優秀な弟に彼女を寝取られ会社もクビになった俺は幼馴染に助けてもらったのだが
リラックス夢土
第1話
俺には二歳年下の弟がいる。
弟は勉強の成績は優秀で運動もできる文武両道の男。
それでもまだ中学生ぐらいまでは両親も俺に期待して愛情を注いでくれていたと思う。
だが俺は高校受験に失敗した。
すべり止めで受けた三流の私立学校に入学することになった頃から両親の期待も愛情も俺から優秀な弟へと完全に移った。
そして弟も俺を馬鹿にして暴言を吐くようになる。
「兄貴。マジであんな高校にも合格できないなんて将来まともな仕事できねえんじゃねえの?」
「
いつものごとく弟の浩司に馬鹿にされた俺を庇ってくれたのは俺と同じ歳の幼馴染の
陽香は俺とは別の学校に進学をした。
「だってさあ、ハル姉の高校は進学校だからいいけど兄貴の高校は県立にも入学できない奴らが集まる三流高校だぜ。もう完全に将来終わってんじゃん」
「そんなことないわよ。これからまた勉強すれば名門大学にだって入れるわよ」
「いいよ、陽香。俺は高校卒業したら働こうと思ってるし」
「でも、悠太くん……」
自分がこれから勉強しても名門大学に入れないことは俺自身が一番よく分かっている。
「ハハハ、兄貴って今時高卒で就職するのかよ。ダッサッ!」
浩司に笑われるのは嫌だがそれが現実なので仕方ない。
これ以上陽香の前で弟から屈辱を受ける姿を見せたくなくて俺はその場から逃げ出す。
「悠太くん! どんな人生でも諦めちゃダメよ! 必ず悠太くんは幸せになるからね!」
後ろから陽香の声が聞こえたが俺はそれを無視する。
それから俺が陽香に会うことはなくなった。
高校に進学しても陽香から会いたいというメッセージが来たが俺は自分の惨めな姿を見せたくなくて「もうメッセージは送るな」と返事を送った。
陽香からはその後連絡が来ることもなく月日は流れる。
自分で言った通りに高卒で就職した俺は今年で28歳になる社会人だ。
俺が勤めている会社は小さな町工場。そこの作業員として就職し10年が経とうとしていた。
弟は順調に進学校の私立高校に入学し大学も一流大学に進んで大手の会社に就職しエリートコースを着々と進んでいるらしい。
らしいというのは俺は就職してから実家との関わりを絶っているので浩司のことは風の噂で聞いただけだからだ。
そんな俺だが三年前から交際している彼女がいる。
彼女の名前は
ある日、一日の仕事を終えた俺は美咲に呼び出された。
「美咲。何か用事か?」
「あのさ、悠太。私と別れてくれない?」
「は? な、なんだよ、突然……俺が何か悪いことしたか?」
「う~ん、私も28歳になってさ。そろそろ結婚しようかなって考えたんだけど……」
「結婚? 俺との結婚か……?」
「まさか。悠太はずっとこの町工場で働くんでしょ?」
「そのつもりだけど」
俺は突然の別れ話に戸惑いながらもそう返事をする。
この町工場で働き始めてから俺は社長に気に入られていて若いながら今では社長の右腕として頼りにされている存在だ。
社長は俺と美咲の仲を知っていて将来は美咲と結婚して町工場を継いで欲しいと言われたこともある。
俺もそれもいいかもしれないと思っていたのでなぜ今になって美咲が俺と別れたいと言うのか理由が分からない。
「私さ。こんな小さな町工場の社長の妻で終わりたくないわけ。だから私は
「真流院浩司だって!? そいつは俺の弟じゃないか!」
俺の苗字は珍しく弟と同姓同名がいるとは考えにくい。
「そうみたいね。浩司さんも悠太っていう馬鹿な兄貴がいるって言ってたし。それって悠太のことだもんね」
「どこで浩司と知り合ったんだよ!」
「浩司さんはうちの町工場の取引先の担当になった時に知り合ったの。浩司さんは取引先の会社のエリートよ。出世街道まっしぐらのとても優秀な人よ。だからその時に飲みに誘われてホテルに行っちゃったわ」
「なんだって!?」
美咲が浩司に寝取られていたことを知り俺は大きなショックを受ける。
「それが半年前の話かなあ。それから浩司さんと付き合い始めて私は今浩司さんの子供を妊娠してるのよ」
「はあ!? 俺と浩司と二股かけてて浩司の子供を妊娠しただと!? 本当に浩司の子供なのか!?」
俺は自分の子供の可能性もあるのではと考えて美咲に問い質す。
「だって悠太とは避妊してたけど浩司さんとはゴムつけてなかったし中出しだったから浩司さんの子供に間違いないわ」
美咲は悪びれる様子もなく言い切る。
俺は怒りで握っていた拳がぶるぶると震えた。
「浩司さんもその話をしたら私と結婚してくれるって言ってたわ。それにお父さんも子供ができたのなら仕方ないって浩司さんとの結婚を認めてくれたの。だから悠太は今日でこの町工場を辞めてもらうから」
「は!? 俺に仕事を辞めろだって!?」
「当然じゃない。私の元彼が実家の会社にいるなんて浩司さんが嫌だって言うのよ。だから明日からここには来ないでね」
美咲は勝ち誇った顔をして行ってしまった。
その場に残された俺は怒りが腹の底から込み上げてくる。
浩司の奴。俺の彼女を寝取った上に俺から仕事まで奪うなんて許せねえぇーっ!!
