この館の主、悪逆につき
黒心
ー6
その国はその郡を支配して古い。初代の統治者は善政を敷き民に慕われたが、数代後の統治者は圧政を敷いた。その者は多くの人間を苦しめ、殺したと言い伝えられている。
その統治者が生まれたのはその郡の祝祭の日であった。愛され、知恵者として育つように大事にされていたが、十年後、流行り病によって両親は死した。
「汝キャルナークをデルグ領主として封ずる」
第三十代アストラス王は急ぎ除目を起こし、少なくなくない臣下が見守る中でキャルナークはデルグという街一帯の統治者となった。除目式に後見人の姿はなく、親族も誰一人として彼の背を見ていない。
「顔をあげよ、キャルナーク。汝はアストラスの剣なり、盾となれ」
僅かな供回りと領地に帰還すると除目式を欠席した親族から派遣された男がいた。男は家老を、家宰を務めると一方的に宣言し執務室には同じく親族から派遣された人間たちに支配された。
「ぼっちゃん。申し訳ありません」
唯一、両親を支えていた元家老は恭しく頭を垂れて屋敷を去った。
月に一度、もしくは二週間に一度訪れる親族は屋敷の内装を一つ一つ変更し、両親の描かれた絵画を金貨十枚へ、日々離さず身に着けた宝石を手元へ、キャルナークには何一つ両親を示すものは残らなかった。
あくる日、身の回りの整理が困難になったキャルナークは太った家宰からたんこぶを貰ってメイドを就けられた。年端もいかぬ少女五人、安い奴隷と変わらぬ人間だった。
「キャルナーク様」
たどたどしい敬語は初めて彼に優越感を与えた。
「キャルナーク様?」
人を殴るという感覚はその時が一度目である。二度目は十秒も経たないうちに、三度目と四度目はまた別のメイドに。
二十日が過ぎるころには側付きのメイドは酷く憔悴しきり、キャルナークの元へ来ることになると怯えて縮こまった。
だが、メイドたちは知っている。
部屋の掃除は家宰から命じられた拒めないものであるため、キャルナークが寝静まった夜にこっそりと五人で部屋に進入し、掃除をしていた。キャルナークは気付く気配すらなかった。
なぜなら、彼はずっと魘されていたからである。
もうこの世にはいない父親と母親の名前を呼び、腫物だらけの顔面を歪めて“ごめんなさい”とも呻吟していた。
昼間、メイドを弄ぶキャルナークは憐憫された。
「やめてください!キャルナーク様!」
メイドらはいつもそう叫ぶ。
家宰はその様子をみて五人のメイドが仕事に耐え切れず逃亡すると予うていたが、五人は逃げ出すそぶりも見せなかった。
キャルナークはメイドを蔑んでいたが、メイドはキャルナークを憐れんでいた。
叫び声が常と化した屋敷において様子が変じたのはキャルナークが十二の誕生日を迎える日であった。
罪人や今日を生きれぬ人間が盗賊となり、盗人としてデルグの街を襲ったのである。夜、親族が集まり酒をあかしていた時であった。
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