スライム無双 ~落ちこぼれ転生者、スライムに助けられ冒険者になる~

志登貞 圭

プロローグ 

―—開けた草原に所々立木が淋しく佇み、草地の合間に巨石が顔をのぞかせる。


 見通しの良い平地のさらに向こうに切り立った山々の稜線がこちらを俯瞰するように鎮座する。その頂にある白い峰は晴れ渡った青空によく映えていた。


 平時であればその風光明媚な絶景も、今はいたるところで人と獣の怒号と咆哮、そして爆発を伴う衝撃音と土煙が一帯を包んでいた—―


『ゴブリン共がそっち行ったぞ!』

『ハウンドウルフは後ろに通すなよ!回り込まれたら面倒だ!』

『あれは・・・オークだ!2級じゃ荷が重い。俺たちも上がるぞ!』



「・・・はぁ・・・ったく、たまたまベルカインに立ち寄ったらスタンピードが起こってるとかよぉ・・・」

「おら!愚痴ってないで手を動かせ!まだまだお客さんは押しかけてくるぞ!」

「わ~ってるよ。てかどんだけ間引きさぼってたんだ?これ?」

 ベテラン風の冒険者は片刃の剣の切先をおろし気怠そうに愚痴る。その横で槍を持った同じような冒険者が襲ってきたゴブリンを横凪で吹き飛ばしながら𠮟責する。剣を持った冒険者もその間、ホーンラビットの突進を難なく躱しつつ堂を切り落としていく。彼らの胴鎧の胸元には鋲が三つ付いた「冒険者票」がその動きに合わせ揺れていた。


「なんか数年前にゴブリンの集落を壊滅させちゃったルーキーが相次いで出ちゃったらしいよ。それで最近はダンジョンアタックに規制が掛かってたみたい」

 そんな二人の背後から猫のような耳をした冒険者が合流する。

「しかしここ、高台になるような木も岩場もないし私も近接に回るよ」

 そう言って腰の小ぶりのポーチに持っていた弓を押し込む。そしてそのポーチの中から今度は二振りの短剣が刺さった鞘付きベルトを取り出し、そのついでに二人に水袋を差し出す。

「ったく、二人ともいい加減マジックバッグ買いなよ!いくらあたしのバッグがあるからってもさぁ・・・」

「なかなか金が貯まらなくてよぉ・・・ほい、サンキュー」

 二人が気を緩めている間はもう一人が常に周囲を警戒している、彼らはチームを組んでいるのだった。

「・・・ありがとうな。さ、そろそろ俺たちもオーク狩りに参加するぞ」

「了解。まぁどうせ主の相手は『英雄様』がやってくれるだろうし、怪我しねぇ程度に頑張ろうや」

 そう言って彼らは遠くに見える山裾の開けた平地に異様に目立つ巨躯を目指して歩き出した。




 先行した冒険者の部隊は既にオークのテリトリーの中にあった。

「・・・ふぅ・・・ねえ?さっきオークの何体か普通に後ろに逃がしてたけど大丈夫なの?」

 少女は振り返りつつ後方に居た、このパーティーの中で最年長とおぼしき男に声をかける。

「ゴホッ!ゴホッ!・・・ったく、お前そんな『すっきりしたぁ!』って顔で他の奴らの心配されてもなぁ・・・」

 少女の放った術による衝撃波で吹き飛ばされてきた粉塵が収まり、その年長の男の前で盾を構え衝撃波をやり過ごしていた男が悪態をつく。実際少女の顔は興奮のためか赤らんでおり口角も上がっていた。

