aimed at precision



翌朝。午前6時。


「なーにしてんの!」

「お前の枕に釘を刺してる」

「ぎゃー、何で刺してんですか」

ベッドによじのぼり、羽毛をわさわさと引きずり出していた色を、混乱しながら止める。

「もー、ばかぁ! 色ちゃん、なにしてんだよ」

よいしょ、と引きはがして、とりあえず膝の上に乗せる。


さっきまで大人しく寝ていたと思ったら、起きた途端何故か枕を攻撃しているもんだから人は分からないものである。俺の目も覚めてしまった。


「愛情表現」

「もー……今日、枕なしかよ」


色の事は、よくわからない。

どんな生活をしていて、今まで何を思って生きて来たのか。

例えるなら猫のようなやつだと思った。


「うっ、うっ。目覚まし時計の分解よりマシだけど……」

泣く仕草をする俺を、不思議そうに見上げている。


まぁ、綿を戻して縫い直せば何とか……なるか。

ぼんやりと、俺の様子を窺っている色はあんまり善悪に関して思っていない様子。



「いいか、愛情表現ってのは、こうやるんだよ」

頬を掴み、唇を吸う。

「んっ……」

色は、顔を紅潮させびくびくと震えながらも、しばらくされるがままになって、それから離れた。口から糸が伝う。

「なにするんだ」

「ちゅー」

ぱしんと頭を叩かれた。あまり痛くはない。

恥ずかしそうに睨んでいるのを見て、なんとなく気が晴れた俺は寝室から立ち上がる。

「じゃ、飯作ってるから」





台所に行き朝食を作る。

今日はベーコンエッグに、サラダに、ポトフ、コーンスープという感じ。やはり、朝からしっかりと食べないと一日は始まらない。



俺がフライパンに油を入れていると、固定電話が鳴った。

そちらに向かえないので、無視していたら、代わりに色が出た。

「はい……あ。はっしーじゃん。うん、うん。元気だよ。ああ、あいつも」

楽しそうに、何を話してやがるんだろう。

少し、つまらないが。

塩を軽く振って、卵を割っていたらそいつが戻ってきた。


「お疲れさん。橋引、なんだって?」

「次の任務に出るかもしれないんだとさ」

「そうか。今テスト期間だっけ」

「そうそう、時間があるーって」


皿を並べていると、しがみ付いて来る。

「ん、どうかした?」

「何もない」

「あら、そう」

そっけない会話。

ちょうどいい、どうでもいい距離。



















・・・・




『次のお仕事、ご一緒するかもだから、よろしく! わかったあ?』

「うん」

『やーっと答えた! ね、元気?』

「うん。元気だよ。あああいつも」

『うわ、ほんとに一緒に居るんだ』

「ああ、そうなんだ」

『へー、それ、大丈夫』

「まあね。ねえ、はっしー」


『ん?』


「俺が死んだら、たいして騒がれないんだろうね。ただの一般市民として、ああ残念ねと終わる。」

『そうね』


「俺は目の前で、あの子を止めることができなかった」


『そうね』


「なにかを、酷く思い詰めていたみたいだった……」


お互いの事実は、合わせてはならないものだった。信じていた。

願っていた。

だから、照らし合わせようと、しただけだった。

俺の物、は、存在しない。名前を書いたって、上書きして、捨てられて、別の人がつかう。

昔からそう。

俺はただ、醜い人間として貶されている。


『ええ』


「こんなんで、居場所が、あるなんて思う? 俺は、殺すなら自分、と決めているんだ。他に手を出したりしないのに」


 遠い町に行きたい。

身内や知り合いの居ない、静かな町。


『そうね』


うふふ、と橋引が笑う。俺も笑う。

おかしくてたまらない。散々だなぁ。

もうこれ、死んだ方がマシかもしれない。

おかしいよ。

呪われてる。



「ねえ、橋引」


『んー?』


「俺のもの、って、どうやったら手に入るのかな」

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