不正貴族の息子に転生した俺。親の全借金を背負わされた代わりに、辺境伯の名誉と土地だけをもらったので、領地を再興しようと思います。

天音楓

第1話

 気づけば貴族として異世界に転生していた。

 前世の記憶を持ったまま、この世界で目を覚ました俺は、裕福な貴族の家に生まれていた。使用人が何人もいて、食事は豪華で、広い屋敷には庭園まである。

 異世界転生ガチャ、大当たりーーそう思っていた。

 5年間、俺は何不自由ない生活を送った。

 勉強も、遊びも、すべてが夢のようだった。

 

 そんな俺がなぜ今、平民を装い、馬小屋に住んでいるのだろうか。

 それは一週間前に起きたことが原因だった。



「辺境伯を引きずり出せ!」

「俺たちの金を返せ!」


 怒号が屋敷を包み込んだ。

 窓の外には、松明を持った市民たちが何百人も集まっていた。


 市民からの告発で、両親が長年にわたって領民から金を巻き上げていたことが発覚したのだ。

 不当な税の徴収、賄賂の強要、公金の横領――数え切れないほどの罪状だ。


 屋敷の前の人の数に唖然としてると、衝撃的な光景を目にした。


「あなた、急ぎましょう!」


「ああ、馬車の準備はできているぞ。」


 両親は、俺の存在に気づきもせず、そのまま駆け去っていった。――置いていかれた。

 その瞬間、俺は理解した。この世界には、血の繋がりなんて何の意味も持たないのだと。


「ルカ、こっち!」

 リーリャに手を引かれ、俺は裏口から逃げ出した。



 そしてその日以来、屋敷を市民が囲い込んで入れない。

 ーーてか、子供を置いていくなんてありえないだろ!しかも自分の子だぞ。まだ5歳だというのに、人生いきなりハードモードかよ!

 残ったのは親の借金と名ばかりの辺境伯位に荒れ果てた土地だけ。

 この名誉なんて、こんな状況じゃ使いものにならない。いや、役に立たないどころか、むしろ邪魔ですらある。

 それでも、頼れる味方、リーリャは俺を見捨てないでくれた。

 リーリャは20歳になったばかりのメイドだ。亜麻色の髪を後ろで束ね、いつも清楚なメイド服に身を包んでいる。笑顔は優しいが、その瞳には強い意志が宿っている。

 彼女は、俺がまだ赤ん坊の頃から世話をしてくれていた。夜泣きをすればあやしてくれて、転んで泣けば膝の傷に薬を塗ってくれた。

 両親は俺に興味を示さなかった。

 思い返せば、両親と過ごした記憶はほとんどない。


 父は常に執務室に籠もり、書類と金貨の計算に明け暮れていた。母は社交界への出席ばかりで、屋敷にいることすら稀だった。

 そういえば、5歳の誕生日も、両親は祝ってくれなかった。


「ルカ、お前は辺境伯の跡取りなのだから、品位を保て」


 父が俺に言った唯一の言葉がこれだ。愛情のかけらもない、ただの命令。

 そんな両親だったから、逃げる時に俺を置いていったのも、今となっては納得できる。――最初から、俺なんてどうでもよかったんだ。


 だから俺にとって、リーリャは母親のような存在だ。

 今はリーリャのお金を貸してもらい、2人で過ごしている。


「ルカ、今日は市場でパンを買ってきましたよ」

 リーリャが差し出してくれる硬いパンをかじりながら、俺は申し訳なさでいっぱいになる。本来なら俺が守るべき立場なのに、今の俺では何もできない。

 リーリャの貯金も、あと数日で底をつくだろう。焦りが胸を締め付ける。このままでは、二人とも路頭に迷うことになる。

 ――俺には時間がない。早く、この状況を打破しなければ。


 それにしても最悪なタイミングだ。

 今は初夏も過ぎ、暑くなり始めている。

 馬小屋では当然、暑さは凌(しの)げない。

 暑い中、他に何かないかと考えていると、ふと、俺は二つのスキルを持っていることを思い出した。農業スキルと、相手の思考を読むスキル――【読心】だ。

 転生直後、俺の視界には不思議な文字が浮かんでいた。

【取得スキル】・農業 ・読心

 最初は「何これ?」と思った。まるでゲームのステータス画面みたいだ。

 農業スキルは、植物の育て方や土壌の状態が直感的にわかる能力らしい。読心スキルは、相手の表層思考を読み取れる能力だ。

 ただ、読心スキルには問題があった。一度試しに使ってみたとき、周囲の人間の思考が一斉に頭に流れ込んできたのだ。

 『今日の夕食は何にしようかしら』 『領主様のご機嫌を損ねないようにしないと』 『あの商人、また値段を吹っかけやがって』

 数十人分の思考がノイズのように響き、頭が割れそうになった。それ以来、このスキルは封印していた。

 だけど、今は違う。この力を使わなければ、俺は生き残れない。

 

