【短編】お嬢様が何か作っていらっしゃいます

翠雨

第1話

「たまには休んだ方がいいと思うんです」

 お嬢様のその言葉に、私たちは首をかしげてしまいました。


 なにせお嬢様の体には、エマ様と言う方の魂が入っていらっしゃいます。全然違う世界からいらっしゃったようで、少しだけ、えぇ、もちろん少しだけですとも! 変わっていらっしゃるのです。


「ちゃんとリフレッシュするから仕事もがんばれるんですよ。新しいアイディアも浮かぶかもしれませんし、たまには休みましょう!」


 そんな言葉に少々強引に押しきられ、お休みを取ることが決まりました。


 何をしてもいいと言うことでしたが、エマ様は弟のバサル様のために遊びを計画されてらっしゃいます。


 私は、迷うことなくエマ様についていくことを決めました。だって、なにが起こるか気になってしまいますから。


 さて、エマ様のお手伝いをしなければ!


 エマ様の部屋の扉を開けると、ガランとしていて寂しさまで感じます。


「あら? また、キッチンかしら?」


 エマ様が自室にいらっしゃらないときは、だいたいキッチンにいらっしゃいます。


 エマ様は料理もできるのです。子爵令嬢となった今でもキッチンに立たれるので初めはソワソワしましたけど、ニポンと言う国の料理を作ってくれることもあり、密かに楽しみにしているのです。


「エマ様~?」


 あら? キッチンにいらっしゃらない……。珍しいですね。


「先程までいらっしゃったんですけど」

 料理長が教えてくれました。


 行き違ってしまったようです。


「何を作っていたんですか?」

「お恥ずかしながら、まだ全貌はわかっておりません。明日は火加減の調節を頼まれているのですよ。私の分もあるそうなので、楽しみにしております」


 料理長の声が弾んでいます。


 これは、かなり凝ったものを作られておりますね。


 氷室に保管されているものをそっと見せてもらえたのですが、パン種のようにしか見えません。


 料理長によると、バターを大量に使って、何度も綿棒で伸ばす手の込んだ作業をしていたそうです。


「エマ様は天気を気にしていらっしゃいましたよ」


 あぁ、明日はバサル様を連れてお出掛けですからね。


「じゃあ、中庭を見てきますね」


 料理長、いい情報をありがとうございます。中庭で空を見上げるエマ様がいらっしゃいました。


 ポツリと、冷たいものが額に当たりました。


 あら? 雨が降っているではありませんか。


 エマ様は何故か屋根のないところでじっと空を見上げていて、雨に濡れていらっしゃいます。


 何か拭くものをお持ちしなければ!


 洗濯物の置いてある部屋にいき、綺麗な布をお持ちしました。


 あら? エマ様がいらっしゃらなくなっています。


 今度はどこへ行ってしまわれたのでしょうか!?


 キッチンを覗くと、料理長が不思議そうにこちらを見ました。ということは、ここへは立ち寄っていらっしゃらない。


 エマ様の自室はもぬけの殻です。


 図書室には……、いらっしゃいません。


 そのときでした。


「姉様! また変なこと考えてるんだろ!?」


 バサル様の声で、エマ様の居場所がわかりました。


 バサル様は、貴族令息としては元気すぎるというか……、はっきり申し上げるのはやめておきましょう。しかし、そんなバサル様をエマ様は大変可愛がっていらっしゃいます。


 バサル様の部屋をノックすると、彼の従者が顔を出しました。


「エマ様は……?」

 私が最後まで言う前に、部屋に通されました。


「あっ! ガーネさん! 一緒にやりましょう!」


 エマ様は白い紙を何枚か持ってきているようです。


「一枚を丸めて~、もう一枚で包むの。こっちは、長いまま残して、こんな感じ」


 丸めた紙をもう一枚の真ん中に置いて包みます。残った部分はそのままスカートのように残しておくようです。丸めたところの近くを糸で結びます。


 エマ様ったら、先に言ってくだされば、可愛らしいリボンを用意しておきましたのに。


「ここに好きな顔を書いて」


 それでしたら、なおさら可愛らしいリボンがよかったのではありませんか?


「てるてる坊主って言って、窓の近くに吊るしておくと、晴れになるんだよ」


 てるてる坊主?


「えっ! 本当か!? じゃあ、明日はピクニックに行ける?」

「そうだよ」


「じゃあ、ガーネさんも、ちゃんと吊るしておいてくださいね」


 それはいいですけど……。

 今、外は、雨が降っています。晴れになるなんて、バサル様に言ってしまってよかったのでしょうか?


 後でエマ様にこっそり聞いてみました。


「あぁ、たぶんですけど、大丈夫だと思います」


 どうしてそう言いきれるのでしょうか?


「ガーネさん、こっちに来て空を見てください。ほら、右から左に雲が流れていますね。ということは、上空の風は右から左に吹いているということです。右の空を見てください。ほら、明るいでしょ。雲も切れてきています。きっといい天気になりますよ」


 本当にエマ様は博識ですね。


 次の日、目が覚めると窓から暖かい日差しが差し込んでいました。


「エマ様。晴れましたね。さすがです」

「バサルには、てるてる坊主のお陰ってことにしておきましょ」


 エマ様が視線を向けた先には、バサル様がてるてる坊主を持って走り回っていました。

「こいつすげぇ~!」


 彼は、てるてる坊主を気に入ったようです。


「そういえばエマ様、早起きして肉を炒めていらっしゃいませんでしたか?」


 細かく刻んだ野菜と共に、これまた小さく刻んだ肉を炒めてトマトで味付けをしていらっしゃいました。


「着いてからのお楽しみね」


「姉様行くぞ!」


「ちょっと待って! お弁当が!」

「エマ様、こちらに入れておきましたので」

 慌てるエマ様に、料理長がバスケットを持ってきてくれました。


「本当に美味しかったです」

 料理長は満面の笑みでした。


 えっ! もう食べたのですか!?


 料理長と目が合うと、申し訳なさそうにキッチンに戻っていってしまいました。


 私、そんな怖い顔をしていましたかね?


 ピクニックに向かう間も、ずっと今日のお昼が気になってしかたがありません。

 それはバサル様も同じだったようで、目的地に着いた途端にバスケットを漁っていました。


「いっただっきま~す!」

「えっ? 早くない?」


 エマ様は驚いていますが、私も我慢できそうにありません。

「じゃあ、食べようか」


 待ってました!


 パンのような固いものが配られました。一口食べれば、サクッ!っと音までなります。

 中からは、しっかり味のついたお肉が出てきました。


「おいしー!」

「美味しいです!」

「う~ん。やっぱり、サクッと感が少し足りないかな~。温度調節も難しかったし……」


 こんな美味しい食べ物、食べたことありませんよ! これで納得されていらっしゃらない!?


「う~ん。何度か作ってみないとだよね」


「姉様は、何を目指しているんだよ~。十分だろ。てるてる坊主の魔法も使えるしな!」


 あら? バサル様の中では、あれは魔法になってしまわれたのですね。


 エマ様もそんなつもりではなかったのでしょう。目を見開いたあと、苦笑されていらっしゃいました。

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