いい天気とはどちらですか

白鷺雨月

第1話 いい天気とはどちらですか

 いい天気とはどちらですか?

 普通は晴れがいい天気ですよね。

 天気予報でも「明日はいい天気になるでしょう」といえば、晴れの日をさしますよね。

 雨の日は「あいにくの天気」といいます。

 でも私にとっては雨の方がいい天気なのです。


 私の名前は雨宮霧乃あまみやきりの。名前に雨がはいり、しかも霧までついてます。

 名は体をあらわすっていうけど、私はその名の通り雨女なんです。

 七五三も小学校の入学式も、中学の修学旅行も、高校の卒業式も全部雨でした。

 母親の晴美はるみには「あんた生粋の雨女だね」と言います。

 そう言う母親は晴れ女です。

 だって名前が晴美だから。

 母親が来る授業参観や運動会は何故か晴れでした。

 運動神経の鈍い私は運動会や体育祭こそ雨が降って欲しいと願うんですけど母親が来る日は晴れます。

 私は晴れて欲しい日には雨で、雨が降って欲しい日には晴れます。

 そういう運が悪い女なんです。


 そんな中途半端な雨女の私は大学を出て、とある企業に就職しました。

 晴れて欲しい大学の卒業式は雨で、どうでもいい入社式は雨でした。

 買ったばかりのスーツが湿るのは気分のいいものじゃなかったですね。


「私って雨女なんですよね」

 とある日の昼休み。同期の女子社員三人と社員食堂で私は昼食をとっていました。

 何気ない世間話です。

「名前が雨宮だから」

 醤油ラーメンを啜りながら同期の真理が言いました。

「雨宮霧乃って名前に雨が二つあるものね」

 したり顔でもう一人の同期の静香が言います。

 静香は野菜サラダだけをたべる。そんな女子です。

「そうなのよね。でも雨が降って欲しい日には振らないのよね」

 私はチキンカレーを混ぜながら、彼女らに言った。


「僕は雨の日好きだけどな。体育祭が休みになったらうれしかったからね」

 雑談している私たちに二つ上の先輩木下彰きのしたあきらが話しかけてきた。

 あっ先輩こんにちはと人当たりの良い真理が笑顔で挨拶する。

 私は「どうも」とカレーを口に入れたまま、話してしまう。

 私も体育祭は雨になって欲しかった。でも、そんな日にかぎって晴れるのだ。

 話しかけた木下先輩はじゃあねとミックスフライ定食を持って、別のテーブルに去って行った。


 木下先輩も私と同じで、体育が苦手で雨になれと祈っていたタイプだと静香は言った。

 入社してそんなにたっていないのに静香は社内の内部事情に詳しい。

 私はどことなく木下先輩にシンパシーを感じた。


 

 入社して二ヶ月ほどか過ぎた。

 その日の朝の天気予報では梅雨入りをしたと気象予報士が告げていた。

 そして気象予報士の言う通り、その日は天気は雨だった。

 二十二年も雨女として生きた私にとって、天気予報なんてみなくても前髪の縮れ具合で天気は分かるようになっていた。

 この日は真理と静香は会議でいないので、昼食は私一人であった。

 一人でコロッケ定食を食べていると木下先輩が話しかけてきた。

「今日も良い天気だね」

 不思議な事を木下先輩は言う。

 普通、良い天気って晴れのことではないか。

「良い天気ですか?」

 私が訊くと木下先輩は「そう」と頷いた。

「向かい、良い?」

 木下先輩に尋ねられたので、どうぞと私は答える。

 もしかして、木下先輩は私が一人になるのを狙っていたのかしら。

 だとしたらそんなに悪い気はしない。

 

 木下先輩はミックスフライ定食をテーブルに置き、私の向かいに座る。

「木下先輩って雨が好きなんですか?」

 私はコロッケを咀嚼し、飲み込む。

「そう、雨の方がいい天気なんだ。僕は体育が本当に苦手でね。雨がふってスポーツ系のイベントが中止になるほうが良かったんだよね」

 木下先輩はアジフライと白飯を交互に食べる。

 学校の給食のような食べ方をするなと私は思った。

 

 それから時々、私は木下先輩と昼食を一緒に取るようになった。

 雨の話題で彼と仲良くなれた。

 だから、私にとっても雨は良い天気になった。



終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いい天気とはどちらですか 白鷺雨月 @sirasagiugethu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画