 考え事をしていると、リーリャが街での買い物から帰ってきた。

「ルカ、大変だよ。明日、新しい領主を決める市民選挙が行われるそうですよ。」

 選挙――そうか、この街にはもう統治者がいないんだ。

 市民たちは、新しいリーダーを求めているんだ。

 俺は辺境伯の位を失えば何も残らない。選挙に出る以外に道はなかった。

 とはいえ、人前での演説なんてしたことがない。どうすれば市民の心を掴めるのか――そう思い、街の人々の思考を読ませてもらうことにした。

 広場に向かい、スキル【読心】を発動させる。

 『税金が低い方がいいな……』『衣食住の保証が欲しい……』『子供がお腹を空かせてる。なんとか食料を安定させてくれないか』『おっ○いの大きいお姉さんが欲しい……』

 ――おっと、余計なものを見た。

 気を取り直して、さらに思考を拾っていく。切実な声ばかりだ。この街の人々は、長年の搾取で疲弊しきっている。誰もが明日の生活に不安を抱え、希望を失いかけている。――この人たちを救えるのは、俺しかいない。

 そう思うと、責任の重さに押し潰されそうになる。でも、同時に使命感のようなものも湧いてくる。俺は、この街を立て直す。誰もが安心して暮らせる場所にする。

 そのためには、まず選挙に勝たなければならない。


 まとめると市民ウケがいいのは3つくらいだ。


・食料安定 → これは俺のスキルを使えば…

・税軽減 → うまくやれば対処できるだろう。

・安全保障 → これは……なんとかなるだろう。


 馬小屋に戻ると、リーリャが心配そうな顔で俺を迎えた。

「ルカ、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。明日、俺は選挙に出る」

 リーリャの目が驚きで見開かれる。

「でも、ルカはまだ5歳ですよ……?」

「関係ない。俺には勝算がある」

 そう言って、俺は明日の戦略をリーリャに説明した。彼女は最初は不安そうだったが、次第に表情が明るくなっていく。

「……わかりました。ルカを信じます。」

 その言葉が、俺の背中を押してくれた。


 明日は俺と街の未来を賭けた戦いだ。

 この選挙に負ければ、俺の馬小屋生活はさらに地獄に落ちる。

 もう後がない――絶対に勝つ。そして、この街を俺の手で救ってみせる。



 翌日、街の中央広場には朝から大勢の市民が集まっていた。

 新しい領主を決める選挙――この街の未来を決める、歴史的な一日だ。

 俺とリーリャも、人混みに紛れて広場の端に立っていた。俺は目立たないよう、フードを深く被っている。

「ルカ、緊張してる?」

「……いや、あんまりかな。」

 正直に言うと、かなり緊張していた。人前で話すなんて、前世でも今世でも経験がない。しかも相手は何百人もの大人たちだ。

 広場の中央には演台が設置され、その周りを市民たちが取り囲んでいる。ざわざわとした話し声が響く中、司会者が前に出た。

「それでは、新領主選挙を開始します!まず最初の立候補者、エドワード・グレイ様です!」

 拍手の中、立派な服を着た中年男性が演台に上がった。

「諸君、私を選べば安泰だ。私は名門グレイ家の出身。高貴な血筋と豊富な経験を持っている。この街を正しく導けるのは、この私しかいない!」

 威圧的な口調で語る男に、市民たちは微妙な反応を見せる。

 俺は【読心】を発動させた。

 『……偉そうだな』

 『こいつ、本当に街のこと考えてるのか?』

 『また搾取されるんじゃないか……』

 そして、こいつの思考も読んだ。

 『愚民どもめ。領主になれば、この街から絞り取れるだけ絞り取ってやる』

 やはりか。表向きは立派なことを言っているが、中身は腐っている。

「次の立候補者、マルコ・バーンズ様です!」

 今度は商人風の男が演台に上がる。

「皆さん、この街に必要なのは秩序です。税金を適正に徴収し、警備を強化すれば、必ず安全な街になります。多少の負担は我慢していただきますが、それが皆さんのためです!」

