星が違う僕らの恋は果てしないか?

@masa9670

第1話(2,000字程度 完結)

 彼女に会いたい。それに必要な星間航行費用は並みの方法じゃ稼げない。それに時間もない。ただひたすらにお金のことを考えた。


 こめかみに埋められたチップに手を伸ばして通信を始める。ざざ、ざざとノイズが入る。

「リーラ、聞こえてる?」

「オッケー、大丈夫」

 不安定な通信は金曜日の寝る前の楽しみだ。この時間は向こうもちょうど夜だった。リーラは一つ隣の銀河にある惑星に住んでいる。

 リーラとなぜ通信できているのかは、はっきりしていない。学生が持つようなチップで星間通話機能がついているものはない。僕みたいに家が貧乏で学校支給品の旧型チップを使っているなら尚更だった。これは僕の想像だけど、旧型のチップの電波は企業や軍の使う電波と似てというのを聞いたことがある。それと僕の家の座標が関係して、偶然僕の部屋からリーラと通信できているのかもしれない。

「今日は何してたの?」

「私は社会学習。また開拓当初の話を聞かされたわ。小さい頃から散々聞かされてるのに」

 リーラは僕と同じ十七歳で学生。顔はわからないけど、声は色で言うと淡い黄色。快活で優しさの滲む声で、僕はそれが好きだった。もちろん言ったことはない。

「僕にはその話、おもしろいけどな」

「つまんないって! だって語り手は私のおばあちゃんよ。昔にもう何回聞かされたか」

 元々彼女たちの先祖は地球からの移民で、俗にフロンティアと呼ばれる。少し前に開拓五十年記念式典があったらしい。彼女はそのフロンティア三世だった。あっちには学校もあるし会社もある。国は一つしかないけど、連邦制を採用していていくつか州が存在する。その州をまとめるのが惑星連邦政府。リーラはその上層部の家系でお金持ちらしい。

 リーラは凛としている。学校で喧嘩があったとき、彼女は正しいと思う方に加勢する。自分の信じるものは貫きなさい、初代フロンティアのおじいちゃんの言葉らしい。そして、いじめや誰にも益のない喧嘩をしてはいけないとも説かれているらしい。

 「おじいちゃんが言うには、物事をよりよくするための喧嘩は大いにしなさい。だが、誰も得をしない喧嘩はだめだ。全員がこの星を豊かにする同士だから、最後には仲直りをするんだ。おじいちゃんたちの世代はそれをフロンティア魂って言うの。名前はちょっとダサいよね」

 他の星でも世代間ギャップはあるらしい。

「友達はさ、そういうのが全部ダサくて古いって言う。でも私は、その考え自体は間違ってないと思う」

 芯のある声は通信ノイズを貫いて僕の耳にはっきりと届いた。綺麗な声だと思った。彼女はまっすぐにそういうことを口にする。

 ふと窓の外に目をやると満月が見える。そうか。リーラの声はこの満月と同じ色なんだ。見上げるほどに綺麗で、包まれるような優しさがある。

「そういえば、リーラの星には月はあるの?」

「つき? ああ、動画で見たことある。うちはないよ。あれが空に浮かんでるなんて素敵な景色よね。私いつか見てみたい」

 僕はなるべく自然を意識して言った。

「地球においでよ」

 彼女に会いたい。けど星間航行費用は貧乏家庭に出せる金額ではない。情けない話、リーラの家の財力に頼るかたちのお誘いだった。

「行きたい!」

 リーラの大声でノイズ音が破裂する。その答えに思わずこぶしを握った。

「いつでもおいでよ」

 僕はできうる限りの平静を装ったつもりだ。しかしリーラは渋るような声で言った。

「うーん、でも結婚して子供つくってからだから、当分先かな」

 どういうことかわからなかった。

「リーラって、婚約者いるの?」

「まさか、いないわよ」

 リーラはくすくすと笑う。満月から聞こえているような優しい声だった。

「そっか。私には当たり前すぎて忘れてた。うちの星は星間航行に制限があるの。惑星連邦法っていう星全体のルールで決まってる」

 リーラは続けた。

「人口減少対策ね。男女とも結婚して子供を設けた人が外に出られるの。もし子供を作っても、星の外へ行くなら家族は一緒にいけないの。そのまま戻ってこないかもしれないから。他の星へ移住したくなっても同じ、行くなら一人で行かないといけない」

 僕の無反応に彼女は何か察したようだった。

「そうなのよね。私も思うところはあるのよ。でも開拓で苦労してきた私の家族のことを考えると、しょうがないのかなっていう気持ちもあるの」

 リーラの心の複雑さと僕のとでは少し違う。

「私が行ったら案内してよね。月は地球のどこで見られるの?」

 

 リーラとはその後数回の通話でつながらなくなった。あれから五年経つ。宇宙船の窓から覗くリーラの星は、月の色をしていた。

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