【掌編】願いは具体的に

風上カラス

願いは具体的に

「はぁ、はぁ……。やったね、サキ。本当に、ここまで来られるなんて――」


 ダンジョンボス<青龍>を倒し、私たちはついにSS級ダンジョンの最深ごほうびフロアへと到達した。


「ええ。あとは、あの神社で願いを祈るだけ」


 サキも肩で息をしながら、笑ってうなずく。


「これで、ハルキの病気も治るはずよ」


 最高難易度を誇るダンジョン<お茶の水神殿>。そのクリア報酬は、どんな願い事も叶うと言われる――<神願の加護神さま、おねがい>。


 私たちは、現代医療では治療不可能な病に侵されたハルキ――私にとっては兄で、サキにとっては婚約者――の病を治すために、ここまで来たのだ。


 攻略を思い立ってから2年。思えば、長い道のりだった。でも、この瞬間のためだったと思えば、救われた気がする。


 目の前には、厳かな空気に満ちた空間が広がっている。その中央に、ぽつんと立つ鳥居と社日本的な建物


「じゃ、いくよ――」


 血筋が濃い方が願いが叶いやすい。そんなジンクスを信じて、私がパーティー――といっても2人だけど――を代表し、社の前に立って手を合わせた。


「ちょっと待った!」


 サキが、私の祈りを止める。


「――なによ」


 思わず、不機嫌な声が出てしまう。


「スミレ、お祈りの仕方、知ってる?」


「手を合わせて祈ればいいんじゃないの?」


 私の答えに、サキは首を横に振ったありえないわ


「あなた、本当に日本人? 二拝二拍手一拝、知らない?」


「……知らない」


 そんな私に、サキは懇切丁寧に説明してくれるいいこと。覚えておきなさい


「まずはお金を入れるでしょ。それから紐を引いて鈴を鳴らす。2回お辞儀して、2回拍手。お祈りをして、最後にもう1度お辞儀。これがマナーよ」


「へぇ。お金が必要なんだ。これでもいいかな?」


 私はポケットから、モンスターがドロップした宝石を取り出す。


「……たぶん大丈夫よ! あとはお祈りの内容ね」


「願いって、ハルキの病気が治りますように、じゃダメなの?」


 覚えることが多くて、げんなりしてくる。


「ダメに決まってるでしょ。そんな一時的な願い。病気が再発したら、意味ないじゃない」


「なるほど……。じゃあ、ハルキが一生病気になりませんように、――とか?」


「うーん。それでもいいけど、応用性に欠けるわね。ハルキ以外の家族が病気になったら、あなたどうするの?」


「え……そんなこと言われても、分からないわよ」


 私は混乱してくる。お祈りって、こんなに難しいの?


「こういう時はね、視点を変えるの」


「というと?」


「病気を治すっていうスキルを、あなた自身の能力にするのよ」


「なるほど。じゃあ、ついでに怪我も治せるスキルにしたいわね」


「いいわね。でも、それだと――スミレ自身が怪我をしたとき、気絶してたらスキルを発動できない。そのリスクがあるわ」


「ふむん。自分自身の保護も、考えないといけないのね。でも、そうすると――私が気絶や即死しないことと、病気や怪我を治すスキルの取得。お祈りが二つになっちゃうわ……」


「そうね。だから、そこをうまく1つのお願いにまとめる工夫が必要になるわけ。例えば――」


 ごくり。私はつばを飲み込む。


「私を<宇宙絶対最強不可侵の、病気も怪我も治せる治癒士>にしてください! ――てのはどう?」


「ぶっ」


 思わず噴き出してしまったなにそのラノベのタイトルみたいなの


「なによ。宇宙絶対最強不可侵って」


「笑わないでよ。こっちだって真剣に考えてるんだから」


 そう言いながらも頬をふくらませながら、サキも笑っている。


「――でもね。願いは具体的なほうが叶いやすいのよ」


「いや、そうだけど……宇宙絶対最強不可侵って、具体的かなぁ。ちょっとイメージ湧かないわ」


 少し考えてから、私は言い直す。


「自他問わず、あらゆる病や傷を退ける、無病無傷の治癒士――なんてどうかな?」


「悪くはないわね。でも、治癒士の前に<最強無敵>はつけておきましょ」


「まだ盛るの?」


「もちろん。あ、あとね。日付も明確にしたほうがいいわ。願いが叶うのが10年後とかだったら、困るでしょ?」


「そんなこと、ないでしょ……」


「わからないわよ。だからこそ、そこも含めて具体的にするの」


「わかったわよ……今すぐ、っていうのも図々しいし。1週間以内とかにしようか」


「いいわね。そのほうが神様も、ちゃんと対応してくれそうな気がするわ」


「なんだかお客対応窓口みたい」


「似たようなもんよ。さ、行っておいで」


 サキに送り出され、私は社の前に立つ。

 賽銭箱に宝石を入れ、鈴を鳴らす。

 2礼して、2拍手。


「神様、お願いします。1週間以内に私を、自他問わずあらゆる病や傷を退ける無病無傷の最強無敵治癒士にしてください!」


 これでハルキの病気も治せるはず。

 神様、どうかお願いします! 深々と頭を下げて祈る。

 そして、最後に1礼。


「――これで1週間後には、私は無病無傷の最強無敵治癒士になってしまうのね」


「ふふふ。そうね。そして、ようこそ。超人類オーバーマンの世界へ――」


「……え?」


 不敵に笑うサキの顔を、私は見つめ返した。

 そういえば彼女、青龍と互角に戦っていたけど……もしかして、サキのあの力って――

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