ。矢が飛んでくる排出口に障害物があるとか、せっかく地雷があるエリアに障害物があって入れないとか……じゃ意味ないだろ?」

「障害物というのは」


 彼、リアンは会議室の壁を指さした。


「あれとか、あれとか、あれですか?」


 そう。

 余計な障害物――は、この大会議室にもところせましと置かれている、あるいは貼られているのである。

 壁際に置かれた等身大フィギュア。

 壁と天井にべったんべったん貼られまくっている巨大ポスター。

 オモチャの聖剣に、棚の中を占拠している大量のCDとファイル。なんなら魔族の画家を脅して描かせたのであろう、油絵の似顔絵まで。


「障害物じゃないもん!」


 その声に反応して、魔王様が声を上げた。――美丈夫のバリトンボイスの「もん!」とか聞きたくなかった、ほんとに!


「全部全部、我の大事なもんだって言ってるでしょうが!我、嫌だからね、推しグッズ片付けるの!絶対絶対嫌だからねええええ!」

「捨てろって言ってんじゃなくて、片付けろって言ってんでしょうが!」


 僕はその声に思わず吠える。


「大体、なんで魔王であるアンタが、勇者ガチ推しになってんのおかしいでしょうが!!」


 そう。

 この魔王城のいたるところに飾られている青年の写真やらフィジュアやらは全て――ある、特定の人物のものなのである。

 現在、この魔王城に迫ってきている勇者。

 なんとこの魔王様、どういうわけかその勇者のガチすぎるファンになってしまったのである。それでグッズを買いあさり、あるいは自ら製作し、魔王城にどんどんため込むようになってしまったのだ。

 おかげで今このお城の中は、勇者グッズで溢れんばかりになっている。――勇者と激闘を繰り広げて帰ってきた部下たちが毎度それらを見てどんだけしょっぱい顔をしているのか、この魔王様はわかっていないのだろうか。


「だってかっこいいだろ、勇者。今までの勇者で一番かっこいいんだぞ」


 魔王様はにべもなく言う。


「前回の勇者なんか、チビデブハゲと三拍子そろったおっさんだったんだぞ、ちっとも萌えやしない。その前の勇者は女の子だったけど顔隠して貞子みたいになってて全然好みじゃなかったし?そのさらに前の勇者は毎日風呂に入らないってんで全身から腐った卵みたいな臭いしてたんだぞ、気持ち悪すぎて斬り捨てた剣ごしごし石鹸で洗ったくらいだからね?」

「魔族の伝説の剣、普通の石鹸で洗うのやめてもらえます?」

「その前も前も、変態だったり金の亡者だったり逮捕されたりとにかく何かしら残念なやつばっかり。やっと真っ当なイケメン勇者が来たんだぞ、これで盛り上がらないわけあるか?しかもちゃんと鍛えて、寄り道もせずちゃんと真っすぐ我のこと倒しにきてくれるんだぞ?めっちゃ感動したからな!!」

「……今までの勇者が死ぬほど残念だったってのはまあ、わかりますけどもね」


 人間――というか魔族だけども――は誰しも、比較でものを考えてしまうものらしい。

 今までの勇者があまりにもお粗末だったせいで、今回の真っ当な勇者があまりにも素晴らしく、キラキラして見えてしまったということらしかった。


「あの、疑問なんですけどお」


 別の部下が口を開いた。


「似顔絵とかは自主製作なんでしょうけど……フィギュアとかCDとかはどうしたんです?」

「どうしたって、買ったに決まってるだろ」


 彼女の言葉に、魔王様はあっさりとのたまった。


「女神がネットの通信販売で売ってるんだ。知らなかったのか?アクリルスタンドとぬいぐるみなんて人気で、まだ我が手に入れてない種類もたくさんあるんだ。現在再販を心待ちにしているわけでな」

「女神何やってんの?」

「どうやら女神も金欠らしい。たくさん勇者を異世界から呼びまくったせいで金がなくなったんだと」

「勇者呼ぶのに金がいるの?」

「女神にちらっと問い合わせたところ、金欠で困ってるって言ったら勇者が助けてくれたらしいぞ。歌ってCDデビューもしてくれたし、インタビュー取材とか現世暴露本とかいろいろ出してくれたらしい」

「勇者も何やってんの、ねえ?」


 そしてそれらにそんな需要があるんかい!と僕は机を叩いて突っ込む。確かに、魔王様が推しグッズを魔王城にためこむためには、誰かがそれを売っていないと成立しなかったわけだが!


「……魔王様。魔王様の勇者へのラブはわかりました。しかし、このまんまだと推しグッズが邪魔で作動しない罠がたくさんあります。なんとかして、片付けていただけませんか」


 頭痛を覚えつつも僕は懇願する。しかし。


「え、無理」


 魔王様、即答。


「第一倉庫から第十倉庫までもうみっちみちなんだぞ。片付けろつっても、どこに入れろというのだ?」

「まって、最近食料品とか武器が通路に溢れてんのアンタの推しグッズのせいなわけ!?」

「そもそも倉庫に入れてしまったら愛でられないではないか!すぐ目に付く位置に置いておきたいんだよ、二百三十種類くらいは!」

「ダメに決まってんだろこのダメ魔王!!」


 思わず、魔王様に対して暴言を飛ばしてしまう僕。すると魔王様は子供のように頬を膨らませた。

 何度も言うがこの魔王、三千二十歳のマッチョマンな美丈夫である。繰り返す、マッチョマンである。


「あっそう。じゃあ我、片付けなんかしないもんね。みんなも、我の推しグッズ勝手に片付けた奴にはメテオくらわすもんねー」

「パワハラ!」


 ああ、推しが絡まなければいい魔王様なのに、なんでこんなことに!

 僕は仕方なく、切り札を切ることにする。


「魔王様。何度も言いますが、もうすぐこの城に勇者本人が来るんですよ?」


 このままぐだぐだと粘られてはラチがあかない。ならば。


「この推しグッズだらけの残念魔王城、本人に見られてもいいんですか?僕だったら間違いなくドン引きしますけどねー?」

「う、うぐっ……」


 推し本人にドン引きされる、というのは結構堪えたらしい。魔王様の顔が引きつる。ならばあと一押しだ。


「なんなら、アレ見られてもいいんですか?……トイレの中に隠してある、勇者×ライバルの薄くてキラキラしたえっちな本……」

「うわああああああああやめてくれえええええ!そ、それだけは!女神の同人即売会で買ったお宝本だけは!!」

「それも女神様主催なんかい!!」

「ていうかその本を描いた張本人だ!」

「なお悪いわ!!」


 トドメの一撃を食らった魔王様はさすがに撃沈。しおしおと、片付けをすることに同意したのだった。

 よって、邪魔な推しグッズをなんとか掃除して、魔王城中のトラップ点検を完了させることができたわけである。あとはもう、勇者が来るのを待つばかりだったのだが。


「な、なあ参謀よ!……ゆ、勇者の前にはどんな服で出ればいいと思う?我のこの服、似合う?」

「デートかよ!?」


 今度は魔王様が、勇者の前に出る服を選ぶのに迷いまくって、部屋から出てこなくなってしまった。

 ああ、大丈夫かこの魔王軍。

 ていうか、この世界!

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魔王城の大掃除をしたいのですが、魔王様が全然協力してくれなくて困っています。 はじめアキラ @last_eden

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