台風爆弾
後藤 蒼乃
第1話
ずっと先の未来。
人類は、天気をある程度コントロールすることが出来るようになっていた。
小国、ピッピピピーラでは、密かにその研究に国をあげておこなっていた。
なぜなら、東西南北をぐるりと大国に囲まれており、いつ攻撃され飲み込まれてしまってもおかしくない状況だったからである。
わたしは、そんな国に生まれ育った。
ピッピピピーラでは、天気を管理する『気象科学センター』に勤めることはヒーローとされていた。
当然、わたしも、他の子供と同様にヒーローに憧れ、猛勉強した。
センターの採用試験のチャンスは、一度きり。落ちたら、翌年の再トライは認められていなかった。
わたしが試験を受けた年の採用人数は僅か9人で、受験者数は千人を超えていた。
大学の成績による書類選考を突破し、一次試験、二次試験、最終面接と、順調に駒を進めた。面接時の記憶は、緊張のあまり覚えていない。
なので、採用通知が来たときは、信じられなかった。
わたしが、新人研修を終え配属されたのは、『ミランダPPPP1』という部署だった。資源のないこの国では、天気を兵器に変える研究がおこなわれており、わたしの部署はその末端の組織だった。
末端組織がすることは、いわゆる素材集めだった。
配属時期が、台風シーズンと重なり、わたしの最初の任務は、台風雲の回収だった。特殊な飛行艇に乗り、台風雲の上まで行く。そこから、超強力な吸引装置で、雲を回収し、巨大なカプセルに収める。死と隣り合わせの危険な作業だった。
あまりに危険な為、任務後は長い休みがもらえる。
わたしは、隣国の避暑地に来ていた。
そんな休暇のある日、臨時ニュースが飛び込んできた。
ピッピピピーラの大統領が、台風爆弾の完成と隣国への宣戦布告を発表したのだ。
わたしの回収した台風が、隣国を攻撃する爆弾になった。
ことの大きさに、背筋が凍り、身震いがした。
緊急帰国命令が下り、わたしは車に飛び乗り、幹線道路に向かった。
だが、道路は逃げる人たちですぐに渋滞になり、動けなくなった。
緊急事態を知らせるサイレンが、途切れることなく鳴っている。
わたしは、台風爆弾の威力を理論上は知っていた。
折角憧れの職業に就けたのに、ここで人生が終わることになるのか。
わたしは、ヒーローになれなかった。
しかし、一向にピッピピピーラ軍が攻撃してくる気配がなかった。
どうしたんだ?
気象科学センターは、失敗するはずがない。
わたしのヒーローたちが、そこにいるのだから。
数時間後、地鳴りのような音と共に、隣国まで爆風が届き、街路樹は大きく揺れ、建物のガラス窓が割れた。
台風爆弾は、隣国に届くことなく、自国で爆発してしまった。
ピッピピピーラは、無くなってしまった。
わたしは、帰る国が無くなった。
台風爆弾 後藤 蒼乃 @aonoao77
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