 またしても市民たちの反応は冷ややかだ。

 『また税金を上げるのか……』

 『今でも苦しいのに……』

 こいつは…

 『税金さえ集められれば、あとはどうでもいい。領主の地位が欲しいだけだ』

 こいつもダメだ。結局、自分の利益しか考えていない。

「そして最後の立候補者……ルカ・フォルデン様です」

 俺の名前が呼ばれた瞬間、広場全体がざわついた。

「フォルデン……?」

「あの不正で有名なフォルデン家の!?」

「息子まで出てくるのか……」

 ざわざわとした不安と敵意が渦巻く。

 リーリャが俺の肩を優しく押した。

「ルカ、大丈夫。あなたなら大丈夫」

 その言葉に背中を押され、俺は演台へと向かった。

 一歩一歩、足を進める。周囲の視線が突き刺さる。 心臓がバクバクと鳴っている。

 演台に上がると、目の前には何百人もの市民たち。その全員が、疑いと不信の目で俺を見ている。

 ――やばい。頭が真っ白だ。

 昨日考えた演説の内容が、すべて吹き飛んだ。

 喉が渇く。声が出ない。

 沈黙が続くにつれ、市民たちのざわめきが大きくなる。

「おい、何も言えないのか?」

「やっぱり子供じゃダメだ」

「時間の無駄だったな」

 このままじゃダメだ。何か言わなきゃ――

「ぼ、僕は……」

 震える声が出た。

「僕は、街を復興させたいです!」

 シンプルすぎる言葉。緊張で、それしか言えなかった。

 市民たちの視線が、一瞬だけ和らいだ気がした。

「僕の両親は、この街から多くのものを奪いました。それは事実です。でも、僕は違います!」

 少しずつ、言葉が出てくる。

「僕には、この街を元に戻す力があります。食料を作り、道を整え、みんなが笑って暮らせる街にします!」

 飾った言葉じゃない。ただ、心の底から思っていることを口にした。

「僕は、この街の人たちに謝りたい。そして、これから先、この街のために全力を尽くします!」

 その瞬間――

 パチパチパチ。

 誰かが拍手を始めた。それが広がっていく。

『……本気みたいだな』

『子供なのに、ちゃんと考えてる』

『もしかしたら、この子なら……』

 市民たちの思考が変わっていくのが分かった。

 疑念は残っている。でも、希望の光が見え始めている。

「それでは、投票を開始します!」

 司会者の声で、市民たちが投票箱へと向かい始めた。



 投票が終わり、開票が始まった。

 俺とリーリャは、広場の隅で結果を待った。

「ルカ、きっと大丈夫だよ。一票でも多ければいいんだから。私が入れといたからね。」

 リーリャが励ましてくれるが、俺の手は震えていた。

 もし負けたら、もう後がない。

 ――頼む。頼むから……。

「開票結果を発表します!」

 司会者の声に、広場が静まり返る。

「エドワード・グレイ様、48票」

「マルコ・バーンズ様、52票」

「ルカ・フォルデン様……」

 一瞬の沈黙。

「312票!」

 その瞬間、広場が歓声に包まれた。

「やった……やったぞ!」

 リーリャが俺を抱きしめる。

「ルカ、おめでとう!」

 俺は、信じられない気持ちでその場に立ち尽くしていた。

 ――勝った。本当に、勝ったんだ。

「新領主、ルカ・フォルデン様の当選を宣言します!」

 拍手と歓声が響き渡る。

 俺は演台に呼ばれ、もう一度市民たちの前に立った。

「ありがとうございます!僕は、必ずこの街を復興させます!」

 その言葉に、市民たちは温かい拍手で応えてくれた。

 ――これが、俺の新しいスタートだ。



