第2話 異世界での目覚め

「ここは……」


どうやら私は、大きな木にもたれ掛かるようにして眠っていたらしい。

辺りを見渡してみるが、視界に入るのは木、木、木。

「まさに『森』。漢字の成り立ちに感心してる場合じゃないか」


そうだ。

あの訳のわからん神様もどきに、異世界転生とかいうので生き返らせてもらったんだった。

ということは、ここが異世界?あれ、赤ん坊からやり直しじゃないの?

……まあいい。そこは気にしないでおこう。


とにかく現状確認だ。

間違いないのは、あたしが屋上から落ちて死んだということ。

そして今、こうして知らない森にいるということ。

スーッと大きく息を吸い込んでみる。

肺に空気が入る。

……よし、生きてる。


ふむ、と立ち上がったあたしの前を、小さな影が横切った。


『おはよう。よく眠れたかい?』

あの「猫たぬき」だ。


「おかげさまで。永遠の眠りにつくところだったよ」

『ふふ……起きてすぐにそんな皮肉が言えるなんて、君はなかなかいい性格をしてるね』


あたしは猫たぬきをキッと睨みつけた。

改めて見ると、確かに新種の猫のようなタヌキのような姿をしている。

黒目がちな瞳に、もふもふの毛並み。

中身はさておき、悔しいけれど見た目だけは愛くるしい。

……ぶん殴る前に、色々と聞き出さなきゃ。

ここは我慢だ。


それからあたしは、猫たぬきを質問攻めにした。


自称・神様もどきの名前は「アルテマ」。

全宇宙の思念体だか何だか知らないが、今ここにいるのは実体化させた一部に過ぎないらしい。

あたしがこの世界に慣れるまでガイドとして付いてくるという。

「魔法少女にはペット役が必要でしょ?」とか抜かしていた。

正直ウザいが、右も左もわからない世界で一人きりは心細い。

やむなく同行を許可することにした。

ただし、可愛い姿に似合わない名前なので、省略して「アル」と呼ぶことにした。


さて、ここからが本題だ。

あたし、桜井鈴音(18)は、晴れて無事に「魔法少女」になったそうです。

……ふざけるなと言いたい。

何が悲しくてこの歳で魔法少女にならなきゃいけないの。しかも異世界で。


見た目を変えてとは言ったが、変わるのは「変身後」だけ。

変身前の姿は、死ぬ前となんら変わらない。……泣ける。


あと、左手にはブレスレットが装着されていた。

こいつで変身するらしい。

しかも体の一部みたいになっていて、この世界のどんな手段を使っても外せないんだとか。


『耐衝撃、防水、防塵!ドラゴンのブレスでも破壊できない強度だよ!』

「G-SH○CKか!」

っていうか、この世界ドラゴンいるの!?


『このブレスレットは収納機能もあるんだ。いくつかマジカルグッズを入れておいたから、後で説明するよ。イメージすれば異空間から出し入れできる、四次元カバンみたいなものさ』


さらに驚愕の事実。

変身前のあたしは、「すぐに死なない程度に丈夫」にはなっているものの、それ以外は転生前と何も変わらないらしい。

……異世界転生詐欺じゃないの?


『君は魔法少女なんだから、戦う時は変身すればいいのさ』

アルが平然と言う。


え、あたし異世界で戦うの?聞いてないんだけど。


それからたっぷり時間をかけて、魔法少女(笑)についてのレクチャーを受けた。

……無理。一回で覚えられるわけがない。説明書プリーズ。

あたしの暗記力の弱さを舐めないでほしい。


感想を一言で言えば、「ふざけてる」の五文字に尽きる。

魔法少女だよ?あたし、18だよ!?

天を仰ぐ。

こっちの世界の空も、無駄に綺麗だ……。


現実逃避を決め込もうとした、その時だった。


『この先で馬車が襲われている!』

アルの声が鋭くなった。


「馬車?何も見えないけど」

キョロキョロ見渡しても、視界にあるのは木だけだ。


『君には見えなくても、僕には感じ取れるのさ!』

なんか誇らしげなアルの顔がムカつく。


「……で?まさかあたしに助けに行けって言うの?」

『当たり前だろ?君は魔法少女なんだから。さあ、行くよ!』

アルが森の奥へと駆け出した。


誰が魔法少女にしてくれなんて頼んだのよ……!


「ちょっと!一人にしないでよぉ!」

仕方なく追いかけるあたしの足取りは、18年の人生で一番重いものだった。

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