たぶん絶対大丈夫
@AsuAsaAshita
手紙
主人公になってみよう。
僕の世界の主人公に、僕の人生の主人公に。
今からは、僕が僕のためにやることだ。
決して誰かに強制されたり、唆されたりしてやったことではない。
断じて。
それでも、やっぱり怖い。
誰かに言ってほしい。
命を下してほしい、とも思う。
それが一番楽だから。
でも、そうしていては僕の人生ではなくなってしまう。
自分じゃない気がする。
だから、やる。
たぶん。
絶対。
大丈夫。
⸻
その手紙は、床に置かれていた。
僕の部屋には何もなかった。
生活の跡は薄く、使われていない空間の匂いがした。
あるのは椅子と、天井から垂れたロープだけだった。
静かすぎる部屋だった。
音がないというより、
音が起きるのを待っているような静けさだった。
椅子は壁際に寄せられている。
脚の一本が、床を少しだけ削っていた。
いつ付いたのかは分からない。
ただ、その傷は新しかった。
ロープは揺れていない。
結び目は固く、ほどかれた様子もない。
それでも、部屋全体は奇妙なほど落ち着いていた。
手紙は、今は机の上にあった。
きれいに畳まれ、角が揃えられている。
その上に、伏せられたマグカップ。
中身は空だが、
指を近づけると、かすかに温もりの名残があった。
窓が開いている。
冷たい風が入り、カーテンを揺らす。
遠くで車の音がした。
誰かの話し声が、途切れ途切れに聞こえる。
世界は、何事もなかったように続いている。
玄関を見る。
鍵は掛かっていなかった。
僕は、手紙をもう一度読み返した。
乱暴な言葉も、強すぎる断言も、
全部、僕らしかった。
紙をそっと机に戻し、
ペンを取る。
空いていた余白に、短く書き足す。
また、どこかで
インクが乾くのを待ってから、
手紙を折り直す。
部屋を出るとき、
なぜか振り返らなかった。
振り返る必要がないと、
分かってしまったからだ。
外は、少しだけ暖かかった。
たぶん絶対大丈夫 @AsuAsaAshita
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