第11話 神速の平定
青州(せいしゅう)の城壁は、黄巾賊の大軍によって蟻の這い出る隙間もないほど包囲されていた。
城内の食料は尽きかけ、太守をはじめとする兵士たちの顔には死相が漂っていた。
「もはやこれまでか……」
太守が天を仰いだ、その時だった。
地平線の彼方から、一陣の疾風が駆け抜けた。劉備率いる義勇軍である。
「たった数百だと? 自殺志願者か!」
黄巾賊が嘲笑う中、先頭に立つ俊樹は、馬上で退屈そうに欠伸を噛み殺していた。
「兄上たちは下がっていてください。……5分で終わらせます」
俊樹は空を見上げた。
――権能解放。『アマテラス(太陽の神)』。
俊樹が指を鳴らすと、上空の太陽が突如として膨張したかのような、強烈な閃光が降り注いだ。
太陽フレアに近い熱線と光量。
『ぐあああああ! 目が、目がぁぁぁ!!』
直視した敵兵数万人が一瞬で視界を奪われ、網膜を焼かれてのたうち回る。
パニックに陥った敵軍に、俊樹は追い打ちをかける。
――権能解放。『スサノオ(暴風雨の神)』×『ホノイカヅチ(火と雷の神)』。
暴風が渦を巻き、その中に雷撃が混じる「雷の嵐」が発生した。
それは自然現象というよりは、巨大なミキサーだった。敵兵は風に巻き上げられ、空中で雷に打たれて黒焦げになり、ゴミのように吹き飛ばされていく。
攻城戦において数ヶ月はかかるとされた戦いが、俊樹の宣言通り、わずか数分で決着した。
城壁の上で見ていた太守たちは、あまりの光景に腰を抜かし、拝むようにひれ伏した。
その後も、俊樹と劉備軍の進撃は止まらなかった。
俊樹の持つ現代の知識――衛生管理による疫病の予防、効率的な兵站(へいたん)、そして圧倒的な「チート能力」。
これらが組み合わさり、本来なら長引くはずの黄巾の乱は、歴史を塗り替えるスピードで鎮圧されていった。
各地で「雷神の使い」として俊樹の名は轟き、劉備軍が通るだけで賊が降伏するほどの伝説となっていた。
季節は巡り、冬。
雪がちらつく頃には、中華全土を覆っていた黄色い頭巾の叛乱は、ほぼ終息を迎えていた。
「俊樹さん、お茶が入りましたよ」
行軍の休憩中、玲花が温かいお茶を差し出した。
彼女は戦場においても常に俊樹のそばを離れず、身の回りの世話を完璧にこなしていた。その献身ぶりは、周囲の兵士が「あれこそ内助の功だ」と羨むほどだった。
「ありがとう、玲花」
俊樹がお礼を言い、お茶を受け取ると玲花は嬉しそうに目を細めて体を預けてくる。
その関係は、すでに盤石なものとなっていた。
そして、論功行賞(ろんこうこうしょう)のため、劉備たちは都・洛陽(らくよう)へと招かれた。
栄華を極める漢王朝の首都。
しかし、その実態は腐敗しきっていた。
案内された役所の一室で、劉備たちは何時間も待たされた挙句、現れたのは厚化粧をした甲高い声の男――宦官(かんがん)の一人だった。
宦官は、劉備たちの戦功報告書を鼻で笑い、無造作に机に放り投げた。
「ふん、田舎者の義勇軍ごときが。……で? 誠意はあるのかね?」
宦官は親指と人差し指で輪を作り、金を要求するジェスチャーをした。
賄賂だ。
国のために命を懸けて戦った英雄に対し、彼らは感謝ではなく金を要求しているのだ。
「……我らは民のために戦ったのです。私腹を肥やすための金など持ち合わせておりません」
劉備が怒りを抑えて答えると、宦官は不快そうに顔を歪めた。
「チッ、これだから貧乏人は。金がないなら帰れ! 恩賞などあると思うなよ!」
「貴様っ!!」
激昂して剣に手をかけようとする張飛を、俊樹が片手で制した。
「やめましょう、張飛兄上。こんな腐った肉を斬っても、剣が汚れるだけです」
俊樹の声は氷のように冷たかった。
宦官はその視線に蛇に睨まれた蛙のように縮み上がったが、すぐに「ふん!」と虚勢を張って部屋を出て行った。
宿舎への帰り道、俊樹は洛陽の空を見上げた。
どんよりとした曇り空。
(この国はもう終わっている。中枢まで腐りきっている)
俊樹は確信した。
黄巾賊という「外敵」を倒しても、この国を蝕む「内なる病巣」である宦官(十常侍)たちがいる限り、平和は訪れない。
「……俊樹、すまない。私の力が足りないばかりに」
肩を落とす劉備に、俊樹は首を横に振った。
「いいえ、兄上。わかりやすくていいじゃないですか」
「え?」
「僕たちの敵が誰なのか、はっきりしましたからね」
俊樹の瞳の奥に、危うい光が宿る。
だが、彼らはまだ気づいていなかった。
腐敗した権力者たちが、自分たちの意に従わない英雄を「危険分子」として排除しようと、すでに刺客を放っていることに。
洛陽の夜闇が、音もなく彼らを包み込もうとしていた。
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