リザは何度でも死に至る 

夢うつつ11

第1話 選択 セカイヲヤリナオシマスカ?

目が覚めると俺は見知らぬ森にいた。


あ、俺の名前は山本はじめ、26歳。普通の会社で働いていて、このまま普通に結婚して普通に家族を持って普通に老い死ぬものだと思って生きてきた男だ。


確かに昨夜は家のベッドで寝たはずだが…。


夢の中ってやつか?だとしたら夢占い的には森の夢ってどうなるんだ。


夢にはその人の潜在的な願望だったりが出るらしいが。


それにしても今まで見たことのない景色だ。


俺の今までの人生で訪れたことのない森であることは間違いない。


木々の隙間から差し込む陽の光、髪を揺らす優しい風、感じるそれらはまるで現実みたいに身体を触れる。


仕事に行きたくないって潜在的な願望が、こんな夢を見させたのかもしれないな。


せっかくだし、夢の中を堪能するか。


身体を起こし、知らない森を散策することに決めた。


この舞台設定は日本なのか?俺の意識が見させているなら日本だとは思うが。


森、ということ以外何もまだ情報がなくて分からない。


願望か、だとしたら初恋のあの子だったり、会社のあの可愛い後輩ちゃんだったり出てきてくれないかな。


夢の中なら俺の望む通り、俺に好意的に接してくれそうだよな。


そんなことを妄想しながら、歩くこと5分。


木の陰から音がした。葉を揺らす音。


動物か?そう思い、音のした方を確認する。


ん?あれは靴?しかもサイズはかなり小さい。


その小さな存在は動きを繰り返しながら、木の陰から俺の目の前まで現れた。


「あれ…お兄さん誰?この辺の人…?初めて見る人だけど…」


「あっ、ごめんなさい。まずは挨拶ですよね。わたしはリザです。お兄さんは?」


リザと名乗る少女は、薄い金色の髪をしていて、その髪は太陽の光に照らされている。瞳は碧眼、年は小学生くらいだろうか。


その見た目は、間違いなく日本人からはかけ離れていて、この夢の世界が日本の設定じゃないことだけは理解できた。


「あー、俺は山本っていうんだ。リザちゃん、よろしくね。」


そう答えると、リザは少し困惑した顔で聞き返してくる。


「ヤマ…モ、ロ…?変な名前。初めて聞いたよ、そんな名前。」


俺の26年の人生の自己紹介史上、初めての反応だった。山本という超絶オーソドックス名字が、変な名前認定をされた。


「モロじゃなくてモトだよ、リザちゃん。山本。」


再度名前を伝えるが、やはりリザは困惑して


「ヤマ…モロ。言いにくい…。ヤマでいい?」


2文字覚えてくれれば良いか、「良いよそれで」、そう答えると


「ヤマ、ヤマ、うん!ヤマね!改めてよろしくねヤマ。ところで結局あなたはどこから来た人なの?」


どこから、夢の中の人物にこれは夢なんだと言っても意味が分からないだろうし、かと言ってこの世界の設定が分からない以上、知らない地名を答えても変な顔をされるだけだろう。


そうだ、記憶喪失という設定にしよう。そうすれば細かいことは答えなくて済む。


俺は昔読んだ漫画で出てきた、記憶喪失キャラを思い出し身に宿しリザに言葉を返す。


「じ、実は俺、名前以外全て忘れちゃって。」


「目が覚めたらこの森にいて、ふらふら歩いてたら今リザちゃんに会ったんだ…。」


我ながら大根芝居だったが、幼いリザには効果テキメンだったらしい。


目を開きながら、さっきより大きな声で


「え!大丈夫?お兄さんそんな大変な状態だっんだ。」


さらに心配の声は続き


「良かったらだけど、わたしの家で休む…?休んでたら記憶も戻るかもしれないし…」


「そんな、急にいいのか?」


「大丈夫だよ!おじいちゃん優しいから。」


リザのあまりにも心配する声色に、嘘をついたことに少し罪悪感を感じたが、夢の中だから免罪してもらおう。


何より、夢の中の世界の進展だ。これに乗らない手はない。


「じゃあ、優しさに甘えようかな…」


そう答えると、リザは待ってましたと言わんばかりの反応で、こっちこっちと俺を誘導して森の奥へと連れて行った。











リザについて歩くこと10分、森を抜け小さな集落にたどり着く。


集落の見た目は昔の日本に似ている気がする。


「ここがわたしの住んでる村だよ!きれいでしょ!」


そう言い集落の1番奥の家、他の家よりは大きな家の前まで歩いてきた。


「そしてこれがわたしの家!おじいちゃんは村長なんだ。」


ただいまー、リザは家の中に入っていく。


後に続くように俺も家の中へ。


「おー、、リザ、今日は早く帰ってきたんじゃな。」


家の奥から村長と思われるリザの祖父が出てきた。細い目、風格のある白い髭。


リザの後ろに立つ俺の存在に気づき、祖父は尋ねる。


「お主は誰じゃ…?」


あ、俺は、答えるのを遮るようにリザが答える。


「この人はね、ヤマ!なんか森の中であったんだけど、記憶がなくなっちゃったんだって。」


「ほう、記憶を。」


「だから、記憶が戻るまでお家で休ませてあようって思って、いーでしょおじいちゃん。」


「あー、構わんよ。こんな小さな村だがゆっくりしていきなされ。」


祖父にお礼を言い、リザについて家の奥へ。


ここがわたしの部屋!、そう言いリザが見せてくれた部屋は、綺麗に整理された陽の光が差し込む部屋で、ただスマホやゲーム、パソコン、マンガ、そう言った娯楽物は一切なかった。


ゲームとかで遊ばないのか?そう聞くと、自己紹介したとき同様の困惑した顔で


「げえむって何…?ヤマは変な言葉ばっか言うね」


集落の雰囲気もそうだし、もしかしてこの夢の世界は文明的には昔の世界なのか?


