aimed at precision

しばらくしがみついていると、さすがに邪魔だったのか、引き剥がされる。

おとなしく椅子に体育座りしておくことにした。


「んで、なんで枕を引き裂いてた?」

界瀬が覗き込むようにして聞いてくる。

「……」

「手を出せないようにプラモとかに鍵かけちまったからか」


ふい、と背中を向ける。 かいせは俺が何に対して 何を思ってるか知ってるはずだ。

だけど、なのに、どうして不機嫌なのかわからないのだろうか。


「あのなぁ。それでも枕は引き裂いちゃだめ。あれがお前の愛情表現じゃないことくらい、わかるんだぞ? いつも一緒にいるんだから」


「あぁ、もう!」



突然、声をあげた俺に、かいせがびっくりしている。

俺は訳も告げずに、外に飛び出した。


















――道路は車が犇めき合っていて、とても落ち着ける雰囲気では無かった。

最近、車が多すぎないか。なにかのイベントなのだろうか。

それとも……とさりげなく背後を見る。

常に誰かが付けて来て居る。



あーあ。

 昔は、この辺といえば、田舎で、商店なんかも殆ど閉じてて、市電やバスにでも乗って二駅くらい行かないと近所に居住区以外の何にもないって感じの街だったのに。


いつの間にか発展していて、すぐ目の前にも多様な店が並んでいる。

都心の人口集中によって地方への都市化計画が進んだことによるものだ。


誰かが付いてくるのを感じながら、「GPS切ったって、居るんだよなぁ」とか、他人があちこちで笑い合い、往来する昔よりも賑やかな光景に、なんだか急に孤独感が強まった。


――――一人だ。



ずっとそうだったから、誰かといるとふと思う。

 存在を許されていると思えなければ何の意味も無い。

誰であれ、結局どんな言葉も、人としての存在が確立されてから漸く届くという事。


(俺は……)





横断歩道を渡り、苛々したまま、行く宛もなく彷徨く。

ふと、耳元で無線が入る。


『おい、どこに居る?』

名乗りもしないし、ぶっきらぼうだ。

答えない。


『お前、確か』


答えない。

おい、とかお前とか、なんだかむかつく。


『戻ってこい』


答えない。

ばし、と電柱に肩が衝突した。景色は見えてる。

想定してた輪郭と、予想の幅が違っていたのか。

痛い。


 目の前の、二つ目の横断歩道の辺りの渋滞から苛々が増してきて、思わず無線に返す。

「うるさいな、少し頭を冷やすから、話しかけるな」

クククク、と笑われる。

『お前またあれか、渋滞に苛ついてるのか』


かいせは相変わらず愉快そうだ。よくわからん。

「そうだが、なにか?」


小さい頃、誰かに、

そんなに車や他人が怖いのねと言われたことがある。


どちらに曲がるかわからない気まぐれなものが、固まってやってきて道を狭くする。


確かに、怖い。

単体なら少しは怖くない、気もするが、歩く道を邪魔される不快さは、あの人にはわからないだろう。


身体が少し震えるのを気付かないふりをして、なるべく目を逸らして、それが見えない道へ逃げ込む。

早く、早く。どこに行こう。

邪魔するあいつらが視界から無くなる場所がいい。


――そう思うと、結局、帰って来てしまった。


「ただいま」


なんだか、気まずい。玄関先でしゃがんでいると、ぎゅー、と抱き締められる。くるしい。


「おかえり」


なんだか、ぶわっとなにかが込み上げて来て、そのまま泣いてしまう。


「どうした?」


「なん、にも」


怖い、痛い、苦しい。ただ、そう思った。







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