俺を蔑む聖女様が放課後に俺の膝枕で「好きすぎて死ぬ」と身悶えている件。
雨月 揺
第1話:聖女様の蔑みは、蜜の味
「……目障りよ。視界に入らないでくれる?」
凛とした、鈴を転がすような声。 だが、その言葉には刃のような冷たさが宿っていた。
学園の廊下。俺の目の前に立っているのは、
そんな彼女が、俺――
「すみません、天ヶ瀬さん。すぐにどきます」
俺は死んだ魚のような目のまま、感情を殺して謝罪した。 生まれつきの目つきの悪さと、何を考えているか分からない暗い雰囲気。 それが原因で、俺は学園中のカースト最底辺、いわゆる『歩く事故物件』として疎まれている。
「ふん。……二度と、私と同じ空気を吸っていると思わせないで」
陽葵はフイッと顔を背け、取り巻きたちを連れて去っていく。 その後ろ姿を見ながら、周囲の連中がクスクスと笑い声を漏らす。
「おい見ろよ、聖女様にまでキレられてやんの。夜凪、お前マジで終わってるな」 「聖女様に無視されるとか、生きてる価値ねーだろ」
俺はそれらの罵声を、聞き流す。 慣れているからではない。……俺だけが、この「茶番」の裏側を知っているからだ。
去り際、俺とすれ違った瞬間。 彼女の指が、俺の指先に一瞬だけ触れた。 そして、彼女の潤んだ瞳が、ほんの一瞬だけ――歓喜に震えながら俺を求めていたことを。
放課後。 西日が差し込む、旧校舎の図書準備室。 俺が鍵を開けて中に入り、扉を閉めた瞬間――。
「……湊くんッ!! 補充、補充させてぇぇぇ!!」
凄まじい勢いで、陽葵が俺の胸に飛び込んできた。 廊下での冷徹な態度はどこへやら。彼女は俺の制服に顔を埋め、ハアハアと荒い息をつきながら俺を抱きしめる。
「……天ヶ瀬さん、離れろ。あと、さっきの『目障り』ってのは言い過ぎじゃないか?」
「あああ! ごめんね、ごめんね湊くん! でも、あそこで冷たくすればするほど、後でこうして二人きりになった時の『背徳感』がすごいんだもん! さっきの君の、寂しそうで、でも何もかも諦めたような死んだ魚の目……最高にゾクゾクしたよぉ!」
陽葵は俺の腕の中で、蕩けたような表情で身悶える。
「さあ、早く! いつもの! 膝枕して、『バカか、お前は』って冷たく罵って! お願い、それがないと私、明日には枯れて死んじゃう!」
「……はぁ。バカか、お前は。早く座れよ」
俺が溜息をつきながらソファに腰を下ろすと、陽葵は「ひゃぅんっ!」と可愛らしい声を上げ、当然のように俺の膝に頭を乗せた。
「ふふ、これだよこれ……。湊君のこの、ちょっと硬い太もも……。ねえ、湊君。学園のみんなは君を怖がってるけど、私だけは知ってるんだよ?」
陽葵は俺の手を取り、自分の頬にすり寄せた。
「君が本当は、捨て猫に自分の弁当を分けちゃうくらい優しいこと。その死んだ魚のような目が、二人きりの時だけは私を愛おしそうに見てくれること。……全部、私だけのものだもんね?」
陽葵の瞳に、暗く、深い、独占欲の色が混じる。
「湊君を蔑んでいいのは、私だけ。湊君を愛していいのも、私だけ。……ねえ、一生、誰にも教えないでいようね。私たちの、この最高に不純で純粋な関係を」
俺の髪を弄ぶ彼女の指先は、熱く、震えていた。 学園一の聖女様。 その正体は、俺なしでは呼吸もままならない、重すぎる愛を抱えた一人の少女だった。
窓の外では、何も知らない生徒たちが下校していく。 俺と聖女様の、絶対にバレてはいけない『放課後のご褒美タイム』。 その歪な恋は、まだ始まったばかりだ。
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俺を蔑む聖女様が放課後に俺の膝枕で「好きすぎて死ぬ」と身悶えている件。 雨月 揺 @ametsukiYuragi
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