そう思い、スマホ、パソコン、マンガについても聞いてみた。


「ヤマが変な言葉を連発してる!やっぱり記憶が混乱してるんだね。」


心配した顔で俺を見るリザ。


夢の中ではデジタルデトックスでいろ、ということか。勝手に納得して頷く。


それを見ていたリザが少し笑いながら


「ヤマっておもしろいね。」


そのふいにこぼれた笑顔は、俺の胸を少し動かした。


かわいい…


そうだ、俺はロリが好きだった。いや、もちろん恋愛的な意味じゃない。庇護欲だ。


幼い、かわいい存在は守ってあげなければいけない。それはDNAレベルで男に備え付けられた使命なはずだ。


1人で脳内にふける俺を見て、リザが声をかける。


「ヤマ、こっち。」


「ヤマはこの部屋使っていいからね。」


案内された部屋は客人用らしく、すでに布団の用意がされていた。


「おじいちゃんが村長さんだからね、お客さんが来たときはうちに泊めてあげるんだよ」


見知らぬ世界に来て、かわいい少女に出会い、その少女と同じ家で過ごすことが出来る。


現実を離れたひとときとしては最高のものだな。


「ヤマ、このあとはどうする?わたしはまた森に行って遊んでくるけど…。」


「せっかくお家まで連れてきてもらったし、少し休ませてもらおうかな。記憶も戻せないとだし。」


記憶喪失キャラの持続も大変だ。


「そうだよね。うん、わかったよ。ゆっくり休んでね!」


そう言い、リザは元気にまた外へと駆けていった。




用意された布団に入り、知らない天井を見つめる。


たまにはこんな夢も面白いな。目を閉じたらこの夢も終わってしまうのか。


瞼を閉じ、暗闇に身を落とす。


あ、やばい寝てしまう。せっかくのロリとの出会いが。


また、同じ夢見ればいいか、そう思い世界と別れを告げ眠りにつく。


深い眠りへ向かうさなか、静かに戸が開いた音がした。


薄れゆく意識の中、かすかに聞こえた言葉


「運…の…車を変え…わけには…ない。」
















目を覚ますと、すっかり夜だった。


夜?起きたら朝なはずだが。


知らない天井だ。


すると、身体を起こし周りを見渡す。


まだ夢の中だった。寝て起きても継続するなんて、珍しい夢だな。


とすると、リザはまだいるのかな。戸を開き、居間へと出る。


「あー!ヤマ起きた!もうどんだけ寝てるのー!」


リザがご飯を食べる手を止め、こっちに駆け寄ってくる。すごくかわいい。


「ごめんごめん、すっかり寝ちゃって。」


「記憶は戻ってきた?」


そう言えばそんなキャラでやっていたな。思い出し再び憑依させ答える。


「なんか、戻ってきてるような、ないような…」


「どっちなの…!ヤマもご飯食べようご飯!」 


誘われ、村長とリザとの夜ご飯に混ざる。


白飯に味噌汁、焼き魚。古き良き日本だ。最近こんなの食べてないな。


「して、客人。」


村長が声を出す。


「自己紹介がまだじゃったな。儂の名前はカズチじゃ。リザの祖父で、一応この村の村長をやらしてもらっとる。」


「カズチさん、よろしくお願いします。あとお部屋ありがとうございます。俺は山本と言います。」


やはりその名前は難解らしく、横からリザが口を出す。


「ヤマだよ!ヤマ。おじいちゃん、この人はヤマでいいの!」


かなり強引だが、このかわいい存在に与えられた名前ならもうなんでもいいか。


「ヤマさんじゃな…。これからはどうするつもりじゃ?」


これからの予定、全く考えていなかった。目が覚めたら会社に行くとばかり思っていたからな。


「実はあまり決めてなくて…というか分からなくて…」


「おじいちゃん!ヤマは記憶なくなってて大変なんだよ!だからしばらく泊めてあげて。」


カズチは少し考えて


「リザの頼みじゃ。しばらくはいいじゃろう。」


やったー!、リザは嬉しそうだ。


「この村にお主のような、知らない人が来るのは珍しくての。良かったらリザと仲良くしてあげてくれ。」


カズチに頼まれ即答した。


「もちろんです。リザちゃんみたいなかわいい子なら、こちらからお願いして仲良くさせてもらいますよ。」


あまり言われ慣れていないのか、リザは少し戸惑っていた。


「かわ、かわ…。からかわいでよヤマ!」


カヅチはそんなリザを見て、大きく笑い、俺もまた笑い声をあげ、そんな楽しい夜だった。







「じゃあヤマ、また明日ねおやすみ!」


「ああ、おやすみ。」


客人の部屋に入り、知り始めた天井を眺め

る。


娘が出来たら、本当に可愛いんだろうな。俺も早く結婚しないとな。遅くても30までには相手見つけて、うん、夢から覚めたら結婚に向けて本格的に動こう。


明日は月曜日、1週間の始まりだ。気合入れて会社行くぞ。


目覚ましをセットして、そうかここにはなかったんだった。


寝よう。そう思い目をつぶる。


この夢をセーブしてまた別の夜に見たいな、そんなことを考えながら眠りについた。











