aimed at precision:(ケーキと書類)
夕方、柳時さんが、ショートケーキとともに訪ねてきて、仕事を任された。
「――しっかし契約書関係の書類、厚すぎ!」
事務作業の手伝い。
調査に出掛けるらしいので、代わりにやっておいてくれということらしい。
『これ、データが途中までの紙と画面の文字しか無くてね。
営業さんは向こうからもらったデータを差し替えて調合と思っていたんだろうなぁ。わけあって無理だと判断。先方のデータはめちゃくちゃなのでテキスト取りしか出来ない。それどころかテキスト打たなあかん部分もある、と。今こそGoogle翻訳活用かな?』
「ねー、色ぉ」
だるすぎて、癒しを求めてみるが、相手は冷ややかだった。
「やかましい、働け」
仕事中、集中していると大体この冷たさである。
「つーめーたーいー」
俺はとっくに集中が切れているので、ダル絡みしたりなどしているのだけど、
色はやはり「ケーキ分の労働をしなければ」などと硬い事を言っていた。
「うー、優しくしてよー。せっかく、二人きりだよー」
だらだらと唸っていたら、藍鶴が近づいてきた。そして、額にちゅっと口付けてから、さっさとしろ、と言った。
「はい……」
可愛い、と言うと殺されるので言わないが。
ニマニマしている俺の横で、色は雑に要らない用紙シュレッダーに掛け始めている。
「…………」
……それを見ていると、急に落ち着いてきた。
なんだか、今日はいつもにまして愛想がない気がする。
さっきのも、俺を黙らせるためってだけだったりして。
「ねー、色ぉ……」
どうか、したのだろうか。
「死ね」
「俺何もしてないよ!?」
何かに集中しているようで、殺気立っている気がする。
うぅ、暇だ。癒しが欲しい。
ちょっと拗ねながら、近くの用紙を手に取ってみる。
――――ちょっと4日に持ってかなあかん仕事、内容が酷すぎる。データの無いところは紙ベースしか無く、しかもそこには訂正指示がたくさん。これをデータ支給とは言わない。でも、負けない
無意識に力を使って居たらしい。誰かが意地になって居る声が伝わって来た。
「リュージさんって東北の人だった気がするけど、なんで関西弁?」
いや、其処はどうでもいいか。
――――しかし原稿のPDFとか、ワープロ打ちを画像でスキャンしたテキスト取れないのなんとかならんか? こういうときの〇クロバットか。
――――こんな時間!? macで開いたら崩れるやつもあるなぁ
(〇クロバット? テキスト取り……いつものフォーマットじゃない。正規の資料じゃないのか?)
彼奴、何持って来やがった。
資料をまとめて机に置き回転椅子に腰かけていると、その横にいるそいつが、背もたれにもたれてくる。
「あ。色さん。なに、怒ってんの」
無視。
「……なぁー」
事務所には、使われてないデスクが、隅の方に三つくらいある。この前まで来ていた人の席。
もともと出社率が高くない場所だが、いつか、藍鶴色も『こうなる』んじゃないかって、俺は漠然とした不安があるのだ。
「前の、仕事のこと」
退屈だし、しばらくダル絡みしようかと口を開こうとしたとき、唐突に色が口を開いた。
「ん?」
「あの古い契約書渡したのは大体あのジジイのミスだ」
彼は、ぽつりと。そんな事を言った。
ジジイというのは、上司の事だと思う。所長は大体此処には居ないから、前所長か、別の部署か……
提携会社の社長か。
「クライアントは、それをまだ信じていたんだ。それでもめた。ジジイは渡してないとか言いやがるし」
「あー、俺もそれ、やられたことあるわ」
「ほんと、ただでさえ寝不足でイラついてたとこで――」
そこで、言葉が途切れる。
「色?」
ふと、藍鶴はいう。
「俺らは人間なのかな」
急な問い。
手元のデータ化出来そうなページを見ていた手が、とまる。
そちらを見ると、色は、デスクに1枚――調査計画用の、白い日本地図を置いていた。
何処かに行くのだろうか。
「当たり前だ。人間だよ」
「そうだよ、ね……」
あまり自信のない声だ。
前からおかしかったけど、あの調査の後だからか更に心配になる。
「人間だよね。こんな体でも」
色は言う。
地図に、いくつか丸がつけてある。
(日本海側――海沿いが多い……)
何処に行くとしても、色は最低限のことしか話さないだろう、と俺はそれには触れなかった。だけど、一体どうしたのだろう。
「……疲れた。こんなの、読みたくないな、なんで見なきゃならないんだ」
「色?」
「ああ、うんざりする。こんな葛藤さえ興味の対象か?そんなに、面白いのかよ!」
「色……」
額をさわる。熱い。
「少し休め。仮眠した方がいい」
昔から、熱があると怒りっぽくなる。けれど別に本心じゃないだろう。
「大体『あぁー、俺もサイボーグになりたいなぁ! デビルでもいいなー!』 『傷付いたから徹底的に潰すことに決めた!』くらいしか言わないやつの地雷なんか知った事じゃないだろ!何が決めただよ、自分で潰れてろ」
泣けないから、中途半端な顔で、笑い出すそいつを、また抱き締める。
「よしよし、少し寝ような?」
「やだあ……」
「添い寝する?」
そいつは数秒考えてから、抱きついてくる。
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