魔王様と往く。最強おじさん異世界旅日記

タビサキ リョジン

第1話 狂気の魔術師とえっちな魔王

バリバリと唸る轟音。


薄暗い部屋にバチバチと瞬く閃光。


そしてどこの言葉ともしれぬ、不思議な詠唱。


俺の目に入ったのは、魔力の励起で持ち上がる豊かな銀髪。


そしてその向こうに見えるのは狂気じみた表情を貼り付けた老人だった。


「跪け! 魔王に対し不遜であるぞ!」


目の前の女が叫ぶ。


背中しか見えないが、豊かなシルバーブロンドで背の高い女だ。


黒いドレスを着ているようだが、生地は薄手で体のラインが割と出ているし、背中は大きく開いている。


ふーん。えっちじゃん。



その女は、完成した詠唱で練り上げられた魔力を炎へと変換し、目の前の老人に躊躇なく放った。


枯れた指、落ち窪んだ目、ボロボロのローブ。

その目には狂気の光が宿り、口の端に泡までつけた、どう見ても正気じゃなさそうな老人だ。


狂気ゆえか、豪炎が放たれたというのに、その態度には怯えの様子は欠片も無い。


老人の自信を裏付けるかのように、魔王と名乗った女性の放ったその炎は、何か見えない壁のようなものに阻まれ、渦を巻いて逆流してくる。


熱っつ。


その事実に勝利を確信したかのように、老人は哄笑を轟かせる。


「はははははははっ! 〝万能の悪魔〟といえども、その召喚魔法陣は越えられぬ! いかなる力も私に害を及ぼすことはない! さあ! 異界の魔王よ! この天才、ラザロ・ヴェルナスに頭を垂れよ!」


「〝万能の悪魔〟とやらが、何かは知らぬが、このアゼリア・ルシフェリアに随分と不遜ではないか」

「不遜だと? お前はわしに呼ばれた。それこそが、主と我の力の差よ。大人しく我に従え!」


おー、これがあれか、召喚した時にやるっていう、呼び出した悪魔との舌戦か。


高位の悪魔であるほど、呼び出しただけでは言うことを聞かず、力の差を見せつけなければいけないと聞くが、どうもまさにそれが行われてるみたいだな。


どうしようかな。俺、関係ある?


「異界の魔導士よ、我の力を欲し、何を望む」


魔王と呼ばれた、えっちな女性が、その声に若干の悔しさを滲ませながらそう聞く。


魔王は、さっきから魔力を練り上げて、魔法陣を破壊しようとしているようだが、どうやら思ったよりもきちんとした作法に則った魔法陣らしく、壊れる様子もない。




「知れたこと。この世界の破滅だ。魂がほしいのなら幾万幾億と手に入るぞ」



あー、ダメなやつだー。


世界を守らなきゃ!と言う正義感ではないが、1人の妄執が迷惑をかける規模としては些かデカい。


よいしょ


「ん?なんじゃお前?なんで魔法陣越えて?は?」


「これでいいか」


俺は、そこら辺にあった燭台を手に持つ。


鉄と真鍮で出来てて、なかなか頑丈そうだし、胸くらいまでの高さがあって、ちょうど良さそうだ。


「せいっ!」


俺は、その燭台をフルスイングで、老魔道士のこめかみ向けて振り抜いた。



一応ギリギリ生きてはいたので、老魔道士は、ロープで縛り上げた上に猿轡を噛ませて、その辺に放り出した。



「な、なんでお主は、召喚魔法陣から出れておるんだ?というかなんで全裸なのだ?」


「いやあ、世界を跨ぐとこうなっちゃうんだよ。ていうかお前もそうなんだろ?なんで服着てるんだ?」


えっちなお姉さんのえっちな服は、前から見ても胸元が大きく開いていたし、それが包むものも、また大きかったので、えっちなお姉さんはえっちだった。



「これは、我の髪を使って作ったものだからな。呼び出された時全裸では格好がつかないだろう」


「あ、なるほどそういう……、ん?それであれか。悪魔って半分獣みたいな格好してるやつが多いのか」

「まあ、そういうやつもおるな……」


「んで? これからどうする?」


「どうするもなにも。召喚者は我より遥かにレベルが低いし、既に意識を失って、術が破綻したので、これ以上我を縛ることはできん。かと言って元の世界に戻れるわけでも無いし……」


「ん?レベル?この世界にはレベルがあるのか?」

「それはあるだろう。何を言っているのだ?」

「ちなみに、お前のレベルは?」


「ふっ、我のレベルは999だ。そこの魔導士は……、見たところ58レベルだな。低くは無いが、我を呼び出せたのは奇跡のようなものだ。次は呼び出せまい」


「その爺さんは〝万能の悪魔〟とか言ってたが、お前がそうなのか?」

「我は、獄炎の魔王とか、闇の真炎とか言われておったがな、〝万能の悪魔〟なるものは聞いたことがない……、と言うか、お主さっきから何を親しげに話しかけて来ておるのだ?!不遜だぞ、不遜!」


うーむ。完璧ではないだろうが、こいつの知識はかなり、この世界のものに〝近い〟みたいだな。


「なあ、そこから出してやるから、もう少し色々と教えてくれないか?」


魔王はしばらく考え込む様子を見せたが


「ふむ。いいだろう」


と、不敵な笑みを浮かべつつ、そう答えた。


魔法陣の効果を無くすのは簡単だ。サークルが少しでも破られれば、封じ込めの術は破綻する。


俺はちょいと、足の先で魔本陣の円を擦り、その効果を消した。



魔王が、ニヤリと微笑み、その足を魔法陣から出す。


その瞬間、轟と、魔王の周囲に炎が吹き出し、渦巻いた。


「くくく、木っ端風情が、よくも我にそのような口を聞いたものよ。力の差にも気付かぬとは……、お主のレベルがいかに高かろうと……お主のレベル……、は?なんだこれ?表示バグっとるぞ?」


レベルか……、よくわからんが、扱える力をそのまま見せればいい感じか?


少しだけ、俺の使える力を圧として放出する。


すると、魔王の周りの炎が、だんだん小さくなり、やがてふっと消えた。



しばらくの沈黙の後。



「そ、それで? お主は何を聞きたいのだ?」



魔王と名乗った女は、口調だけは尊大に、金の瞳を僅かに揺らしながら俺にそう聞いた。

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2026年1月12日 17:00

魔王様と往く。最強おじさん異世界旅日記 タビサキ リョジン @ryojin28

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