第6話 そしてきみたちはジョッキを鳴らす

 一年前のあの日きみたちは意気投合した。

 居酒屋でたまたま隣り合わせただけだったのに、きみたちのグループはどちらも人懐こく社交性が高く、そして何より酔っていた。合コンのノリで飲み明かした。

 気がついたらきみたちは二人の朝を迎えていた。


 あれからきみたちはいくつもの修羅場を乗り越えた。お互い交際相手がいたからだ。

 はじめは倦怠期を癒やす浮気のつもりだった。しかしきみたちの情熱は冷静を上回った。お互いの相手に別れを告げるために二度も三者協議をこなすことになった。

 そういう意味ではきみたちは真面目だった。

 ふつうわざわざそんなことはしない。修羅場を迎えるよりも自分勝手に別れを告げるか自然消滅だ。しかしきみたちはけじめをつけた。


 きみたちの関係が一年続いたのはお互いの仕事が忙しかったこともあるだろう。

 きみたちは飽き性だ。もし毎日顔を合わせていたらすぐに互いの欠点を見つけて非難し合っただろう。

 ほどよい逢瀬がきみたちを一年もたせた。しかしやはり倦怠期は来る。そしてまた新しい恋も。


 これはきみたちの宿命だ。交際相手がいるにもかかわらず新しい相手と出会ってしまう。

 こうして精算のために最後の会食を、出会った居酒屋で過ごすことになった。


 きみたちは思い出す。同じ名前で意気投合したことを。

 出会った日に割り箸の袋に互いの名を書いて交換した時にわかったのだ。今夜もまたあの日と同じ交換をする。

 れんれん。それがきみたちの名だった。

 別れたら失恋だな――と言って笑ったフラグはこうして回収される。

 あの夜と同じ酔った勢いできみたちはジョッキをカチンと鳴らした。




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2025年11月6日 エブリスタ お題「失恋」

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きみの短い物語 はくすや @hakusuya

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