第四話 時給一〇〇万円の掃除
地下1階が石造りの通路だったのに対し、地下2階は「廃墟化した地下鉄のホーム」のような姿をしていた。 いたるところに錆びついた車両が転がり、現実の新宿や渋谷を歪ませたような不気味な空間だ。
「……いたな」
『神域のヘッドセット』が、柱の影に潜む複数の気配を捉える。 現れたのは、地下1階のゴブリンより一回り大きく、軍用ナイフのような爪を持つ「ラージ・ラット」の群れだ。その数、十数匹。
「ギィィィッ!」
一斉に飛びかかってくる巨大なネズミたち。 以前の俺なら腰を抜かして逃げ出していただろう。だが、今の俺には『リアリティ・パッチ』で強化した『神速のサンダル』がある。
「遅いな……」
視界がスローモーションに見える。 軽く足に力を入れただけで、俺の体は弾丸のように加速した。
シュパッ、シュパパッ!
漆黒の木刀が闇を切り裂く。 一振りごとにラージ・ラットが光の塵へと変わっていく。 敵の爪が俺のジャージをかすめたが、火花が散るだけで、傷一つ付かない。 「物理攻撃完全無効」――。し〇むらのジャージが、今や現用戦車の装甲より硬いのだ。
「ふぅ……。これで全部か」
わずか1分。 かつてネトゲで何時間もかけてレベル上げをしていたのが馬鹿らしくなるほどの効率だ。 消滅したネズミたちの跡には、紫色の魔石と、いくつかのドロップ品が落ちていた。
その中に、見慣れないアイテムがあった。 【ダンジョン産の極上チーズ】 【汚染浄化の魔石】
「チーズ……? それに浄化の魔石か」
俺はタブレットを取り出し、『ダマゾン』で買取価格をチェックする。
「……えっ?」
画面に表示された数字を見て、思わず二度見した。 《汚染浄化の魔石:買取価格 1,200,000円(※現在、地上の需要急増により高騰中!)》
どうやら外の世界では、モンスターが発生させた毒や汚染を消し去る手段がなく、この手のアイテムに国家予算レベルの懸賞金がかけられているらしい。
「一匹倒して120万……。時給換算したら、これ……」
ニートの脳が、かつて就職サイトで見た「初任給20万」という数字と比較してショートしかける。 さらにもう一つの『極上チーズ』を鑑定すると――。
《極上チーズ:食べると24時間、集中力が極限まで高まり、一切の眠気を感じなくなる》
「これ……徹夜でゲームするのに最高じゃん」
俺は迷わずチーズを口に放り込んだ。 濃厚な旨味が広がり、脳がスッキリと冴え渡っていく。 金が手に入り、身体能力が上がり、趣味の環境まで良くなる。 ダンジョン攻略は、俺にとって「義務」ではなく、最高の「ライフハック」へと変わりつつあった。
その時。 階下へ続く階段の先から、これまでとは比較にならないほど重苦しい咆哮が響いた。
「……下(地下3階)には、もっとヤバいのがいるな」
だが、恐怖はなかった。 今の俺には、次の「パッチ」に必要なポイントと、ダマゾンでポチるための資金がたっぷりとある。
「次は、あの部屋にある『懐中電灯』でも改造して持ってくるか。レーザー砲にでもなれば楽なんだけどな」
俺は鼻歌まじりに、血の一滴も流さなかった「戦場」を後にし、帰還の途についた。 夕飯の「ドア前配膳」の時間には、まだ余裕がある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます