風を裂く覇道 ―桶狭間戦記―

喰寝丸太

テイク1

 「信長様、今川が国境を越えました!」


 その報せが駆け込んだ瞬間、織田信長は立ち上がった。

 その眼には、恐れも迷いもない。ただ、燃えるような闘志だけが宿っていた。


 「そうであるか。出陣! 皆の者、ついてまいれ!」


 家臣たちが慌てて追いすがる。


 「殿、どうかお待ちを! 軍議を――」


 「待たん! 時が勝敗を決める!」


 信長は木曽馬に飛び乗り、一騎、風のように駆け出した。

 その背中は、誰よりも小柄で、誰よりも大きかった。



 桶狭間へ向かう道中、信長はふと馬を止めた。

 空は曇り、風は湿り気を帯びている。

 戦の前触れのような空気が漂っていた。


 信長は静かに幸若舞を舞い始めた。


 「人間五十年、下天のうちにくらぶれば夢まぼろしの如くなり……」


 その声は、戦場の風に乗って響き渡る。

 死を恐れぬ者だけが持つ静かな熱。

 舞い終えた信長は、鋭い眼光で前を指した。


 「敵は桶狭間!」


 その瞬間、今川方の武将たちの心に、見えぬ恐怖が走った。

 まるで信長の覇気が、遠く離れた敵陣にまで届いたかのようだった。



 突如、影が地を裂くように現れた。


 「素っ破ごときに我が覇道は防げぬ!」


 忍者壱が信長の前に立ちはだかる。

 だが信長は槍を持たぬまま、拳を握った。


 「来い」


 殴打音が響き、忍者は吹き飛んだ。

 二撃目で完全に沈む。


 「退け。次がある」


 信長は血を払うように手を振り、前へ進んだ。



 「殿ーっ! 藤吉郎、ただいま参上!」


 泥だらけの木下藤吉郎が駆けてきた。

 その顔には、どこか子犬のような必死さがある。


 「この藤吉郎、機転なら負けませぬ!」


 「ならば見せてみよ」


 信長は孫子の書を読み上げ、己と藤吉郎の武威を高めた。

 そこへ間者が現れる。


 「狗など物の数ではない!」


 信長が殴り、藤吉郎が槍で貫く。

 見事な連携だった。


 「サル、よくやった」


 「ははっ! 殿のお言葉、身に染みまする!」



 さらに佐々成政が駆けつける。


 「殿、この成政、忠義を尽くしてご覧いれようぞ!」


 信長はうなずき、三人は肩を並べて進む。

 藤吉郎は弓を受け取り、調略を仕掛け、敵の士気を削った。


 そこへ井伊直盛が立ちはだかる。


 「今川方の武将か! 血祭りにあげてやる!」


 藤吉郎の拳が直盛を揺らし、信長の一撃が追い詰め、

 最後は成政の槍が敵将を貫いた。


 「見事だ。三人とも、よく働いた」


 信長の声には、仲間への信頼が滲んでいた。



 だが戦場は休む暇を与えない。

 再び忍者が現れ、信長に襲いかかる。


 「素っ破ごときが……!」


 忍者の拳が信長の頬をかすめた。

 だが信長は微動だにせず、名刀を抜いた。


 「退け」


 一閃。

 忍者はその場に崩れ落ちた。



 「殿、鉄砲を!」


 配下が雑賀筒を差し出す。

 信長はそれを受け取り、静かに息を整えた。


 そして――戦場の空気が変わる。


 「東海一の弓取りとて恐れるに足らん!」


 今川義元が姿を現した。

 豪奢な装束、威厳ある姿。

 だが信長は一歩も退かない。


 「義元、そなたの時代は終わる」



 成政が先陣を切り、義元に傷を負わせる。

 義元も反撃し、成政を追い詰める。


 「殿、まだ……戦えます!」


 「無理をするな、成政」


 信長は名刀を抜き、義元へ斬りかかった。

 藤吉郎も加勢し、義元の体勢を崩す。


 義元は怒りに震えながら叫んだ。


 「小癪な……織田風情が!」


 だが信長は静かに言い放つ。


 「風情かどうかは、勝ってから語るがよい」


 そして――


 「殿、今です!」


 成政の大身槍が義元を貫いた。


 義元は崩れ落ち、戦場に静寂が訪れる。



 「……終わったか」


 信長は空を見上げた。

 風が頬を撫でる。

 その風は、まるで新しい時代の到来を告げているようだった。


 藤吉郎が駆け寄る。


 「殿! 義元の首、確かに!」


 成政も血を流しながら立っていた。


 「殿のご采配、見事にございました!」


 信長は二人を見つめ、静かに言った。


 「いや、皆の働きがあってこそだ。

  サル、成政。これより天下は大きく動く。覚悟はあるか」


 「もちろんでございます!」


 「殿のおそばで働けるなら、どこへでも!」


 信長は微笑んだ。


 「ならば共に行こう。天下布武の道を」


 風が吹き抜ける。

 その風は、戦国の世を変える者たちの背を押していた。

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