未選択(アンセレクト)
白峰
同じ顔の人をよく見る
最近、同じ顔の人をよく見る。
別に似ているだけだと思っていた。
そう考えるしか、なかった。
夜のコンビニで、ガラスに映った自分の顔を見て、一瞬だけ安心した。
二十一時を過ぎた店内は、まだかろうじて人の出入りが多い。
肌寒くなりつつあるこの季節、客の服装もだんだん秋物に移行していく。
本格的に寒くなる前に、一度実家に連れていかないとな……。
あの田舎は、雪が降り出すと高速道路が動かないことが多い。
ホット飲料を棚に補充しながら、ふと、ため息が漏れた。
「ダブルワークって大変じゃないですか?」
隣で消費期限チェックをしている学生のバイトが、何の気なしに聞いてきた。
「うーん。まあ、結婚ってお金かかるって言うでしょ」
疲れていたせいか、特に考えずに答えてしまい、言葉が宙に浮いた。
「え!
「まあ、そのうちね」
彼女の無垢な眼差しに、なんとなく居心地が悪くなって、
未来なんてどうなるか分からないけどね、
と付け足した。
若者の好奇心の的になるのは、ごめんだ。
品出しを終えて、ちょうどレジが混み始めた時間帯、
黒いコートに付いたフードを
深く被った男が店に入ってきた。
レジ横のホット飲料のブースで、
ペットボトルのコーヒーを少しぎこちない動きで取っている。
取りにくさの原因は、少し気が早い手袋のせいだと思うけれど、客なので何も言わない。
淡々とレジ業務をこなしているうちに、その男の番になった。
ブラックコーヒー、パン、ぶどう味のグミ。
あ、俺の定番セットと同じだ。
そんなどうでもいいことを考えながら、
一通りバーコードを読み込んでいる最中、前方からやたらと視線が刺さる。
けれど、目を合わせることはしなかった。
たぶん、変な人だ。
しなくていいことは、極力したくない。
会計を終えて見送ると、
入り口のガラスドアに映り込んだ男の顔が、
ほんの一瞬、俺に似ていた気がした。
もう一度、顔を確かめようとして
目を上げたとき、
そこは、ただのドアだった。
あれが本当に俺だったのか、それとも、疲れていただけなのか。
答えは出なかった。
ただ、胸の奥にだけ、置き忘れたみたいな重さが残っていた。
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