二股かけた美咲も俺のことを切り捨てるこの会社の社長にも復讐してやる!!
そう深く心に誓ってもいきなり職を失った俺に絶望感が押し寄せる。
貯金はそんなに多くはないのですぐに次の仕事を探さないといけない。
自宅のアパートに帰る途中で俺は求人雑誌を求めて近くのコンビニに寄った。
求人雑誌を手にして俺がコンビニを出ると声をかけられる。
「あの、もしかして悠太くんじゃない?」
その声に振り返るとそこには音信不通になっていた幼馴染の陽香がいた。
記憶よりも大人の女性になっていても陽香の顔を間違えることはない。
「陽香か……? 陽香だよな……?」
「うん。陽香だよ。久しぶりだね、悠太くん。元気にしてた?」
「あ、ああ、元気というか……今はちょっと元気とは言えないかな……」
「何かあったの? 困っているなら相談に乗るよ。悠太くんは私の大切な幼馴染だもん」
ニコリと微笑む陽香の優しい笑顔に俺は我慢できずに縋りつくように声を絞り出す。
「それなら俺の愚痴……聞いてくれるか? 陽香」
「うん、いいよ」
近くのカフェに寄り俺は美咲と浩司のことと仕事をクビになった話をした。
陽香は黙って俺の話を聞いた後に俺に向かって優しく微笑む。
「辛かったね、悠太くん。そんな二人のこと忘れちゃいなよ。それに悠太くんの再就職先にいい会社を私知ってるから紹介してあげる」
「本当か! 陽香」
「その代わり条件があるわ」
「条件?」
「私と付き合ってくれない? ずっと悠太くんのこと好きで忘れられなかったの」
「いいのか? 陽香に酷いメッセージを送ったりした俺が相手でも」
「もちろんよ。それとも悠太くんは私が好きじゃない?」
「い、いや、陽香のことは、す、好きだよ! 陽香は俺の初恋の相手だし……」
「それならこれからよろしくね、悠太くん」
「ああ、こちらこそ改めてよろしくな、陽香」
それから俺は陽香の紹介で別の町工場で働き始めた。
陽香とも交際を始めた俺は幸せな日常を送っている。
仕事の休憩時間になって俺が休んでいると携帯電話が鳴る。
着信相手は美咲の実家の会社からだ。
そういえば美咲の携帯電話は着信拒否にしてたけど会社の方はまだ連絡先を消してなかったな。
無視をしても良かったがしつこく鳴り続ける電話に俺は出ることにした。
「もしもし」
『悠太! 私、美咲だけど、お願い! 助けて欲しいの!』
「は? 今更俺がなんで美咲を助けなきゃいけないんだよ。何があったか知らねえが浩司を頼ればいいだろ」
『悠太しか頼れないのよ! お父さんがお酒の飲み過ぎで心臓発作を起こして死んじゃったの! だけどうちの会社ってお父さんしかできない技術で製品を作ってたからお父さんが死んだから製品が作れなくなったのよ! でも悠太はお父さんからその技術を受け継いでいたでしょ! だからうちの会社に戻って働いて欲しいの! うちが製品を作れないと浩司さんも会社に損益を与えた責任を取らされてクビになっちゃうのよ!』
「俺には関係ないな。二度と連絡するな!」
俺は美咲との電話を切った。
あの社長、心臓が弱かったのに酒を飲み過ぎて発作を起こして死んだのか。
ざまあねえな!
美咲の奴、それで俺を頼って来たのか。そりゃそうかあの技術を持っているのは日本で俺とあの社長だけだったからな!
浩司も責任取らされてクビになっちまえよ!
美咲共々路頭に迷えばいいさ!
誰がお前たちを助けてやるかよ! アハハハハハハッ!!
「
「ありがとうございます」
陽香は自分の上司である営業部長にお礼を言う。
営業部でトップの成績を取れたのは陽香も初めてだ。
自席に戻った陽香は自分の携帯電話に保存された悠太の写真を見て微笑む。
「悠太くんが私の取引先の町工場に再就職してくれたおかげで希少な製品を私の会社から売り出すことに成功したわ。ありがとう、悠太くん。おかげで私は営業部のエリートになれたわ。それにしても悠太くんの前に勤めていた会社の社長は少し気がある素振りを見せてお酒を勧めたら予定通りに心臓発作を起こしてくれるなんてうまくいったわね。心臓が弱いという情報は本当だったのね。悠太くんが美咲という女と付き合いだした時はどうしようかと思ったけどそのおかげで社長が悠太くんに自分の技術を教えてくれるなんて私も三年我慢したかいがあったわ。浩司くんは私の会社のライバル会社の営業マンで目障りだったけどこれで浩司くんも消えてくれるし。悠太くんには言ったでしょ。悠太くんは必ず幸せになれるって。これからは私が悠太くんを公私ともに幸せにするからもう浮気はしちゃ、ダ・メ・よ、フフフッ」
優秀な弟に彼女を寝取られ会社もクビになった俺は幼馴染に助けてもらったのだが リラックス夢土 @wakitatomohiro
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