想入非記
秋梨夜風
起
現在、文学界は冬の時代である。ただでさえ読者の確保が厳しい市場に、AIを使用した粗製濫造がなだれ込み、多くの物書きが苦戦を強いられている。
かつて絵画における写実表現が、カメラの発明によって衰退したように。あるいは名人の手で作られる工芸品が、工場生産の安価な品に置き換わっていくように……。
このままでは、人類の手から創作の灯が消える。近ごろ私が原稿に向かうたび、頭をもたげる不安というのはもっぱらそのことだった。
ところで、創作者がそんな時代の趨勢に抗う術はいつの世も一つらしい。
『その分野にしかできない表現』を突き詰める。至ってシンプルな真理の追求である。
絵画は、カメラにできない省略や強調で画面を彩った。工芸品は、伝統ある一点ものとして高級路線を切り開いた。
文学においてはどうか? これが難しい。そもそも文字とは、誰にも等しく情報を伝えることに特化した媒体であり、ひとたび印字されてしまえば、モノとして均一になる。
単に知識を得たり、面白い物語を読みたい読者にとって“誰が書いたか”は二の次なのだから、物量で攻めてくるAIに人類は到底、太刀打ちできないだろう。
だがここで、物書きにとって一つの光明がある。
実は、人が書いた文章だけに宿る、ある特別な力が存在するのだ。
事実、それはほとんどの言語に共通する……発音から始まり、記号で視覚情報となった文字が、『読む』という行為に辿り着いた人類だけに授けた恩恵……爆発的な知能増幅のメカニズム、他人と心を通わせたいという願いの力である。
“想いを込める”とはよく言うが、書き手の気持ちが入った文章には模倣できない唯一性、つまり魂が宿るのだ。
疑うのも無理はない。私自身、そんな絵空事が実在するなんて、露ほども知らなかったのだから――あの手紙を読むまでは。
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