俺はお前のものでも何でもない!!

永江怜衣

第1話

 ──東谷高校。二年A組。まだ残暑ある九月。


 強制的な転校一日目。

 

 はぁ、なんだったって、俺は夏の暑い日に転校しなければならないのか、とまだ暑い九月の登校日再開の日の廊下の片隅の窓側の壁に身を委ねて、何処にでもいそうな男の先生の声が俺の名前を呼ぶのをじっと待っている。


 黒髪の前髪からは少しだけ汗が出ているため、片手で前髪の汗を少し拭く。


 まだクラス内なら暑さを軽減するためのエアコンがあるものの、廊下はない。物凄い地獄だった。


 待っているときに思いつく事と言えば、ダラダラと足を音が響かないくらいバタつかせてみることで、別に面白みも何もないために、溜め息しか出てこない。


 それに、片手に重い鞄を一つ持っているのも疲労を加速させる原因だった。


 そんな何でもないだらしない事をしていると、名前を呼ばれた気がしたので、背筋がゾクッと針の棘が背中に通ったように思えてから、生唾を飲み込み、壁に預けた背中を離してから、一歩ずつ歩き出して、クラスの扉をガラリと開ける。


 人の目が幾つも、動物の獲物を狙うような目で品定めするように見られているようだったが、そんな中で夏なのに雪でも降ったかと感じさせるほどの寒気が通り過ぎる。


 誰だ!? と、その寒気を送る気配の者を探したかったが、生憎、自己紹介をしなければならないので、そこはぐっと堪えて、開けた扉を閉めて、ぎこちなく教壇の前まで立つ。


「初めまして、転校してきた……」


 と口にしてから、その違和感を俺は魔術を通して、理解してしまい、頭が警告音を鳴り響いたが、その違和感を悟られたとその人物も分かったのか、その違和感はスッと消え去るため、目は動揺しながらも、名前、名前、と脳内で繰り返す。


明野あけのりんです、宜しくお願いします」


 動揺を漸く勘繰られない挨拶がてらの一礼で、一呼吸して落ち着いた。


 だが、顔を上げた瞬間に、虎のようなライオンのような幻影が俺を食らおうとして消えたので、俺は一歩後退り、教壇に踵をぶつけた。


 とても痛い。だが、その痛みよりも……。


 ドン! と音が鳴ったため、周りの如何にも普通の生徒や、先生は不安気に俺を見ているのが俯瞰した魔術の目による観測で分かり、俺は頭を少し掻いて「すみません」なんて誤魔化しながら、踵の痛みを堪えた。


 先生は少し心配しつつ、呆れた口調で俺が座る席を指差すため、「はい」とだけ返事をしてから、周りの視線を気にしながら、踵を気にしながら、廊下側の壁際の一番後ろの席まで歩き、椅子を少し引くように動かして座り、鞄を椅子の端に掛ける場所があるので掛けた。


 先程の誰かからの視線や幻影はとてつもなく気にはなるが、まずはこのクラスに馴染むことだと、目線を先生へと向けた。

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