 選挙の翌日、俺は早速行動を起こした。

 街の復興には、俺一人では無理だ。リーリャだけでも足りない。信頼できる仲間が必要だ。

 そこで、側近を募集することにした。


 募集の張り紙には、こう書いた。

【側近募集】

 本気で街を復興させたい者、求む。

 年齢・経験不問。ただし、覚悟がある者のみ。

 張り紙を街の各所に貼ると、驚くほど多くの人が集まった。

「100人を超えてる……」

 リーリャが驚いた声を上げる。

 旧屋敷の一室を面接場所にして、一人ずつ話を聞くことにした。

 だが、ほとんどの応募者は

 『楽な仕事がしたい』

 『領主の側近なら、給料が良さそうだ』

 『どうせすぐに潰れるだろうが、とりあえず応募しとくか』

 【読心】で本音を読むと、がっかりする内容ばかりだった。

「次の方、どうぞ」

 リーリャが次の応募者を呼ぶ。

 入ってきたのは、すらっとした顔立ちの良い青年だった。

「名前はソルシダです。元傭兵を務めてました。」

 優しく、落ち着いた声。

「傭兵をやっていたが、戦に疲れた。この街で、本当に守る価値のあるものを守りたい」

 その目には、確かな決意が宿っていた。

 【読心】を使う。

 『この子供が本当に街を変えられるのか?……だが、試してみる価値はある。俺も、もう一度信じてみたい』

 ――この人は、本物だ。

「ソルシダさん、採用です。街の警備隊を任せます!」

「……本当か?」

「本当です。あなたの力が必要です」

 ソルシダは少し驚いた表情を見せたが、すぐに力強く頷いた。

「分かりました。この命、お預けします!」

 次に入ってきたのは、眼鏡をかけた痩せ型の中年男性だった。

「ハーレンと申します。元商人でして、経営や交渉には自信があります」

 知的な印象を受ける。

「前の領主の悪政で、商売が立ち行かなくなりました。でも、この街にはまだ可能性がある。それを引き出したい」

 【読心】を使う。

 『面白い。5歳の領主か。普通なら無理だが……この子の目は本気だ。この街が変わるところを、見てみたい』

 ――この人も、信じてくれている。

「ハーレンさん、採用です。街の商業振興を任せたい」

「ありがとうございます。期待に応えます」

 こうして、俺の側近が揃った。

 リーリャ、ソルシダ、ハーレン――そして俺。

 この4人なら、街の復興を成し遂げられる。



 側近が揃ったその日の夜、俺たちは旧屋敷の一室に集まった。

「まずは、この街に名前をつけたい」

 俺の言葉に、3人が顔を上げる。

「名前……ですか?」

 リーリャが首を傾げる。

「ああ。この街には、もう『フォルデン領』という名前は似合わない。新しい街には、新しい名前が必要だ」

 俺は少し考えて、言った。

「リバイラル・アルデンハイム。復興を願って、この名前にしたい」

 ソルシダが腕を組んで頷く。

「悪くない。再生と希望を感じる名ですね。」

 ハーレンも賛成するように微笑む。

「良い名前です。市民たちにも受け入れられるでしょう。」

「じゃあ、決まりだ。明日から、この街はリバイラル・アルデンハイムだ」



 翌朝、俺は街の外れにある荒れ果てた畑へと向かった。

 言葉だけでは、市民は動かない。まずは結果を見せなければ。

 ――そうだ、作物を作ろう。

 俺のスキル【農業】を使えば、この枯れた土地でも作物が育つはずだ。

 畑の中央に立ち、スキルを発動させる。

 すると、視界に半透明の文字が浮かんだ。


【農業スキル発動】

土壌改良を開始しますか(本日の回数2/2)

