Parallel Position / Parallel Sight

夏渦青玉

第1話 再開

管理システムの最深部、登録済みの全ての現象刀の情報と現在地が保存されているサーバルームに続く通路を、灰村篤はいむらあつしは優雅に進んでいた。


どれだけ堅牢に作られた壁や扉であっても意味はない。刀身140cmを超えるその大太刀を一太刀浴びせれば、全ての物体はその実体を一時的に失う。


「あ」


いくつかの無意味な壁を突破したとき、その先に土師勇太はじゆうたの姿を視認した。灰村の神経が逆立つ。


そう、僕は、確かに驚いていた。でもそれはユウタがここにいることにではない。(ユウタがここに来るのは分かっていたさ。)驚いた理由はあいつの顔が、「廃刀戦」のあの鬼神めいた表情だったからだ。あの顔は一度見たら忘れられない。


「ユウタぁ!!」


翻って、土師の目に映る灰村の姿は、かつて一緒に生活を共にしたそれとは大きく異なり、絶え間ない怨嗟に晒され続けたような風貌だった。その瞬間土師は、全てを悟った。


そう、俺は、心のどこかで、また篤と共に過ごせるのではないか、この襲撃は全て誰かに唆されたもので、篤自身は何も関わっていないのではないか、と思っていた。でも――


「篤、お前のその目を見て、俺は確信したよ。俺にできることはもうお前をぶん殴ってこの襲撃を終わらせることだけだ!」


「ああ! ぶつかり合おうぜ!!」


一瞬の沈黙の後、何か合図でもあったかのように、2人は一気に間合いをつめ、互いに斬り掛かり、刀身をぶつけ合った。


火花散る鍔迫り合いの中、2人の顔が間近に近づく。灰村の目は憎悪と興奮によって黒く大きく開き、土師の目もまた怒りに燃えていた。


挨拶代わりにと、初撃を交わした後、灰村は一歩引き、体を1回転させて、次撃を放とうとする。その時、土師の目から大太刀が消えた。灰村の刀はそれ自体も不可視にできる。


体を回転させて俺の視点から刀身が見えなくなった刹那に、刀を不可視にすることで、次撃の軌道を読ませないつもりか。しかも刀身自体もかなり長くて、間合いが読みづらい……。


ただ、篤の姿勢はやや低い、その体勢を見るに、次も薙ぎ払いで振り抜いてくるように見える、目線的に狙いは脚か、いや、手の握りが柔らかい、姿勢と目線はブラフで刀身自体は立っているのかもしれない……、腕を狙っているのか……、それとも振り上げ?、いや、手で柄の先端を握っているなら、突きをしてくるかもしれない……。そう考え出したらキリがない。そもそも持ち手の微妙な角度によって、先端がどの軌道を辿るのかを調整可能ということは、狙いを腕にするか脚にするか、どの角度で刀を立てるか、それを俺の防御姿勢を見てから後出しジャンケンである程度は選べるということだ。


この不可視の刀を勘で受けようとしてはダメだ。だったら、こちらも最初から能力全開で行くしかない。


土師は右目を閉じ、大太刀の未来を見た。


土師の現象刀の能力は触れた対象の直後数秒間の未来を、閉じた右目で瞬時に視認する能力である。


俺が見た未来では……、篤が不可視の刀を振り抜く、それと同時に俺は右肩から血を噴き出している! しかし大太刀はまだどこにも見えない。そして、灰村の手にもそれはない! 篤が笑う、その直後、大太刀は突き刺さる形で俺の肩に現れた!


「――上かっ!」


土師はすぐさま防御姿勢を解き、ステップバックした。直後、大太刀がその不可視を解き、土師が先ほどまでいた場所に上空から勢いよく突き刺さった。


そう、薙ぎ払うような動きも、低い姿勢も、脚を狙う視線も、柔らかな手の形も、全てブラフ! 灰村は体を回転させた時に、不可視にした大太刀を土師の頭上目掛けて投げていたのだ!


俺は、灰村篤という男を見誤っていたかもしれない。ブラフの巧さ、――というよりも、あの瞬間、刀を手放して、無防備になれるその度胸……!


「剣戟の最中に得物を手放すとは、トんだサーカスプレイだな!」 


「『未来視』の力か。やっぱユウタ、お前の力は気味が悪いな。まるで全て予想通りだったみたいな動きをしやがって」


戦ってみて改めて分かる、『未来視』vs『不可視』、能力も互いに熟知している、効果時間も奇しくも同じ、そんな状況が運命的なほどに戦いにくいということを!

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Parallel Position / Parallel Sight 夏渦青玉 @kimura_blue_ball

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