風の声
ケーエス
風の声
空を漂っている雲がある。丸い雲、平たい雲。小さい雲、大きい雲。
どんなに忙しい日でもそれはゆったり動いていた。
だが、今日はとてつもなく風の強い日だった。あれだけのんびりしていた雲が次々と過ぎ去っていく。風が吹くたび、外に干してあるタオルが、洗濯棒の上を行ったりきたり、ギイギイと音を立てる。時折イノシシか何か猛獣が矢を受けて人間に捕獲され、うめいているような声が聞こえた。
「なるほど、ここはそんな感じなのか……」
「え、なんて?」
彼女がふと顔を上げた。いつものように、変なものでも見るみたいに。
「いやあ、うちの風の声ってもっと優しいんだよ」
まるで女神が鼻歌を歌っているかのような。低音と高音。そして吹き付ける空気。それを全身で感じる。その瞬間が好きだった。
「だからここの風は猛獣みたいでちょっと嫌だな」
「そう? ゾウみたいにも聞こえるけど」
窓の外を見てにかっと笑う。
「ゾウ……?」
「ほら、ママが子どもたちを呼んでる」
相変わらず面白いことを言う人だ。彼女の視界の先はいつも雲一つない空で、言葉に陽光に照らされた温かみがこもっている。だから好きだった。
目を閉じて、耳を澄ましてみる。
よく聞けば確かに、そうかもしれない。母親の象が子どもの象を呼んでいるような……。
その時、歌が聞こえた。
ん? と思って目を開けたその瞬間、轟音が響いた。今までで一番強い風だ。タオルが束になって暴れる、暴れる。そしてどさっと落ちた。
ため息をつく。よろよろと立ち上がる。掃き出し窓を開けるなり、全身に風を浴びる。タオルたちを集めて部屋の中を見た。
当然もう誰もいなかった。
そろそろこのことに気づくべきかもしれない。
風の声 ケーエス @ks_bazz
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます