風を裂く覇道 ―桶狭間戦記―
喰寝丸太
テイク1
「信長様、今川が国境を越えました!」
その報せが駆け込んだ瞬間、織田信長は立ち上がった。
その眼には、恐れも迷いもない。ただ、燃えるような闘志だけが宿っていた。
「そうであるか。出陣! 皆の者、ついてまいれ!」
家臣たちが慌てて追いすがる。
「殿、どうかお待ちを! 軍議を――」
「待たん! 時が勝敗を決める!」
信長は木曽馬に飛び乗り、一騎、風のように駆け出した。
その背中は、誰よりも小柄で、誰よりも大きかった。
◆
桶狭間へ向かう道中、信長はふと馬を止めた。
空は曇り、風は湿り気を帯びている。
戦の前触れのような空気が漂っていた。
信長は静かに幸若舞を舞い始めた。
「人間五十年、下天のうちにくらぶれば夢まぼろしの如くなり……」
その声は、戦場の風に乗って響き渡る。
死を恐れぬ者だけが持つ静かな熱。
舞い終えた信長は、鋭い眼光で前を指した。
「敵は桶狭間!」
その瞬間、今川方の武将たちの心に、見えぬ恐怖が走った。
まるで信長の覇気が、遠く離れた敵陣にまで届いたかのようだった。
◆
突如、影が地を裂くように現れた。
「素っ破ごときに我が覇道は防げぬ!」
忍者壱が信長の前に立ちはだかる。
だが信長は槍を持たぬまま、拳を握った。
「来い」
殴打音が響き、忍者は吹き飛んだ。
二撃目で完全に沈む。
「退け。次がある」
信長は血を払うように手を振り、前へ進んだ。
◆
「殿ーっ! 藤吉郎、ただいま参上!」
泥だらけの木下藤吉郎が駆けてきた。
その顔には、どこか子犬のような必死さがある。
「この藤吉郎、機転なら負けませぬ!」
「ならば見せてみよ」
信長は孫子の書を読み上げ、己と藤吉郎の武威を高めた。
そこへ間者が現れる。
「狗など物の数ではない!」
信長が殴り、藤吉郎が槍で貫く。
見事な連携だった。
「サル、よくやった」
「ははっ! 殿のお言葉、身に染みまする!」
◆
さらに佐々成政が駆けつける。
「殿、この成政、忠義を尽くしてご覧いれようぞ!」
信長はうなずき、三人は肩を並べて進む。
藤吉郎は弓を受け取り、調略を仕掛け、敵の士気を削った。
そこへ井伊直盛が立ちはだかる。
「今川方の武将か! 血祭りにあげてやる!」
藤吉郎の拳が直盛を揺らし、信長の一撃が追い詰め、
最後は成政の槍が敵将を貫いた。
「見事だ。三人とも、よく働いた」
信長の声には、仲間への信頼が滲んでいた。
◆
だが戦場は休む暇を与えない。
再び忍者が現れ、信長に襲いかかる。
「素っ破ごときが……!」
忍者の拳が信長の頬をかすめた。
だが信長は微動だにせず、名刀を抜いた。
「退け」
一閃。
忍者はその場に崩れ落ちた。
◆
「殿、鉄砲を!」
配下が雑賀筒を差し出す。
信長はそれを受け取り、静かに息を整えた。
そして――戦場の空気が変わる。
「東海一の弓取りとて恐れるに足らん!」
今川義元が姿を現した。
豪奢な装束、威厳ある姿。
だが信長は一歩も退かない。
「義元、そなたの時代は終わる」
◆
成政が先陣を切り、義元に傷を負わせる。
義元も反撃し、成政を追い詰める。
「殿、まだ……戦えます!」
「無理をするな、成政」
信長は名刀を抜き、義元へ斬りかかった。
藤吉郎も加勢し、義元の体勢を崩す。
義元は怒りに震えながら叫んだ。
「小癪な……織田風情が!」
だが信長は静かに言い放つ。
「風情かどうかは、勝ってから語るがよい」
そして――
「殿、今です!」
成政の大身槍が義元を貫いた。
義元は崩れ落ち、戦場に静寂が訪れる。
◆
「……終わったか」
信長は空を見上げた。
風が頬を撫でる。
その風は、まるで新しい時代の到来を告げているようだった。
藤吉郎が駆け寄る。
「殿! 義元の首、確かに!」
成政も血を流しながら立っていた。
「殿のご采配、見事にございました!」
信長は二人を見つめ、静かに言った。
「いや、皆の働きがあってこそだ。
サル、成政。これより天下は大きく動く。覚悟はあるか」
「もちろんでございます!」
「殿のおそばで働けるなら、どこへでも!」
信長は微笑んだ。
「ならば共に行こう。天下布武の道を」
風が吹き抜ける。
その風は、戦国の世を変える者たちの背を押していた。
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