【第一章:突然の来訪者と再会の喜び1】

ポートヴィラの街は、春の穏やかな陽気に満ちていた。エリシア大陸の辺境に位置するこの小さな港町は、青い海が広がり、潮風が常に優しく吹き抜ける場所。街の中心部は漁師たちの活気ある市場で賑わい、鮮魚や貝類が並び、商人たちの掛け声が響く。

だが、アレンの家は街から少し離れた丘の上にあり、静かな環境が彼の好みにぴったりだった。小さな木造の家は、自分で設計したもので、窓からは海が一望でき、裏庭には小さな畑とハーブガーデンが広がっていた。

アレンはこの場所を「知識の隠れ家」と呼んでいた。ここでは、魔王討伐の激しい日々から解放され、ただ本を読んだり、植物を育てたり、地元の人々にアドバイスをしたりするだけのんびりとした生活を送っていた。


その朝、アレンはいつものように早起きし、庭でハーブの世話をしていた。太陽が昇り始め、海面がキラキラと輝く中、彼はラベンダーの葉を優しく触りながら独り言を呟いた。「このラベンダーは鎮静効果が高いんだ。魔王戦の頃は、みんなのストレス解消に使いたかったけど、戦場じゃそんな余裕なかったな。ふう、今日はいい天気だ。海の風が心地いい……。午後には街の図書館で新しい本を借りてこようか。古代の魔法理論の本が気になってるんだよね。あれを読めば、ミラの魔法にアドバイスできたかも……いや、過去の話だ。今はのんびりだよ」

アレンは30歳手前、細身の体で眼鏡をかけた知的な男。戦闘はからっきしで、剣を振るえばすぐに息が上がるが、頭の中には膨大な知識が詰まっていた。魔王パーティー時代は、戦略立案や情報分析で皆を支えていた。


あの頃の仲間たち――勇者ライアン、エルザ、セリア、ミラ――は今頃、王国で英雄としてちやほやされているはずだ。アレンはそれを羨ましく思うことなく、自分の選択を正しかったと思っていた。「力で勝てるなら、頭脳派の俺は必要ないさ。のんびり暮らすのが一番だ」そう思いながら、土を耕し、種を植えるシンプルな作業に没頭していた。額に汗がにじみ、シャツの袖をまくり上げて作業を続ける。

時折、海の方を見て深呼吸する姿は、まるでこの世界の平和を象徴しているようだった。

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