朝、目が覚めると知ってる天井だった。いや、正確には知り始めた天井だ。


まだ夢は続いているのか。


ここまで長い夢はこれまでで初めてだ。


とはいえ、あの笑顔をまた見れる。


戸を空けるとカヅチさんがいた。


「おー…おはようじゃヤマ。」


「おはようございます。あの、リザは…?」


「リザならもう起きて遊びに行っておるぞ。きっとまた森だとは思うが。」


早い、早すぎるぞリザちゃん。毎朝7時半の電車に乗る、社畜の俺よりも圧倒的に起きるのが早い。


これが若さか、社会に無理やり教えられた起床じゃ歯が立たない。


カヅチさんにリザのとこに行くと伝え、家を出る。


村の朝は早く、村人たちはみんな起きて働いていた。もうすでに俺は話題の中心らしく、みんなが俺を見てくる。


あれがリザちゃんの言っていた…どこからともなくそんな声が聞こえる。


頼むから良い噂であってくれ。そう願いながら、村を抜け森へ向かった。







森を歩いていくと、光る金色の髪が視界に入る。リザだ。


驚かせようと、足音を消しながら近づき、肩をとんとん。


「わっ…!」


リザは予想以上の反応を見せて、飛び上がる。


俺の顔を見て安心したように笑顔を見せる。


「もう…ヤマ!びっくりするでしょ。」


ごめんごめん、謝りながらリザの遊びに混ざる。


どうやら四つ葉のクローバーを探してるらしい。この世界にもあるんだな。


リザの日課で、4つ見つけるまで帰らないらしい。今はまだ1つだけだった。


リザは楽しそうに言う。


「ヤマ、四つ葉を見つけるのはね、何の特別な力もいらないんだよ。」


「必要なのはね、四つ葉があるって信じる心だけなの!」


「それがあればいつかはきっと見つかるんだよ!」


要するに見つかるまで探せば見つかるってことだな。そりゃそうだ。


少女の純粋な心は大切に育てなければいけない。だから言葉には気をつけるんだ。


「そうだったんだ。じゃあ俺も信じるよ、リザちゃんがきっと四つ葉を見つけられるって。」


その言葉にリザはすぐに反応する。


「違う、ヤマも探すの。わたし1人の信じる心と、ヤマの信じる心、そして2人の探す行動力、これが合わさった時に四つ葉はわたしたちの前に姿を見せるんだよ!」


つまり、俺も探せということだな。もちろんだ。













リザとの四つ葉探しは太陽が色を変えるまで続き、それでもあと1つがなかなか見つからなかった。


「リザちゃん、そろそろ帰らないと夜になるよ。」


声をかけるもリザの四つ葉を探す目は止まらない。子供の集中力はすごい。


それでもさすがに夜になる前には帰らせないと。


「明日も付き合うからさ、今日は帰ろう。」


リザは納得できていなかったが、渋々手を止め立ち上がる。


「ヤマの信じる心がまだまだ弱かった。明日はもっと強く信じてね。」


少し不機嫌なお嬢様を宥めるように


「申し訳ありません、リザお嬢様。明日はこのヤマ、さらに強くなっていたお嬢様をお助けいたします。」


それを聞いたリザの不機嫌な顔は笑顔に変わっていき、もうなにそれヤマ、とかわいい笑顔を見せてくれた。


日が完全に暮れてしまう前に村まで着き、その間もリザをお嬢様お嬢様と呼び、その度リザは笑ってくれていた。


家に着くとカヅチさんがすでに夕食を3人分用意してくれていて、すぐにご飯となった。


リザはおじいちゃんに、今日の四つ葉探しを楽しそうに報告する。ヤマの信じる心がまだ弱いって俺のほうを見ながら。


俺はさらに強くなると立ち上がり、それを見たリザもカヅチも笑う。


笑い声が絶えないそんな夜、長い長い幸せな夢、その夢の終わりが来ないことをいつしか願っていた。





「じゃあ、ヤマ明日も探すからね。おやすみ。」


リザとおやすみの挨拶を済ませ、布団に潜る。


ずっとリザの笑顔を見ていたい、でもさすがにそろそろ夢が覚める頃か。そんな不安を抱えて眠りについた。














大きな物音と、小さな悲鳴で目を覚ます。


その声はリザの声だった。間違いようがない。


すぐに起き、リザの部屋の元まで走る。


戸を開け、部屋の中に入ると







リザのお腹がグサグサに刺され、大量の血が辺りを濡らしていた。


リザ!、すぐに駆け寄り声をかける。


「ヤマ…」


かろうじて目を開け、声を出すリザ。


しかし、すぐに目は閉じられ、声は消える。


なんで、どうして、誰が。


色んな考えが巡る中、視界が急に真っ暗になる。


そして暗い空間に白い大きな文字が映る。








     選択



セカイヲヤリナオシマスカ?









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リザは何度でも死に至る  夢うつつ11 @mitumine1326

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