YES / NO


 心の中で「YES」と答える。

 その瞬間、足元の土がほんのりと光り始めた。

 枯れ果てていた土が、見る見るうちに柔らかく、肥沃な土へと変わっていく。

「すごい……」

 リーリャが驚きの声を上げる。

 次に、俺は頭の中で「トマト」を想像した。

 すると、土の中に種が撒かれる感覚がした。


【作物:トマト】

成長速度:24時間で収穫可能


 ――明日には、収穫できる。

「リーリャ、市民に声をかけてくれ。職がない人たちに、集まってもらいたい」

「分かった!」



 その日の午後、畑には500人ほどの市民が集まっていた。

 みんな、俺の両親のせいで仕事を失い、生活に困っていた人たちだ。

「皆さん、見てください」

 俺が指差した先には、昨日まで何もなかった畑――そこに、青々とした作物の芽が出ていた。

「え……?」

「昨日は何もなかったのに……!」

「これ、本物か?」

 市民たちがざわめく。

「明日には収穫できます。この街の土は枯れ果てていて、まともに作物が育たなかった。でも、僕のスキルを使えば、作物が育ちます」

 市民たちの目が、希望の光を帯び始める。

「皆さんに頼みたいことがあります。この街を、一緒に作り直してほしい」

 俺の言葉に、市民たちが前のめりになる。

「まず、鉱山経験がある人には、近くの鉱山でレンガの原料となる粘土を採ってきてほしい。道を作るために必要です。」

 手を挙げる人たちが現れる。ーー100人くらいだ。

「そして、残りの方には、この街を出て行った人たちの空き家を取り壊してほしい。その資材を使って、新しい建物を作ります」

 市民たちの表情が、どんどん明るくなっていく。

「報酬は、収穫した作物で支払います。そして、街が復興したら、ちゃんとした給料を出します」

「やります!」

「俺たちも協力する!」

「この街を、もう一度立て直そう!」

 歓声が上がる。

 ――これが、復興の第一歩だ。



 以前、俺は街の中央に大きな木箱を設置した。

「これは目安箱です。皆さんの意見や要望を、ここに入れてください」

 最初は誰も使わなかったが、数日経つと少しずつ意見が集まり始めた。

 夜、俺はその意見を一つ一つ読んだ。

『街に警備がいないので、夜が怖い』

『商売を再開したいが、どうすればいいか分からない』

『他の街と交流したい』

 市民たちの声を整理すると、やるべきことが見えてきた。

 1. 街の治安を守る

 2. 街での商売を活発にする

 3. 他の街との外交を結ぶ

「まずは、優先順位をつけよう」

 俺は側近たちを集めた。

「ソルシダ、街の警備をよろしく。」

「任せてください!」

 ソルシダが力強く頷く。

「ハーレン、街の商売を活性化させてほしい。市場を作って、商人たちが戻ってこられる環境を整えたい」

「了解しました。」

 ハーレンが眼鏡を直しながら答える。

 そして外交は、俺が担当する。

 ただ、今はまだこの街に魅力がない。

 もう少し整ってから動くとしよう。


 リーリャが心配そうに尋ねる。

「ルカ、大丈夫?無理しないでね」

「大丈夫だよ。みんながいるから」

 そう答えると、リーリャは安心したように微笑んだ。



 この日の夕方、仕事を終えて屋敷に戻ると――

「ルカ、大変ですよ!」

 リーリャが険しい様子で駆け寄ってきた。

「どうしたの?」

「あの……あなたのご両親が、屋敷の前に……」

 ――両親?

 嫌な予感がした。

 屋敷の門の前に行くと、そこには見覚えのある二人の姿があった。

「あら、ルカ。久しぶりね」

 母が、まるで何事もなかったかのように笑顔で言った。

「……何の用だ」

 俺は冷たく言い放つ。

 父が一歩前に出る。

「ルカ、この屋敷は元々我々のものだ。返してもらおう」

「は?」

 信じられない言葉だった。

「お前たちは、俺を置いて逃げたんだぞ。今さら何を言ってる」

「それは仕方なかったのよ。でも、私たちはまだ正式な辺境伯なの。あなた、国王に報告してないでしょう?」

 母の言葉に、俺は息を呑んだ。

 ――しまった。

 選挙で当選したが、国に正式な報告をしていなかった。

 つまり、法的にはまだ両親が辺境伯のままなのだ。

「だから、この屋敷も土地も、まだ私たちのものよ。さあ、出ていきなさい」

 母が勝ち誇ったように言う。

 その瞬間――

 シュッ。

 リーリャの短剣が、父の喉元で止まった。

「これ以上、ルカに近づいたら……殺します」

 リーリャの声は、普段の優しさとは全く違う、冷たいものだった。

「り、リーリャ!お前、メイドのくせに……!」

 父が怯えた声を出す。

 俺は一歩前に出た。

「あんたたちには、もう何の権利もない」

「な、何を……!」

「俺には、帰る場所がある。信じてくれる人たちがいる。この街は、もう俺のものだ」

 父と母の顔が、悔しさで歪む。

「あんたたちの居場所は、もうどこにもない」

 その言葉に、両親は何も言い返せなかった。

 しばらくの沈黙の後、二人は悔しそうな表情で踵を返し、夜の街へと消えていった。



 両親の背中が見えなくなると、リーリャが短剣を下ろした。

「ルカ、大丈夫?」

「……ああ。ありがとう、リーリャ」

 俺は深呼吸をして、夜空を見上げた。

 逃げた両親も、失った過去も、もう追わない。

 俺には今、守るべき街がある。

 信じてくれる人たちがいる。

 ――こうして、俺の本当の復興劇が、幕を開けた。



 ここから二十年、俺は結婚し、子を授かる。

 この街はみんなの「帰る場所」になった。

 完全な復興の話は——また別の物語だ。


***


【後書き】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

本作で描かれなかった空白の20年間の物語はなろうで連載中です。

もし気に入っていただけたら、ぜひ覗いてみてください


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不正貴族の息子に転生した俺。親の全借金を背負わされた代わりに、辺境伯の名誉と土地だけをもらったので、領地を再興しようと思います。 天音楓 @amane_kaede

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