「後ろの奴らなら心配いらんだろ。オークとはいえ2級でも下手打たなければやられんだろうし、他の3級共にも獲物はよこしてやらんとな!」

「一応あたし達も3級なんだけど・・・」

「そりゃあ自慢の娘のパーティーだ。信頼してるしスタンピードもこれが初めてじゃないんだろ?」

「・・・うっ・・・そ、そりゃあこの程度ならどうってことないけど・・・」

 言い淀む彼女に頭を撫でつつ娘と呼んだ男は前に出る。

「それにしてもずいぶん強くなったなぁ。あの跳っ返りがここまでの術者になるとは・・・」

 彼らの前方には小さなクレーターが幾つか点在していた。というか、この戦場で響き渡る爆発音の殆どが彼女が放った術であったのだ。

「今回は私の出番は無さそうですね・・・」

「え~そんな事ないわよ。さっきも術の衝撃を防いでくれたりとか結構助かってるんだから!」

 同行している魚人マーマンの女性の謙遜に少女はすぐさま反論する。

 そうこうする内にまたもやオークの群れに取り囲まれ始める。彼らは露払いをしつつ前進しているが、未だスタンピードの発生源であるダンジョンに辿り着けていないのだ。

「さあ、次はクレオの番だ。俺に成長した『力』を見せてくれ」

「分かったよ、父さん・・・いやギルドマスター」

 一番後方に居た年若い男が前に出てくる。

「いくよ!スライムたち!」

『おーーー!』

 数匹のスライムが鞄の中から飛び出してきた。そして屈んでスライム2匹の上に両手を置き魔力を開放する。するとオークの群れを遮るようにその体長を超えるほどの土壁が左右から進行方向へと延びていく。

「・・・へぇ、なるほど。これなら僕らは消耗を気にしなくていいな。こういう乱戦なら負担を分散するという点でも単純かつ有効な手段だ」

 ギルドマスターと呼ばれた男の隣に立つ青年は感嘆する。

「まだまだ!クレオの凄いところはこれからなんだから!」

—ゴオアァァァァァ!!

 少女の声をかき消すように土壁の向こうから咆哮が響く。そして—

 地響きと衝撃を伴って先ほどのオークより二回り程上回る巨体が土壁を越えて現れた。

「・・・ハイオーク!?・・・それも・・・2体・・・いやもっとか!」

「なるほど。ダンジョンの外でハイオークの集団と遭遇するってことは、ダンジョン内にはさらに上位のオークジェネラル、そして今回のスタンピードの主は当初の読み通りキングが誕生してるってことで間違いなさそうだな」

「父さん!この数は流石にクレオだけでは荷が重いんじゃないか?」

「大丈夫よ、兄さん。本当にクレオは・・・あたし達の弟は凄いんだから!」

 ハイオークの出現に心配をする声は少女により遮られる。

「クレオー!やっちゃいなさい!!」

 背後から呼びかけられ彼は笑顔でうなずく。

 その間にもハイオークは一体また一体と増えていく。

「いくよッ!イチ!ニィ!」

「オッケー」「了解」

 呼ばれたスライムが少年の両肩に乗り、そして少年は両手を前に突き出す。

「・・・雷!」

 目も眩むほどの閃光が迸り、今までの爆発音と比較にならないほどの凄まじい轟音が先ほど築き上げた土壁をも吹き飛ばす。




「・・・あのねぇ・・・やっちゃえとは言ったけど・・・これはやり過ぎだから!」

「痛ッ・・・あ、あははは・・・ごめんなさい」

 後ろから殴られ振り向いた先で瓦礫から這い出す仲間の姿を見、素直に謝る。

「まあ、お陰でここら辺のオークは一掃できたんだし良かったじゃねぇか?」

その言葉に姉弟は周の囲を一瞥する。辺りには斃れたオークが多数転がっていた。

「あはははは・・・それでもアレをやる前にせめて一言ぐらいは欲しいですよね。何とか防壁が間に合いましたけど」

「・・・ま、俺らもスライムが2匹肩に乗った時点で察せられるくらいには場数を踏んだって事だろ」

 盾を持った男と魚人の女性も瓦礫を抜け出し姉弟の話の輪に加わる。

「・・・なぁクレオ、さっきのは一体・・・」

「あ、父さん。兄さんも。ごめん、大丈夫だった?」

「ああ、何ともないが・・・さっきのは本当に何だったんだ?」

「ああ。『合成魔術』だよ。風と土の。僕は『雷』って呼んでる」

「呼んでるって・・・お前自分で何をしでかしているか分かってるのか?」

「『個人で合成魔術を発動出来たものは居ない』でしょ?色んなところで言われ続けてきてるよ」

 父親でもあるギルドマスターに聞かれ、彼は少し辟易した様子で言葉を返す。

「さあみんな!早くオークの親玉を倒しに行くわよ!」

「ちょっと姉さん!僕たちは父さんの護衛だけだって!」

 元気に歩き出す少女を、スライムを鞄に仕舞いつつクレオと呼ばれる青年は追いかける。

「・・・スライムを見付けて冒険者になりたいと言い出したのが数年前・・・。それまで魔術どころか魔力すら出せなかったあいつが今や単独で合成魔術を使えるようになってるとか・・・」

「ホント僕たち兄弟の中で一番冒険者に向いていないと思ってたのに・・・一体何がどうなってるのやら・・・」

 さっきの爆発で更地となったダンジョンへと至る道で先ゆく彼らを、かつて『英雄』と呼ばれた男とその後継者は呆然と眺めていたのだった—

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